ありがとうの意味、その4。
オレンジ色の柔らかな光が差し込む放課後の教室で、俺とシューイチは向かい合って立っている。
恐る恐る顔を上げるとすぐ間近で目が合った。
俺はなんだか胸の奥がザワザワして、シューイチの視線から逃れるように背を向けた。
この気持ちの意味…………あいつはそう言った。
「シューイチの気持ちの意味ってなんだよ。お前自身が解んねーなら、俺にはなおさら解んねーよ」
軽い調子で言ってみたが、少し声が震えた。
どうかシューイチに気づかれませんように。
俺の気持ち。
「…………」
「シューイチ!?」
不意に後ろから抱き竦められた。
教室のドアの向こう側で誰かの話し声が徐々に近づいてくる。
「なんだよ!! 放せって!!」
心臓がどうにかなりそうなくらいドキドキしている。
ヤバい、シューイチに聞こえる。
抱きしめる腕にいっそう力がこもった。
「お前はいつでも俺を認めてくれる。ありのままの俺の姿を素直にスゲーって言ってくれる」
「なに……言っ?」
「ありがとう。お前がいるから俺はここに存在できるんだ」
丁度その時、話し声の主が教室の前を通り過ぎていった。
隣のクラスの奴と、もう一人は高瀬だ。
今この状況は本当に現実なのだろうか?
どうしてこうなった?
背中にシューイチの温もりを感じる。
でもそれがぜんぜん嫌ではない自分がいる。
やっぱり俺は…………。
抱きしめる腕を逃れて、俺はまっすぐにシューイチの目を見た。
「どういうことだよ?」
「俺はずっと透明人間だった」
「透明人間?」
「お前が俺をフツーの人間に変えてくれた」
「ごめん、意味がよく理解できねーんだけど……、以前のお前がどうだろうと、俺は今のお前が好きだよ?」
この好きがどういう種類のものなのか今の俺にはまだ解らない。
いや、単に知るのが怖いだけなのかも知れない。
「ありがとう」
そう言って優しく笑うシューイチの表情を見ていると、俺は何を恐れているんだろう……と思えてくる。
「ずっと話そうと思ってたんだ」
シューイチは覚悟を決めたかのように固く拳を握りしめている。
「無理に話す必要ないって」
「いや聞いてほしいんだ。俺の全てを知ってほしい」
シューイチは鞄を手に取ると、教室のドアへと向かった。
「一緒に来てほしい」
「ありがとうの意味」はこれで終了です。
次回から、シューイチの過去が徐々に明らかになっていく予定です。