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予兆

 寮で俺に声を掛けてきたドワーフの少年の名はライナス・コートというらしい。食堂で一人夕食をとっていると、彼は俺に気さくに話しかけてきた。

 今まで俺に話かけてこなかったのは話す機会がなかったかららしい。

 いや、話す機会なんていくらでもあっただろ。などと思ったが、せっかく話しかけてきてくれたので、そういう無粋な発言は控えることにした。


「……へえ、ライナスって鍛冶屋の息子なのか」


「おう。オイラの父ちゃんが作った剣は凄いんだぜ」


 向かいの席で、へへっ、と笑ったライナスはどこか誇らしげだ。


「そんでさ、あの魔王候補生のベレスフォードが持ってる剣も、オイラの父ちゃんが作ったものなんだ」


 あのえげつない剣はドワーフが作ったものだったのか。前世の偏見でドワーフ、イコール、鍛冶職人みたいなイメージがあったが、あながち間違ってもいないらしい。

 フランベルジュのような特殊な形状の剣を作っているドワーフなら、もしかしたら刀も作っているかもしれない。俺はライナスに刀について質問してみることにした。


「なあ、ライナス」


「んん?」


「お前の親父さんって刀は作ってないのか?」


「カタナ?」


 ライナスは首を傾げた。

 知らないのか? そうだとしたら、作っていないのかもしれない。


「片刃の細長い剣だよ」


 こんな感じの、と言って俺は白刃で刀を作って見せた。


「おー、それか。それならたまに作ってるぞ。年に一本くらい」


 少ないな。

 とはいえ、刀は製造が難しいし時間もかかるから当然か。それに魔族が刀を使っているイメージとか全然湧かない。


「どうして年に一本しか作ってないんだ?」


 敢えて質問してみる。


「そりゃ、人気がないからだぜ。扱いが難しいし、大剣類とかとかち合った時、耐えられずに折れちまうからなんだと。それにそのカタナってやつは、元々人間が使ってた武器だ。オイラたち魔族の肌には合わないんだろうさ」


 つまり刀は作れるが、ちゃんとした刀の担い手がいない状態というわけか。

 だが、刀がドワーフの鍛冶屋で作られているということがわかった。うまくいけば、注文できるかもしれない。


「なあ。もし仮に俺が刀を買いたいって言ったら、ライナスの親父さんは作ってくれるか?」


 そう尋ねると、ライナスは目を輝かせた。


「喜んで作ってくれると思うぞ。ここんところ十年間、人間とのいざこざが少ないおかげで、刀剣類の注文が少ないみたいだからさ」


「だけどそれって、この国が平和ってことだろ。いいことじゃないか」


 俺の言葉にライナスは確かにな、と頷いた。


「でも、あれだぜ。先週、隣国のミケーネ王国にランカスター王国の勇者が、軍を率いて攻め込んできたらしい」


「なんだって? それはどこで聞いた?」


 ライナスの齎した情報に俺は驚いた。

 ミケーネ王国はマケドニアと同じ、国民が魔族で構成された同盟国だ。ミケーネ王国とマケドニアの違いは、魔族を統べる魔王が血筋で決まるか実力で選ばれるか、その数が1か13かの違いくらいだ。

 一方のランカスター王国は人間の国で、勇者を異界から召喚できる勇者発祥の国だ。

 ミケーネの魔王は強大だという噂があるが、相手は勇者か。その実力は未知数だし、授業で習った歴史によると、魔王の勝率は累計で50%を下回っている。俺には分が悪そうに思える。


「ディルク先生たちが昨日、廊下でしていた話をちょろっと聞いてさ……」


 と、言うと、ライナスは頭を掻いた。


「なるほどな」


 しかし、もしこっちに飛び火したら最悪だな。アカデミーだ、試験だなんだのと言っていられなくなる。

 講師陣なら情勢について詳しく知っているようだし、明日訊いてみるか……。

 スプーンを手に持ち、俺は冷めてきてしまった塩味のスープを口に運んだ。


 ◇


 アカデミーの授業は、一コマだいたい一時間半前後ある。朝に一般教養と魔法の座学を一コマずつ行い、昼過ぎには戦闘や魔法関連の実技を一コマ行う。アカデミーでの日々は、基本これの繰り返しだ。

 非属性魔法の実技の授業が終わった後、俺は講師の研究棟へと来ていた。訪ねる先は、先日ライナスが聞いた話をしていた講師のもと。

 講師の研究室をノックすると、エルフの男性が顔を覗かせた。


「ディルク先生、少しよろしいでしょうか?」


「君は、オズウェル・エインズリー……。私に何か?」


 ディルク先生は首を傾げ、不思議そうな顔つきをした。


「ランカスター王国がミケーネ王国に攻め入ったという話、本当なんでしょうか?」


「ほお、そのことか……。本当だとも。訊きたいことというのは、そのことについてかね?」


「はい」


 俺が頷くと、ディルク先生は室内で話そう、と言って俺を研究室内へと招いた。

 中は研究室というよりは、書斎といった感じだった。魔法関連の本が山のようにある。


「この席に座ってくれ」


 促されるまま、俺は木の椅子に腰掛けた。すると、ディルク先生もテーブルを挟んだ向かいの椅子へと腰を落とした。


「エインズリーはその年で、もう戦争について興味を持ったのかね?」


「はい」


 本当はただ、こちらに戦火が広がってこないかが気になるだけなのだが、一応同意しておく。


「先生。ランカスターの王国軍には勇者がいるそうですが、ミケーネ王国軍は大丈夫なのでしょうか?」


「大丈夫、と言いたいところだが……勇者がやはり難敵らしくてな。同盟国であるマケドニアは、援軍を出すことになったよ」


 アカデミーの講師陣の教育方針に、生徒の質問には答えられる限りなるべく答えるように、というものがある。ディルク先生は律儀にも、それを遵守するつもりらしい。


「援軍ですか?」


「ああ。第2魔王のイサドラ様が五百人の兵士を率いて向かったらしい」


「それに対して敵側の兵数はどれくらいなのですか? ミケーネのほうは?」


「勇者率いるランカスター王国軍は兵数約一万、アガラシャ様率いるミケーネ王国軍は兵数約七千だそうだ」


「援軍の数、少ないですね」


 俺のその言葉に、ディルク先生は苦笑した。


「これは本当かどうかは知らないが、なんでもアルフォンス様がイサドラ様に、『兵の犠牲を減らすために、お前が行ってこい』と言ったらしくてな。第1魔王様の中では、これでも数的優位を保てているらしい」


「……」


 イサドラという名の第2魔王様には同情したくなった。


「と、まあ……所詮これは聞いた話だからな。もしかしたら他に何らかの意図があるのやもしれん」


「先生は……ミケーネ軍は勝つと思いますか?」


 実はこれが一番訊きたかった質問だ。

 ディルク先生は軽く唸ると、口を開いた。


「勇者という不安要素はあるが、イサドラ様がいる限り、ほぼ確実にミケーネの勝ちだろう。なにせあの方は、今まで攻めてきた勇者に対して、一度も敗れたことがないのだからな。エインズリー、心配は要らないぞ。おそらくランカスターはマケドニアまでは侵攻してこない」


 ディルク先生は百年以上も生きているとあって、かなり博識だ。その彼がここまで断言するなら、きっとその通りなのだろう。

 俺は小さく安堵の溜め息をついた。

 それにしても、第2魔王様ってそんなに強いのか?


「他に何か質問はあるかね?」


 ディルク先生の台詞に、俺はタイミングのよさを感じた。


「あの、最後に一つだけ。イサドラ様ってどういう感じで戦う方なんですか?」


「イサドラ様の戦いかたについてか……。すまないな、あの方の戦いかたに関しては、見たわけではないためはっきりとは言えないんだが……」


「そうですか……」


「だが、『目を閉じ、耳と鼻、そして口を塞いでも戦えなくては、戦いにすらならない』とアルフォンス様は仰っておられたな」


 なんだそれは……。目と耳はともかく鼻と口を塞ぐとか、呼吸できなくて死んじゃうじゃないか。

 それとも、ああいった状態で戦うことが不可能だと思うように、勝つことが不可能と思えるほどに強い。とかいう感じの喩えだろうか? 


「他に何か訊きたいことはあるか、エインズリー」


「あ、いえ。ディルク先生、ありがとうございました」


 礼をして、俺は立ち上がった。

 もう質問は特にないし、あの面倒な約束があるため、早くグラウンドへ行かなくてはならない。


「また何か質問したいことがあれば、またいつでも来なさい」


 ディルク先生も立ち上がった。


「はい、ありがとうございます」


 俺は再度頭を下げ、失礼のないように研究室をあとにした。

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