アツはナツい。
夏休みのある晴れた日の午後、俺は扇風機にへばりついたままでシューイチからのメールを待っていた。
「あー、あついあついあついあつい」
現代社会にはクーラーというそれはそれはありがたーい文明の利器が存在するというのに、俺の部屋は未だその恩恵に与れてはいない。
母と妹はリビングで涼しく快適に過ごしているに違いないが、一緒にいると何かとこき使われるのが目に見えている。
かといって今日のような暑い日に外出するなど考えたくもない。
「シューイチ、まだかー」
俺がダメ人間になる前に……。
頼れるのはシューイチだけだ。
ピロロローン♪
メールの着信音が鳴ると同時に受信ボックスを開く。
今日は塾が18時で終わる。
地下鉄の入り口で18時30分に落ち合おう。
それじゃあ後程。
「っしゃあ」
思わずガッツポーズをしてしまった自分に、いやいやそれは違うだろ……とツッコんだ。
ヒューーン ドカーーーーーン!!
ヒューーン ドカーーーーーン、ドカーーーーーン!!!
「まじでキレイじゃね? 花火」
「ああ、そうだな」
「シューイチたこ焼き食う?」
「お前は食べるか見るかどっちなんだ?」
「え? 両方だけど」
俺はたこ焼きを頬張ると、頭上に咲き乱れる大輪の花を仰ぎ見た。
暗い夜空に次々と打ち上げられる花火は、今までに見たどの花火よりも美しく見えた。
「…………」
「え? なんか言った?」
シューイチが小声で何やら呟いたが、花火の音でかき消された。
「単なる独り言だよ……」