表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/28

ありがとうの意味、その2。

「新入生代表、飯田脩一」


「はい」


 壇上に立ったシューイチと一瞬目が合った。

 俺はそっと拳を握って見せる。


「草花が一斉に芽吹き始める春の暖かな日差しの中、我々新入生一同はこうして本校の生徒の一員と――――――」


 後ろの方で誰かが小声でボソボソと話しているのが聞こえてきた。


「あいつが入試トップで合格した奴か」


 そうそう、そんでもって俺の親友ー。

 スゲーだろ。

 俺は心の中でほくそ笑んだ。


 


 ――――入学式当日。

 俺は晴れてシューイチと同じ○高の生徒になった。

 こうしてシューイチが新入生を代表して挨拶しているのを、周りの奴らに自慢してやりたい欲求をどうにか堪えていた。


「――本校で多くの貴重な経験と――――――…………」


 シューイチの少し低めで落ち着いたトーンの声が体育館に響く。

 あいつの声ってなんか好きなんだよなー。

 落ち着くっていうか……、ふだん無口だから感じるプレミア感っていうか、なんかこうドキドキ……。

 ああ、俺ってもしかして――――勉強詰め込みすぎて脳みそ飽和状態なのかも。

 

「……飯田だっけ?」


 後ろの席の誰かがまだ何か言っている。


「飯田……名前なんて言った?」


「さあ?」


 シューイチだよ、シューイチ。

 いいから黙って聞けよー。

 シューイチが話してんだからさー。


 心の声でそう抗議してみたが、相変わらず小声でぶつぶつ言っている声がやけに耳障りだ。

 本気で文句を言ってやろうと後ろを振り向きかけた時。


「あいつ、なんか見覚えあるんだよなー」


 あれ? シューイチの知り合いなのか?

 俺はそっと振り返ってみたが、そこに知った顔はなかった。


「あー、言われてみれば俺もそんな気してきた」


「だろー? そーいえば中学の時に転校して行った奴いたじゃん」


「いたっけ?」


「いたよ。そいつに顔が何となく似てる気がするんだよなー」


「えー? ぜんぜん覚えてない」


「だけど名字が確か…………」


 俺は何となく嫌な予感がして、それ以上聞こえないようにシューイチの声に集中した――――――。




 入学式後、俺はさっそくシューイチの許へと急いだ。


「シューイチ、おつかれ! 代表挨拶スゲー良かったよ」


「そーでもねーよ」


「俺なんかお前が話してる間中、ドヤ顔してたと思う」


「なんでお前がドヤ顔すんの?」


「俺もよく解んないけど、鼻高々っていうかさー」


 シューイチは珍しく照れたように俯いた後、


「ありがとう…………」


 と言って、俺の髪の毛をクシャッと撫でた。


「お前ってホント…………」


「……?」


 シューイチは頭がものすごく良いくせに、肝心な時に言葉が足りないと思う時がある。

 お前ってホント……おかしな奴?

 お前ってホント……面白いやつ?

 お前ってホント…………………。

 俺はシューイチになんて言ってほしいんだろう……?




 なんとなくだけど、さっきの奴らが話していたことはシューイチに言わない方がいい気がした。

 それにもしも俺に話していない何かがあるのなら、それは、シューイチ自身の口から聞きたい。



 あの時の俺は確かにそう思った。

 それは今も変わらない。


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ