セレスティアの再試合
俺は今、セレスティアと相対している。
「本気でやるのか? というよりも、やらないとダメなのか?」
「ダメですわ! あと、一撃で倒れたりしましたら、ただじゃおきませんから」
あれから、セレスティアが評価を巡って駄々を捏ねた。一人だけ未評価の項目がある、ということもあってか、彼女は特例で再試験を認められた。
しかし俺にとってはいい迷惑だった。何せ戦闘試験のため、その相手が必要なのだが、セレスティアはあろうことか俺を指名してきたのだ。
「始め!」
試験監督の講師が試合開始を宣言した。
「参りますわよ!」
セレスティアはいきなり仕掛けてくるつもりだ。
彼女の右手が雷を帯び始めた。そして、竜族の少年を倒した時と全く同じ雷の鞭が、彼女の右手に現れた。それはしなると、真っ直ぐにこちらへと飛んできた。
俺は横に跳び、どうにか躱すが――。
「甘いですわ!」
鞭の先が急に向きを変えた。今度は地面に対して水平に、蛇のようにうねりながら追尾してきた。
避けるのは間に合いそうもない。
俺は仕方なしに白刃で雷の鞭を迎撃した。だが、これは悪手だった。
手が痺れた。鉄などの金属製ではないため、白刃は電気をあまり通さないようだが、それでも電気は流れてくる。
しかも雷の鞭はあろうことか、蛇のように白刃に巻きついてきた。そして、鞭の先が蛇の顎を模ると、そこから火球が出現した。
標的は、俺の顔面だった。
「ちっ!」
俺は咄嗟に白刃を投げ捨て、新たな白刃を作り上げて火球を打ち払った。
「あら、なかなかやりますわね!」
魔法の中に魔法を仕込むとか、聞いたこともなければ見たこともない。
これが、セレスティアが天才と呼ばれる所以だろうか?
「セレスティア、お前な! 俺の顔を燃やすつもりかよ!」
俺が苦言を呈すと、セレスティアは肩を竦めた。
「何を言っていますの。これは真剣勝負ですのよ!」
俺を殺す気か。なんなんだ、この熱血お嬢様は。
おっかないため、油断なく白刃を正面に構える。
すると、セレスティアはどことなく嬉しそうな表情をして、
「【雷鞭】と【電気蛇】、【炎球】の組み合わせを破ったことは褒めて差し上げますわ。ですが、次の攻撃は防げまして?」
今度はセレスティアの右手に拳大ほどの水の塊が現れた。
「行きますわよっ!」
振りかぶると、セレスティアは水の塊を投げてきた。
今度はなんだ?
もし水が雷を帯びていたりしたら厄介だ。俺はさっきと同様に躱すことにした。
だが――水の塊は大きな爆発音を上げ、飛んでいる最中に空中で四散した。いや、蒸発して霧状になった、といったほうが正しいか?
霧は俺を包み込むようにして広がっていく。その中を注意深く見ていると、バチッという音がそこかしこで発生した。
「なんだ?」
次の瞬間、全身に凄まじい痛みが走った。
「ぐあああああっ!!」
くそっ、しまった!
おそらくあの霧は、電撃の攻撃範囲を広げるためのもの。避けるのではなく、遠ざからなければならなったのか!
俺は急いで霧からの脱出を試みた。
「さすがにこの水・火・雷の【三重魔法】は避けられなかったみたいですわね。では、最後の仕上げですわ」
セレスティアの声が嫌によく聞こえた。
紫電の走る霧を抜けると、彼女が掌に火球を作っているところだった。
火球が霧に向かって放たれた。そしてそれが霧に触れた途端――、大きな爆発が起こった。
「なにっ――!?」
俺は爆風に巻き込まれて吹き飛んだ。
地面に体を打ち付けてしまい、体の節々が痛い。しかし、このままやられっ放しなのは癪だ。
何とか立ち上がった俺は、白刃を小さくしてそれをセレスティアへと投げつけた。
「そんな苦し紛れの攻撃!」
セレスティアも白刃を作り、俺が投げた白刃を叩き落した。
少しでも距離を詰めないと始まらない。
俺はセレスティアへと向かって駆けた。彼女の放つ火球や雷球の雨を掻い潜り、懐まで一気に潜り込む。そして、彼女へと斬撃を放った。
だがしかし……。
テレサ同様にセレスティアも使えるのか――。
俺の一撃は、渦巻く風の壁に阻まれていた。白刃はセレスティアの眼前で止まり、これ以上進まない。
「くっ!」
「残念でしたわね」
セレスティアがレイピア状の白刃を作った。彼女はそれに雷を纏わせると、俺に振るってきた。
俺の得意な分野に、自ら突っ込んできてくれるとはありがたい。
これはチャンスだ。俺は刀状の白刃を作り、雷を纏ったレイピアを迎撃した。そしてその瞬間に思いっきり踏み込み、セレスティアの白刃を弾き飛した。すると、彼女は目を見開いた。
セレスティアの右腕は今、大きく後ろに反った状態となっている。しかも攻撃するために解いたのか、風の壁が消えている。
この隙を突いて、俺は胴を一閃した。
「なっ……!」
セレスティアの驚愕の声。
「そこまで! 勝者、オズウェル・エインズリー!」
講師が試合終了の宣言をした。
「はあ……はあ……、なんとか勝ったか……」
もう俺はぼろぼろだった。立っているのも億劫だ。
その場に座り込み、俺は大きく息をついた。
◇
呼吸が整い始めた頃、いつの間にか出来ていたギャラリーの中から、テレサが抜け出してきた。彼女はセレスティアのもとへ駆け寄っていった。
セレスティアのほうを見てみると、彼女は呆然としており、その瞳は揺れていた。
「そんな、このわたくしが……」
「ティア、大丈夫か?」
「え、ええ……大丈夫ですわ」
一応、俺も声を掛けておこう。
セレスティアの胴への打ち込みは、実は当たりそうな瞬間に、白刃の軌道をそらしていた。だから怪我をしたということはないだろうが……。
「セレスティア」
俺が声を掛けると、セレスティアはぴくりと肩を震わせた。次いで顔を俺へ向けると、眉間に皺を寄せた。
「オ、オズ! い、いいですこと? さっきの戦いは、わ、わたくしがわざと負けて差し上げたんですのよ!」
負けたのが物凄く悔しいらしい。目尻に涙を浮かべ、弱々しく俺を睨んでいる。
「そうだな。そういうことにしておくよ」
「きぃぃーーっ! そのどうでもよさそうな態度は何なんですの!」
ヒステリックな声を上げ、セレスティアは地面を叩いた。
「それに! このわたくしに勝ったのですから、もっとお喜びなさいな!」
「よっしゃあ、俺の勝ちだー。やったぜ、ちょー嬉しい」
「あの……やっぱり喜ばないで下さる?」
どっちだよ。
「二人とも、評価はまた後日つけ直す。配布は三日か四日後になるだろう」
試験監督の講師が言った。彼は俺達を一瞥すると、早く寮に帰るんだぞ、と言って闘技場から去っていった。
「それにしても、良い試合だったよ。まさかオズが勝つとは思わなかったけどな……」
テレサはそう言うと、目を瞑って頷ずいた。
「俺が勝てたのは運が良かったというか、セレスティアが馬鹿だったおかげっていうか、まあ両方だな」
「ちょっと、オズ! 馬鹿ってどういうことですの!」
セレスティアが米神を押さえながら睨んできた。
馬鹿は言い過ぎかもしれないが、後々こいつのためになるから、一応言っておいてやるか。
「自分よりも、相手のほうが得意な戦い方に合わせて戦ったからだよ」
「それは……わたくしが白刃を使って、あなたに攻撃をしたことを言っているんですの?」
「そうだ。昔から俺が、剣術が得意なのは知っているだろう。相手の得意分野でわざわざ戦うなんて、馬鹿なことだと思わないか? 普通は相手の弱点を突いて戦うだろ」
「それはそうですけど……」
セレスティアは目を伏せ、俯いた。と思ったら、
「ですが」
目を開けて、ばっと顔を上げた。
「相手の得意分野で敢えて戦い、それを破って完膚なきまでに叩きのめすことこそが、真の勝利というものですわ!」
少しだけ同意できる部分はあるのだが、お前いったいどこの戦闘狂だよ。こええよ、その考え方。
「そういう心構えはいいが、負けては意味がないぞ」
と、テレサが冷静につっこみを入れた。
「もうっ! テリーはどっちの味方なんですの?」
「う~ん。私はどっちの味方でもないかな」
「あ、ダメですわよテリー。わたくしの味方につかなくてはダメですわ」
テレサを味方につけようと必死だ。
セレスティアの奴、なんだかムキになってるな。
「ふぅ……仕方ないな。わかったわかった、私はティアの味方だよ」
やれやれ、といった様子でテレサが言った。子供をあやす母親みたいだな。
そんなテレサの返答を聞いたセレスティアは、満足気に頷くと、
「これで2対1、わたくしの勝ちですわね、オズ」
「おい、何の勝負だよ」
意味がわからん。どういうことか俺は負けたことにされた。
どんだけ負けず嫌いなんだ、このお嬢様は……。