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入学

 仏教やヒンドゥー教など、各宗教には輪廻転生の概念がある。そういう概念がある、という程度の考えしか持っていなかった俺は、最初は驚愕したのを覚えている。

 しかし、二度目は驚愕などなかった。『またか』という発することのできない言葉が脳内で響いた。

 俺はまた生まれ変わったらしい。

 また、というのには理由がある。俺には、今まで経験してきた二つの人生の記憶があるのだ。

 前々世の俺は、鎧を着て刀で人と斬り合っていた。しかもちょんまげだった。前世は日本という国の大学生だった。剣道を極めながら平和を謳歌していたが、飛行機とやらの事故で死んだ。

 しかしながら、現世は特異だった。どうやら魔法があるらしい。しかも、魔法や武器を使って人間と魔族が小規模とはいえ、戦争をしているような世界だ。

 魔族というのは、前世でやったことのあるゲームに登場する亜人や妖精等、神話や作り話の中に登場する異形の類の総称だ。現在の俺は、その類として生きている。


 この世界に生まれて十二年。木の棒を刀に見立てて振り続けること約七年。

 俺は巨人族(タイタン)の父と小人族(ホビット)の母に育てられてきた。

 が、ぶっちゃけいって、魔族も人間の生活と大して変わらない生活をしていた。通貨で売買をするし、仕事もすれば、家庭も持っている。唯一違うとすれば、職業に魔王、だなんてものがあるくらいだろうか。

 しかし、そういう風につまらなく感じるのも今日までなのだろう。


「オズ、今日からアカデミーでしょ」


 12歳の俺と同じ身長の母が言った。彼女は背伸びしながらテーブルに朝食を並べている。


「わかってる」


 アカデミーとは簡単に言えば、国が営んでいる魔法研究機関、兼教育機関だ。俺の住む魔族の国【マケドニア】では12歳から16歳まで、そこで魔法や学問、戦闘訓練を修めることが義務付けられている。


「早く朝食を済ませてしまいなさい」


「わかってるよ」


 木製のカップを手に持って返事をする。

 実家からアカデミーまでは走っても結構掛かる。初日から遅刻でもしたら大変だ。

 母はそれを心配しているのだろう。


「お隣のティアちゃんも連れて行ってあげるんだぞ」


 そう言った父は巨体を揺らしながら席に着いた。その衝撃で、テーブルの上の皿が僅かに跳ねた。


「うん……」


 ティアとは、隣の石造りの家に住む同い年の少女だ。ティアというのは愛称で、本名はセレスティアという。


「そういえば、アカデミーは寮だけど、向こうでもちゃんと規則正しく生活するのよ」


「大丈夫だよ。母さんは心配のしすぎだよ」


「そう?」


 椅子に腰掛けた母が首を傾げた。小児体型のため、足が椅子から浮いている。


「……もういいや、行ってきます」


 朝食は半分残して、俺は玄関へと向かった。

 母が後ろで何か言っているが、今はお小言を聞くような気分じゃない。

 アカデミー。俺は今、そこでの生活のことで頭が一杯だった。期待に胸が膨らんでいる、といっていいだろう。なにせ、魔法をその道のプロから学べるのだ。魔法を自分で使えるなど夢の中の話のようだ。


 玄関から外へ出ると、家の前に金髪の少女が立っていた。髪の両サイドをリボンで結んでおり、そよ風でその両端が小さく揺れている。


「遅いですわよ、オズ」


 口をへの字にして、青い瞳で睨んでくる。

 セレスティアは俺にずいっと近寄った。彼女――セレスティア・クラウディーはいいとこのお嬢様だ。父と母はアカデミーの研究主任をしていて、国内でも結構有名だ。それに彼女自身も天才らしく、この年でオリジナルの魔法を編み出したりしているらしい。

 しかも魔王候補生として、アカデミーには主席入学するとのことだった。


「すまない、セレスティア」


 反論とか言い訳をすると面倒くさいため、素直に謝っておく。


「まあ。素直でよろしいですこと」


「……じゃあ、行こうか」


 俺が促すと、セレスティアは少しむっとした。

 そういえば、彼女は以前から仕切られるのを嫌う質だった。


「ダメですわ、オズ。わたくしが先に行くんですの。あなたがついてらっしゃい」


 めんどくせえ。

 セレスティアの従者の如く、彼女の斜め後ろを歩いていく。

 アカデミーへはこの国の首都のメインストリートを通っていくわけだが、そこは相変わらず魔族でごった返していた。小人や巨人、エルフや小さい妖精類、なかには竜種やユニコーンなどの幻獣種もいた。

 亜人系と妖精系はもう慣れたのだが、竜種や幻獣種はいつ見ても慣れない。食われそうでそばを通るだけで、心臓が握られたようにきゅうっとなる。


「オズ、少しあのお店に寄ってもよろしくて?」


 セレスティアが食料を売っている露店を指した。


「別にいいけど。遅刻するぞ」


「すぐに頂きますから、ご心配無用です」


「腹減ってんの?」


「ええ、少しばかり」


 そう言うと、セレスティアは露店へと駆け出した。彼女は鈍色の通貨を店主に渡すと、換わりに肉と変な形の野菜が交互に刺さった串を受け取った。その数、八本。


「朝食抜いてきたのか?」


 俺が訊くと、セレスティアはかぶりを振った。


「しっかり頂きましたわ」


「よく食うな」


 セレスティアは大食漢の割には痩せている。俺は前々から疑問に思っていたことを訊いてみることにした。

 殴られる覚悟はある。


「そんなに食べてるのに何で太らないんだ? 陰で痩せる努力とかでもしてるのか?」


「体質……ではございませんの? わたくし、そういうことをしなくても太らなくってよ」


 よかった、怒らなかった。流石お嬢様、懐が深い。

 いや、この場合は痩せているという余裕があるからか。


「世の中の女性が聞いたら発狂しそうな台詞だな」


「まあ、それは大変ですわ」


 口元に手を当て、セレスティアは目を大きくした。皮肉を軽く流されるとは……。


「……はあ」


 やっぱり、こいつといると疲れる。


「はい」


「ん?」


 何故かセレスティアが串を一本、俺に差し出してきた。


「なんだこれは?」


「これが欲しくて溜め息をついたのではなくって?」


「違うんだが」


「あら、違いましたの」


 首を傾げるセレスティアを見て、こいつ本当に天然だな、と俺は思った。


 ◇


 入学は無事に終わり、俺はこれから通うことになる教室へときていた。周りには当然のことながら、エルフや妖精系の種族から獣人やケンタウロスのような亜人系、多種多様な種族がわんさかいる。

 席について、ぼうっと窓の外を見ていると、


「おい、お前。本当に魔族なのか?」


 急に不審者を尋ねる時のような声が、背後から掛かった。


「うん?」


 振り向いてみると、銀髪の耳の尖った少年がいた。そしてその背後には、六人の同族と思わしき少年たちがいる。

 エルフか? と思ったが、その割には耳が短い。


「えっと、君たちは?」


 俺が質問をすると、声を掛けてきた少年が顔を歪めた。


「質問してるのはこっちのほうだ。先に質問に答えてもらおうか」


 ああ、こいつアレだ、めんどくさいタイプだ。


「魔族だよ。そもそも魔族じゃなかったら、ここには来れないだろ」


「ほんとか? 嘘ついてないだろうな。お前、全然魔族っぽくないぞ」


「一応魔族だよ。父親が巨人族で母親が小人族」


 俺はよくこういったいちゃもんをつけられる。仕方ないことといえば、仕方ないのだが……。

 それは何故かというと、俺は人間と瓜二つなのだ。きっとそれはでかいのと小さい以外、人間と大して変わらない巨人族と小人族のハーフなせいだろう。

 人間とよく似た容姿を持つ魔族は俺以外にもいるが、魔力の容量――魔力量や魔力の質で人間とは見分けがつく。しかし俺の場合は人間と酷似しているため、初見では区別がつかないようだ。


「ふうん。なんだ、そういうことか」


 ハーフだということを知って、得心したらしい。

 少年は最後に、無駄な時間だったな、と言って取り巻きを連れて席へと戻っていった。

 無駄な時間とられたのはこっちだよ。だがしかし、面倒なことにはならなくて助かった。喧嘩したくていちゃもんをつけてくる馬鹿ではなかったらしい。


「オズ」


 俺の前の席についているセレスティアがこちらへと振り返った。


「なんだ?」


「さっきの子の機嫌を損ねるのは、やめたほうがいいと思いますわ」


「どうしてだ?」


「怒らせてしまうと、きっと手が付けられなくなるからですわ」


「そんなにやばい奴なのか?」


 セレスティアは俺の言葉に頷いた。


「あの子、竜種の中でも特に強い【黒竜族】ですわ」


「へえ……黒竜族」


 6歳位の時に本で読んだことがある。確か、竜族のまとめ役をやっている種族だったか。そしてまとめ役なだけあって、竜族種の中でもトップクラスの強さを誇るとか。

 ということは、あの取り巻きの連中も竜族か。

 早速俺は厄介な連中に目をつけられてしまったわけか、だるいな。


「でもさ、セレスティアのほうがさっきの奴よりも上なんだろ? 主席なわけだし」


「さあ? それはわかりませんわ」


 セレスティアは自信なさげに首を傾げた。


「おい」


「魔法や学問に関しては、わたくしのほうがおそらく上なのでしょう。ですが、それ以外となると……特に身体能力だとかは、わたくしのほうが著しく劣っていますわ」


「まあ、お前セイレーンだしな」


「……永眠できる唄を歌って差し上げてもよくってよ?」


 ガタッという音を立てて、セレスティアが立ち上がった。


「悪かった、俺が悪かった」


 机に両手を着いて頭を下げると、セレスティアは米神を押さえながら座った。どうやら永眠させられずに済みそうだ。

 前々世の影響か、俺の頭はよく下にさがる。


「それにしても、あいつ有名なのか?」


 先ほどの少年へと目を向けると、周りの連中と静かに会話をしていた。


「ええ、有名ですわ。なにせ、わたくしと同じ魔王候補生ですもの。……あなた、本当に知らないんですの?」


「ああ、知らなかった」


「……ふぅ、仕方のない人ですこと」


 俺を見て、セレスティアは口元に笑みを浮かべた。

 かつてないほどの高クオリティで馬鹿にされたな、今。

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