ふたつめの告白。
「もしもし母さん? 俺だけどさ」
「あら、まだ部活終わらないの?」
俺とシューイチは人もまばらな駅の待合室の椅子に並んで腰かけていた。
スマホから聞こえてくる母の声は拍子抜けするくらい普段通りで、後ろでは妹がテレビを見て大声で笑っている。
「……うん、そう、少し遅くなる。シューイチも一緒だから大丈夫」
電話を切った後、シューイチが申し訳なさそうに呟いた。
「ゴメン」
「べつにいいよ、早く帰ったって妹がうるさいだけだし。それよりシューイチは? セイノさんだっけ? 心配するんじゃねえの?」
「俺は大丈夫。そのままバイト行くって連絡したから」
「あれ? バイトしてんの? 塾は?」
「ああ、それウソ。高校卒業したら施設出て一人暮らしするつもりだから」
「一人暮らし……。大学は?」
「担任が奨学金の話ししてたけど、俺は今のところ考えてない」
何だか急にシューイチが遠くに見えて不安になる。
こんなに近くにいるのに、手を伸ばせば触れられるのに、俺はいつもシューイチの背中を追いかけてる。
「母さんさー、シューイチ君が一緒なら安心ね、だって。少しは自分の息子を信用しろっての」
俺は軽く肩をすくめてみせた。
「安心か……。それじゃあ、おばさんの信用を裏切るわけにはいかないな」
そう言ってシューイチがイタズラっぽく微笑んだ。
「これで我慢しとくか」
シューイチの右手が俺の後頭部を軽く押し、チュッと音をたてて額にキスをした。
「なッ、ななな。こ、こここんなところでっ!!」
慌てて周りを伺うと、ななめ後ろの席で新聞紙を広げているサラリーマンと、出入り口付近で話し込んでいるおばさんが二人いるだけで、どちらもこちらに関心を示してはいなかった。
「せっかくだからもっと色々したいけど、さすがにここじゃダメだろ」
俺は真っ赤になった顔を見られたくなくて俯いた。
「お前……、マジエロいな……」
「あれ? 気付かなかった?」
そう言った時のシューイチの顔がやけに色っぽくて、俺はもうやけくそで答えた。
「知ってたよ。俺はもうずっと前から、そんなお前にドキドキしてた」
「……知ってたよ」
母さん、どうやらあなたは信用する相手を間違っているようです。
俺は心の中でそう呟いた。
「シューイチはさ、俺のこと、好き……なの?」
周りに聞こえないように耳元で囁いた。
シューイチは少し考えるような素振りの後、たぶん―――、とだけ言った。
「たぶんってなんだよ」
何だか腹が立ってアイツの肩を揺すった。
「一緒にいると楽しいし、安心する。それにどうしようもなくお前に触れたくなる時がある。これが好きということなら、俺はお前のことが好きだよ」
「なんだか本で読んだセリフみたいだな」
人が人を好きだと意識すること。
では自分は、何を持ってそうだと認識するのだろう。
シューイチの言葉は間違ってはいないが、何かが根本的に間違っているようなそんな矛盾を感じた。
「俺にもよく解らない。でも解りたいと思った。だから辞書で引いたり、調べたり」
「え? 辞書って……」
「解らないんだよ。ずっと一人だったから」
俺を見つめるシューイチの瞳が揺れている。
どことなく不安定で危うい色が滲んで見えた。