溢れる気持ち。
「清野さん!!」
病院の廊下で清野さんの姿を見つけた俺は、駆け寄ってその腕をつかんだ。
「シューイチは、シューイチは無事なんですか?!」
清野さんは憔悴した表情に、それでも口元に微かな笑みを浮かべて俺を見た。
「来てくれたのね」
そう言って俺の右手を取ると、自分の両手でそっと包み込む。
「脩一君、ついさっき集中治療室で意識を取り戻したの」
それを聞いた俺は、安堵のため息と共に思わずその場に膝をついていた。
追い付いた担任が清野さんから詳しい話を聞いている間、俺と高瀬は二人して集中治療室の前の廊下にいた。
白いカーテンに遮られて中の様子は分からないが、心拍を知らせるピッピッという一定のリズムが絶え間なく聞こえている。
「シューイチ……」
そう呟いた俺に高瀬が言った。
「シューイチは大丈夫だよ。絶対!」
「そうだよ……な」
「当たり前じゃん! だから、そんな顔してんじゃねー」
そう言って俺の背中をバシンと一発叩いた。
「お前がそんな顔してたら、シューイチもオチオチ寝てらんねーな」
「え?」
「え?って、お前ら付き合ってんだろ?」
「は? ……ええっ!」
「いやいや、いくら俺でも気付くだろ。シューイチなんか隠そうともしてねーしさ」
「な、なにを?」
「なにをってさ、お前への気持ちっていうの? だだ漏れてんじゃん」
「!?…………」
「マジか?! 本人が気づいてねーのかよ。アイツってみんなに平等に優しいけどなんか距離があるっつうかさ、でもお前は違うんだよなー。アイツがお前を見るときの目がさー、なんかもうスッゲー優しいの」
俺はどうしようもなく胸が苦しくなって、鼻の奥がツンとして、でも必死に涙は堪えた。
高瀬は困った様に微笑んだあと、大きな手で俺の頭をポンポンと撫でた。
「お前おいてくわけねーって。シューイチは大丈夫だよ」
「ああ」
「それにさ、早いとこ戻ってきてもらわないと俺困るし……」
「何が?」
「誰に宿題見せてもらえばいいんだよ」
「なっ!! 宿題くらい自分でやれよ!!」
「できたら苦労しねーんだよ」
――――――ありがとう。
ここに高瀬がいてくれて本当に良かった。
俺一人だったらきっと耐えられなかった。
「お前らここにいたのか。今日はまだ面会謝絶だから一旦学校に戻ろう。精密検査の結果が問題なければ2~3日中には一般病棟に移れるそうだ」
担任が戻ってきて、俺達は病院をあとにした。
俺がシューイチに会えたのは、それから3日後のことだ。