ありがとうの意味、その3。
シューイチと始めて出会った時から、かれこれ3年以上の月日が経った。
長いこと友達をやってきたけど、昨日の高瀬の件がなければ喧嘩という喧嘩はただの一度もなかったように思う。
あいつは無口だし、まして自分のことをあまり話したがらないから、時々なんとなく俺は不安になるんだ。
シューイチにとっての俺って何なんだろうって。
中学2年で転校してくるまで何所の学校に通っていたのかとか、家族のこととか、未だ何一つあいつの口から聞いた事が無い。
いや、俺のほうから尋ねたことはあったんだ。
あれは友達になって間もなくの頃だ。
「シューイチってさあ、ここ来る前はどこ中だったの?」
そう何の気なしにシューイチに尋ねた。
「………………」
「え?」
「お前に……関係ない」
「は? 何だよ、その言い…………」
あの時俺は理解したんだ。
今後二度と転校してくる以前のことは聞かないって。
シューイチにあんな表情はもうさせたくないから――――。
「シューイチ、昨日はごめん」
「何が?」
「何がって、ほら、高瀬のことで、俺お前にひどい事言ったから……」
「ひどい事?」
「フツーの奴が考える事なんてお前には解らないとか、いろいろ」
「ああ、そのこと」
「まじで俺どうかしてたわ。そもそもなんで高瀬の居眠りのことで俺たちが喧嘩しなきゃなんないんだ?」
「あれは喧嘩だったのか?」
「だってお前あの後すぐ教室出てったし」
「それは、昼飯食ったら職員室に来いって先生に呼ばれてたから」
「それまじで? それならそうと一言いってから行けよー。うわーなんか俺恥ずいーーー」
「ごめん」
「え? いや、それは置いといて、昨日のことはやっぱ俺が悪いから、ほんとごめん」
そう言って頭を下げた俺の髪の毛をシューイチがかき混ぜた。
「わわっ! 一応セットしてんだからやめろってー」
照れ隠しなのがバレないように両手でシューイチの肩を押した。
「……悪いのは俺だよ」
「シューイチはべつに……」
「いや悪いのは俺なんだ」
「?」
「少し…………」
「え?」
「お前が高瀬のこと庇うから、少しイラついた」
「イラついた??」
「俺もよく解らねー」
「シューイチでもわかんねーことあるのかよ」
「あるよ」
「例えばどんな?」
「例えば……この気持ちの意味」
「意味?」
「そう。俺はお前にいつだって感謝してるんだ」
「べつに感謝されるようなことしてないけど」
「してるよ。ありがとうじゃ足りないくらいに。だから、この気持ちの意味を知りたいんだ」
そう言ったシューイチの長い指が俺の頬をスッと撫でた。
「シューイチ?」
「お前に触れたいっていう、この気持ちの意味……」