あ、寝ぐせ……。
夏休みに入る一週間程前のある日。
俺たちはそう、まさに期末試験の真っ最中だった。
キーンコーンカーンコーン。
「はい、鉛筆置いて後ろから答案用紙あつめてー」
一番後ろの席の奴が俺の肩先に答案用紙を出してよこした。
俺はその上に自分のを重ねると、前に渡す。
「このテスト赤点の者ー、夏休みはないと考えてくれていいぞー」
ああ、先生それだけは嫌です……。
高校2年の夏休みがどれだけ重要なものか、あなたは全く分かっていない。
部活にバイトに海に夏祭りに……。
俺は何気なく、ななめ前に座っているシューイチの後頭部を眺めた。
今年もどうせ塾の夏期講習のスケジュールめいっぱい詰め込んでんだろうなー。
それ以上頭良くなって、お前は一体なにを目指しているんだ?
社長か? 今よく聞くCEOか? それとも科学者か?
まさかの総理大臣とか?
何でもいいけど、たまには俺と遊ぼーぜー?
心の中で言った言葉がまるで聞こえたかのように、唐突にシューイチが振り返った。
「……?」
口の動きで何かを俺に伝えようとしている。
あ、あ、い?
あ、違う? えーと……。
は、な、び
あー、花火。
い、しょ、に、いかね?
一緒に…………。
「まじか!」
俺は思わず大声を出した。
周りの奴らが不思議そうな顔でこちらを見る。
「残り2教科も絶対アカ取んなよ」
今度ははっきり聞こえるようにシューイチは言った。
「おう!」
ハッ、ハッ、ハッ! シューイチ君、きみは俺のことを少し侮っているね。
中学までの俺と今の俺とはレベルが違うのだよ。
お前と同じ高校に入るために俺がどれだけ頑張ったか。
今だってお前に置いてかれないように――。
俺はシューイチの後頭部を眺めた。
少し伸びたまっすぐな髪の毛が襟足にかかっている。
お前の背中を俺はいつだって追いかけているんだから。