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固有魔法の脅威1

 グラウンドにはたくさんのギャラリーができていた。セレスティアと試合を行ったときよりも遥かに人数が多い。

 本来アカデミーは私闘を禁止しているのだが、赤髪の少年の悪知恵で、今回の戦いは認められたらしい。なんでも彼曰く、これから俺と彼で行う戦いは『訓練』だとのこと。おそらくグランドの使用許可を得るための書類提出の際、それの使用目的欄に訓練とかでも書き込んだのだろう。

 あっさり許可を出したことから、たぶん、こういうことは前々からよくあったんだろうな。

 赤髪の少年が待つグラウンド中央へ向かって歩を進めると、彼の隣にいたテレサがこちらへと走ってきた。


「よぉ、来たみたいだな」


「まあ一応、約束だからな」


「オズ。私のところの連中が迷惑をかけた、すまない」


 そう言ってテレサは目を伏せた。


「いや、気にしなくていい。トレーニングだと思って適当にやるよ」


「そう言って貰えると助かる」


「あれ? テレサ……そういえばセレスティアは?」


 ギャラリーを見回してみても、セレスティアの姿が見えない。彼女は普段、テレサにべったりだから、いればテレサにくっ付いてくるのだが。


「セレスティアなら、あそこにいるよ」


 テレサがグラウンド脇にある背の低い木を指した。


「ん?」


 木……まさか木の上か?

 視線をどんどん上げていってみると、生い茂る緑の頂上に金髪の少女の姿が……。


「なにやってんだあいつ?」


「下はギャラリーの数が多すぎて、満足に観戦できないんだとさ。それで……あそこが一番見やすいだろうって」


「そ、そうか」


 かれこれ何年もの付き合いになるのに、未だにあいつの行動パターンが読めない。天然ってある意味恐ろしいな。


「それじゃあな、頑張れよ」


 ばさっという音を立て、テレサの背に黒い硬そうな翼が生えた。彼女はそれを羽ばたかせると、セレスティアのもとへと飛んでいった。

 お前もそこで見るのか。


「おい、エインズリー。そろそろ始めようぜ」


 木へと向けていた視線を下ろすと、赤髪の少年がこちらを見ていた。彼の手には無骨な大剣が握られていた。剣を握っているということは、いきなり竜になって襲ってくるということはなさそうだ。

 テレサから聞いた話だが、竜族は人型で戦うときは武器を好んで使うらしい。


「わかった。それで……勝敗のルールは?」


 俺がそう尋ねると、少年は片方の口端を吊り上げた。


「この前行った模擬戦と同じでいいだろう。お前の意見はないのか?」


「意見はない、むしろ模擬戦と同じで安心したよ。それよりも……竜化しなくてもいいのか?」


 セレスティアのときはすぐに竜になっただろ? と付け加えると、少年は両手を広げた。


「あのときは相手がクラウディーだったからな。つっても、まさかいきなり弱点を突かれるとは思いもしなかったが……。それに、今回はお前で試してみたいことがあるんだ」


 台詞からして、やはり俺は結構嘗められているようだ。竜化をするまでもないらしい。

 試してみたいこと、という言葉が引っかかるが、俺は彼のその余裕を突かせてもらうとしよう。


「おおい、レーン!」


 少年が振り返って、後方で観戦している少年を呼びつけた。


「なにー?」


「審判やってくれ。そんで開始の宣言をしろ」


「ほーい、わかったよ」


 レーンと呼ばれた少年は、俺と赤髪の少年との間に入ると、


「それじゃあ、これから。……えーっと、アーサー・ベックフォード対オズウェル・エインズリーの試合を始める。では」


 始め! という掛け声と共に、赤髪の少年――アーサーは大剣を振り上げてきた。


「そおらっ!」


 振り下ろされた大剣を横に跳んで躱し、右手に白刃を作る。

 大剣が地面と接触した際、大きな火花が飛び散った。


「なんだ……?」


 通常、岩などの硬いものにぶつかったときではないと、あのような火花はでない。


「ああ? おかしいな」


 自身の振り下ろした大剣と地面を交互に見つめ、アーサーが首を捻った。

 さっきから彼の言動が怪しい。一体何を企んでいる?

 俺は警戒しつつ、アーサーの真横に回りこんで白刃を薙ぎ払った。


「おっとお!」


 甲高い音が鳴り響いた。

 さすが竜族、といったところか。ア-サーは大剣を即座に動かし、俺の一撃を防いでいた。

 白刃と大剣の接触箇所で、火花が散る。

 どういうわけか、その火花は次第に大きくなっていく。そして――。


「んっ!?」


 大きな炸裂音。

 俺は吹き飛ばされた。

 だが空中で体勢を立て直し、なんとか足から着地できた。俺は粉々になった白刃を再び作ってアーサーを見据えた。


「……なんだよ、今の」


 炎魔法か?

 いや、違う。属性魔法は通常、術者が己の魔力を放出することによって発動するはずだ。

 しかしながら、さきほどの爆発はそうではなかった。アーサーではなく、大剣の帯びている魔力が魔法を発動していた。


「魔法剣か?」


 魔法剣とは使用者が魔力を予め注いでおくことで、組み込まれた魔法を発動させることができるという剣だ。しかし魔法の発動には条件があったりと、強力だが使い勝手が悪い。

 俺はアーサーの使っている剣をそれだと思った。


「どうだろうな」


 そう言うと、アーサーは一気に距離を詰めてきた。そして再び振り下ろしの攻撃。

 あの剣に触れるのはまずい。あれが魔法剣だと仮定すると、おそらく『強い衝撃』が魔法発動の引き金となっているはずだ。

 後ろに飛び退き、直撃を避けるが……。

 またしても、あの大剣が地で爆ぜた。

 顔を両腕で覆い、飛んでくる土や石を防ぐ。


「くっそ!」


「おっ、今度は上手くいった」


「ん?」


 なにやらアーサーの台詞が妙だ。

 上手くいったとはいったい?


「ほらほら、エインズリー。逃げてばっかじゃ勝負にならねえぜ」


 アーサーは上機嫌に言った。

 俺が防戦一方だから、自分が優位なのだと喜んでいるのか?

 だとしたら甘い。

 あの大剣が爆発を起こす類の魔法剣なら、それを利用させてもらう。


「アーサー、でいいのかな。それじゃあ、お言葉に甘えて……今度はこっちからいくぞ!」


「来いよ、叩き潰してやるぜ!」


 最近になって、俺はようやく土属性の防御魔法を扱うことができるようになった。

 俺はアーサーの斬撃を躱しながら接近した。そして彼が横薙ぎの予備動作に入ったとき、上へと跳んだ。

 アーサーが横薙ぎの一撃を振るった際、俺はその大剣の腹を、固めた土を纏った右足で思いっきり踏みつけた。爆発が起きれば、防御魔法を纏っているとはいえ、俺の足はただでは済まないだろう。しかし、爆風に乗った一撃を叩き込めればそれで決着がつく。

 だが、予想だにしないことが起きた。

 踏みつけたというのに、大剣が何の反応も示さなかったのだ。


「残念だったな、エインズリー」


 にいっ、とアーサーが口に弧を描いた。彼の表情は、罠にかかった獲物を見るそれだった。

 アーサーは大剣の上に乗った、俺の右足を掴んできた。

 その瞬間――、掴まれた右足で爆発が起きた。


「な、にっ!!」


 なんて奴だ! 自分の左手ごと、俺の右足を爆発させるなんて!


「くっ……」


 土魔法のおかげでなんとか右足は繋がっているが、酷い火傷だ。それに痛すぎて、頭がどうにかなりそうだ。

 だが、俺よりもアーサーのほうがダメージ的には大きいだろう。あいつは素手だったからな。


「ちっ。爆発の寸でで振り払ったか……」


 自身の左手を開閉しながら、アーサーがぼやいた。


「いったいどうなってるんだ……?」


 アーサーの左手を見てみると、彼の左手は土埃が付着しているだけで、掠り傷一つなかった。

 まさか……さっきのテレサのように、体の一部を竜化させて防いだのか?

 だとしたら、してやられたな。

 あの大剣、どうやら魔法剣ではなかったようだ。魔法剣は条件が揃えば、魔法の発動は『強制かつ自動』だ。組み込まれた魔法の発動を任意で起動したり、停止したりは通常できない。


「爆発だよ、爆発」


 落とした大剣を拾い直しながら、アーサーが言った。


「それは見ればわかる」


「エインズリー。一方的で可哀相だから、俺のその爆発について教えてやるよ」


「……おう、是非教えてくれ」


 俺に手傷を負わせたからか、気が大きくなっているらしい。


「その爆発は固有魔法だ。俺の固有魔法は、俺が触ったもの、俺の魔力がくっついたもの、その全てを爆発させる。それに、この爆発を俺がくらうことはない」


 自分から能力を暴露してくれるなんて、親切なアホだ。

 それにしても固有魔法か、どうりで不可解な現象が起きるわけだ。暴露してくれたおかげで合点がいった。

 固有魔法とはその名の通り、個々の、己のみが使うことのできる特殊な魔法をいう。セレスティアの【三重魔法(トリプル・マジック)】も、ちょうどこれにあたる。

 残念ながら、俺はまだこの固有魔法を発現していないが、発現する条件は知っている。それは――自身が死に瀕するか、死を覚悟するほどの恐怖を覚えるかだ。


「アーサー、お前。もしかして、セレスティアに負けたときに発現したのか?」


「……ああ、そうだぜ」


 やっぱあのとき、こいつ死にかけてたのか? それとも、あのときの出来事がトラウマ化したか?


「セレスティアのこと、怨んでないのか?」


「別に、怨んでないわけじゃないが……。恐いからあんまり関わりたくない」


 どうやら後者だったらしい。だとしても、強いくせに情けないこと言うなよ。

 お前に手も足も出せてない俺が、凄い惨めじゃないか。


「オズーっ!! なにぐずぐずやってるんですの、さっさと勝ってしまいなさい! もし負けたりしましたら、鞭で引っぱたきますからねっ!」


 木の天辺からセレスティアが叫んできた。


「ほら、やっぱあいつ女のくせに恐いって」


 セレスティアを見て、アーサーが呟いた。

 おい、アーサー。しらけるから、もうそれ以上情けないことを言うな。


「鞭で引っぱたかれるのは嫌なんで、そろそろ勝たせて貰おうか」


 白刃を二刀作り、俺はアーサーに向かって構えた。相手のほうも、それに合わせて大剣を構えてきた。

 啖呵を切っておきながら、実は俺は策が何も思い浮かんでいなかった。

 アーサーのあの固有魔法は、近距離攻撃主体の俺にとっては天敵だ。しかも片足を潰されているから、機動力がガタ落ちしている。もっと使える土魔法にバリエーションがあったら、何か勝てる術でも思いつけるのだろうが……。

 それにしても、直接触れられて爆発とかならわかるが、あいつの魔力に触れただけでも爆発するのか。本当に洒落にならない。

 参ったな……この状況、どうするべきか。

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