宿題は家でやるものです。
ある日の休み時間、シューイチは相変わらず眉間にしわを寄せて何やら難しげな本を読んでいる。
こういう時は無闇に話しかけない方がいい。
まあ、話しかけたところで無視されるということを親友の俺は知っている。
「おい、シューイチ。つぎの数学の宿題ちょっと見せてくんね? 俺当てられそうなんだよなー」
今話しかけたのはシューイチの後ろの席の高瀬だ。
馬鹿な奴。
シューイチは『宿題見せて』が大嫌いなのだ。
以前に俺が同じことを頼んだとき、
「ごまかして成功することには何の意味もない。堂々と失敗することの方がお前のためだ」
とかなんとか、結局見せてはもらえなかった。
案の定、聞こえないふりを決め込んでいる。
「おーい、シューイチ聞こえてる? マジで頼む」
ほら、無理だって。
親友の俺ですらダメなものをお前に見せるわけないって……って、あれ?
「ああ、悪い。ほらノート」
「サンキュー」
えっ?
なんで?
俺にはだめで高瀬はいいのか?
俺はガタンと派手な音をたてて席を立つと、シューイチの読んでいる本を取り上げた。
「ちょっと来いよ!」
「……」
俺はシューイチの腕を掴んで立たせると、廊下の突き当りまでグイグイと引っ張っていった。
「どういうことだ?」
「何が?」
「前に俺が宿題写させてって頼んだときは、断っただろ? なんで高瀬はいいんだよ!」
「……なんで怒ってるんだ?」
「なんかムカつくんだよ!」
そう、なんかムカつくんだ。
ただそれだけだ。
「人がやった宿題を写すのは簡単だ。取り敢えず、当てられて困ることは回避出来る。だがそれは果たしてお前の力になるのか?」
「じゃあなんで高瀬は……」
「俺にとっては別にどうでもいい人間だから」
あまりにも冷たい言い草に何だが高瀬が気の毒な気がしたが、心のどこかでほっとしていた。
「じゃあ、シューイチにとっての俺って、何?」
少し困らせてやりたくてそう聞いてみた。
「俺にとって……どうでもいい人間じゃないってことだ」
表情一つ変えずに言い切られた。
反応に困るのはいつだって俺の方だ。