震える足。
第16話『伝染るんです。』の続きです。
――――――どうか、どうかシューイチの心の傷が一日でも早く癒えますように。
そう願った俺のせいなんだろうか。
だから神様は、辛い記憶ごとシューイチの全てを消してしまったんだろうか。
アンタ……、誰?
俺を見てそう言ったシューイチの瞳の中にあったのは、翳りのないどこまでも透明な硝子の器だった。
なあシューイチ、たぶん俺達は神様に試されているんだと思わないか?
だったら、だったら俺は――――。
受けて立ってやるよ。
また明日――――。
そう言って別れたあの日の夜、シューイチは列車が動き出してもまだそこに立ったままで俺を見ていた。
俺はなんとなく不安になって、あの後、家に着いてすぐシューイチにメールをした。
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今、家に着いた。
さっきはホントにありがとう。
辛い事話してくれて。
それからごめん。
辛い事思い出させて。
これからはたくさん楽しい事して、一緒にいい思い出いっぱいつくろうぜ!!
それじゃあ、明日学校で。
おやすみ。
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シューイチからの返信はすぐにきた。
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さっきはありがとう。
おやすみ。
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「なあ、シューイチって今日休みか?」
翌日の一時間目の授業の後、高瀬が話しかけてきた。
「アイツ休むなんて珍しくね?」
「昨日駅で別れる時は何も言ってなかったけど」
「ふーん。風邪でもひいたかな」
「朝礼終わってから何回かメール入れてるんだけどまだ返信こないんだよ。昼休みにでもまたメールしてみる」
俺はなんだか嫌な予感がしてしょうがなかった。
放課後、部活を休んで施設に行ってみよう。
いや、今直ぐにでもシューイチの無事を確かめに行きたい。
そう考えていた時、二時間目の開始を知らせるチャイムと同時に担任が勢いよく教室のドアを開けた。
「急用ができたので、この時間は自習をしていてください!」
そして再びドアを閉め、慌てたように職員室へと戻っていった。
「え? 何々?」
「ラッキー」
「急用ってなんだよ」
残された生徒たちのザワザワとした囁きの中、俺は思わず高瀬の顔を見た。
高瀬も恐らく俺と同じ考えでこっちを見ていたから目が合った。
高瀬が頷いたのを合図に俺たちは先生を追って廊下に出ると、職員室に走った。
「なんだお前ら、自習しとけって言っただろう?」
ちょうど担任が上着を羽織って職員室から出てきたところを捕まえた。
「シューイチに、シューイチに何かあったんですか?」
担任の表情が変わったのを俺は見逃さなかった。
「一緒に連れて行って下さい!!」
「まだ状況がわからんから……」
「お願いです。先生!!」
担任は少しの躊躇の後、よし分かった、と頷いた。
車に乗り込んだ俺たちは、担任から大まかな説明を聞いた。
昨日の深夜、シューイチが事故にあったらしいこと。
ひき逃げした車はまだ見つかっていないこと。
シューイチは今、○○大学附属病院の集中治療室に入っているということ。
頭を強く打っていて、まだ意識がないということ。
「俺の、俺のせいだ……。俺を駅まで送ったりなんかするから……」
そう言った俺の頭を高瀬が小突いた。
「お前のせいなわけ無いじゃん! しっかりしろって!」
車は30分ほどで病院の駐車場に到着した。
俺は転げるように車を降りると、病院の玄関へと走った。