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伝染(うつ)るんです。

 

 

シューイチは間近に俺の顔を覗きこむとクスリと笑って言った。


「お前ってスゲー解りやすい」


「何がだよ」


「今めちゃくちゃドキドキしてんだろ? こっちまで伝わってくる」


「ドキドキなんてっ……」


「お前がいつもそんな表情(かお)するから、伝染(うつっ)た」


 自分の心臓のあたりに右手を置きシューイチは瞼を閉じた。


「ドキドキして苦しい。これってさ、好きっていうやつだろ?」


「俺だって……、俺だって好きだのなんだのなんて、そんなことよく解んねーよ! でも、シューイチと一緒にいると楽しいし、安心するし、もっと一緒にいたいと思うし、心臓バクバクして苦しいし……」


 シューイチは安心したように小さくため息をもらすと言った。


「……やっぱり同じだ」


 俺はもう、まともにシューイチの顔が見られない。

 一体これはどういう状況なのだろう。

 俺はシューイチの事が好きで、どうやらシューイチも俺の事が好きらしいと言う。

 

 ――――好きとか愛とか曖昧な感情は理解できない。

 

 そう言ったくせに、俺への気持ちをこうして伝えようとしてくる。

 

 ――――同じ重さで愛さないといけない。


 それが出来なかったから母親を傷つけたとも……。

 そこへちょうど、最終の列車を知らせるアナウンスが待合室に響いた。


「俺、帰らなきゃ」


 慌てて改札に向かう俺の背中にシューイチが声をかけてきた。


「話、聞いてくれてサンキューな。お前に話せて良かった。ずっと聞いて欲しかった」


 俺は振り返り手を振って言った。


「話してくれてありがとう。じゃあな」


 改札を通ってホームに出てからも、シューイチはその場所に立ったままで俺を見つめていた。


「また明日、学校で」


 唇の動きだけでそう言った俺に、シューイチは頷いて答えた。


 出会ったころ、俺より少しだけ背の高かった少年は今では俺より頭一つ分身長が伸びた。

 相変わらず真っ直ぐな髪の毛は僅かに目にかかっている。

 少しだけ猫背なのも変わってはいない。

 微笑んでもどこか悲しげなところもそのままだ。

 それでも、ほんの少しでも、俺たちが出会ったことでシューイチの中で何かが変わっただろうか。

 そうであってほしいと思う。


 どうか、どうかシューイチの心の傷が一日でも早く癒えますように。

 その為に俺は何ができるのだろう。


 そんな事を考えながら、俺は帰りの列車に揺られていた。

 冷たく銀色に輝く月がどこまでもついてくる。



  

 次の日、シューイチは学校に来なかった――――――――。








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