ひとつめの告白。
「ここは……?」
「俺の今の家」
「お前……の?」
「ああ」
俺とシューイチは、とある古びた一軒家の前にいた。
住宅街の一画、どこか優しく人を迎え入れてくれるようなその佇まいは、周りの景色と溶け合うように馴染んでいた。
くすんだ青緑色の屋根に薄いグレーの壁、開け放たれた二階の窓から幼い子供の笑い声が聞こえる。
「ここって……」
「児童養護施設」
「え?」
「俺は小6からここで世話になってる」
「小6……。どうして……」
聞いてしまった後で後悔した。
シューイチはどことなく悲しそうな笑みを浮かべて言った。
「父親は俺が生まれてすぐに亡くなった。ずっと母親と二人で暮らしてたけど、周りの大人が一緒に暮らすことは無理だと判断した」
俺は何も言えずに、ただシューイチの隣にいた。
もし今でも何か心に痛みがあるのなら、一緒に共有できたらいいのに。
俺はシューイチの手を無意識に掴んでいた。
「あれ? 脩一君お帰りなさい」
突然の明るい声に思わず手を引いた。
家のドアから顔を出した年配の女性が、こちらに駆け寄ってくる。
「ただいま帰りました。 清野さん」
「そちらはお友達?」
「はい 」
「もしかして……」
セイノさんと呼ばれた女性が俺の顔を覗き込んだ。
「もしかして、脩一君がいつも話をしていた」
シューイチは黙って頷いた。
俺は、はじめましてと頭を下げる。
「やっぱりそうだと思った!! 中に入ってもらったら? チビ達も脩一兄ちゃん帰ってこないって心配してるし」
「いえ、今日はもう遅いのでコイツ途中まで送ってきます」
「そう? 残念。じゃあ今度またゆっくりね」
セイノさんは心底残念そうに俺を一瞥すると、また家の中へと戻っていった。
「優しそうな人だね」
「ああ、すごい世話になってる」
シューイチが施設で育ったという事実を知って驚かなかったと言えば嘘になる。
でもそれよりも、ああいう人がシューイチの帰る場所にいてくれるということに、俺は心底ほっとした。
「駅まで送る」
「いいよ。すぐだし」
「もう暗いから」
確かに日も沈んで辺りは薄暗いが、かと言って男が男に送ってもらうというのもおかしな気がする。
「大丈夫だって」
「俺が、嫌なんだ」
真剣な目でそんな風に言うから、俺はそれ以上何も言えなくなった。
駅まで歩く間もお互い無言のままだった。
「じゃあ、ここで。シューイチも帰り気を付けろよ」
帰りの混雑はとうに過ぎた駅は人もまばらで閑散としていた。
「また明日な」
俺はそう言って手を振った。
定期を改札にかざそうとしたところで、シューイチが俺の手首を掴んで自分の方へと引き戻す。
俺は勢い余ってシューイチの胸に倒れこんだ。
「……お前に、まだ言ってないことがある」
「シューイチ?」
俺の手首を掴む手が微かに震えていた――――――。