ゲーム漂流日記 その4
薬草を拾いつつ漂っていたら、ログがずらずらと流れ出した。
『勇者は始まりの地を通過した。
このステージを通過するのにかかった移動距離8000M
このステージでの戦闘回数は 9 回だった。
ここまでの総移動距離は 10600 Mです。』
初めてのステージクリアだ。
思いのほかうれしくて思わずガッツポーズをする。
まあ、実体はないから気持ちだけなんだけど。
「ステージを通過するのにかかった距離」と「総移動距離」の違いはカウントの仕方による。
「ステージを通過するのにかかった距離」はステージに入る前に乱数で決められ、それを超える距離を移動するとステージクリアとなり、「総移動距離」はこのプログラムの始まりからカウントしている移動距離の合計だ。
総移動距離が10600Mということは、約10kmといったところか。
人の歩く速度はだいたい時速4〜5kmといわれている(個人差や地域差はもちろんあるが。)ことを考えると、歩きだとするとだいたい二時間くらいは歩いたはずだ。
歩きというより漂流だけどね。
感覚はもう当てにならない。
時間の感覚なんて遠く彼方に飛んでいってしまったようだ。
太陽も月もない空間だから当たり前なのかもしれないが。
『ステージクリアボーナス!
スタミナが34増えた。
体力が51増えた。
攻撃力が2増えた。
防御力が1増えた。』
気を取り直してクリアボーナスだ。
ここで注目すべきはスタミナと攻撃力だろう。
攻撃力が高ければ少ないスタミナで高いパフォーマンスが期待できる。
スタミナの重要性は言わずもがなだろう。
防御力と攻撃力はたしか一回のステージボーナスで1または2増える。
だが、1増えたからといって喜んでもいられない。
一つステージを通過するごとにモンスターの体力、スタミナが一定ずつ、攻撃力、防御力、そして素早さまで1ずつ基本値が増えるのだ。
つまり、1だけしか増えないと、モンスターとの力関係はプラスマイナスゼロどころか、素早さが増えない分マイナスだろう。
まあ、そのぶんスタミナで補えばいいさ。
問題は次のステージだ。
『勇者は始まりの地に突入した。』
ここにきて初めてのバグだ。
本来だったら、「始まりの地」は初回のみのステージで、二つ目以降はこれまた乱数で決められた別の名前のステージとなるはずだった。
名前が変わるだけで特に深い意味のない操作だったし、現在目に見えての異常はないが、指先のあたりからさぁっと冷たくなった。
まあ、実体はないから気持ちだけなんだけど。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
薬草を拾いつつ漂っていると、もう何度目かのログの更新。
『モンスターが現れた!
MHP:220 MSP:9 MPP:5 MOP:5 MEP: 160
ステータス 体力171 スタミナ 444 素早さ2 防御力14 攻撃力13 です』
モンスターの素早さが高いから、60消費。
『モンスターの攻撃。
しかし、勇者は攻撃を防ぎきった。』
くっ、無駄にスタミナつかった。
次こそは……
スタミナを70消費する。
『勇者の攻撃
モンスターに 875 のダメージ
勇者は勝利した。』
ゆがみは一度大きくねじれたあと、何事もなかったかのように消えていった。
やはり、スタミナ調節は難しい。
次に現れたモンスターは素早さが2桁だった。
『モンスターが現れた!
MHP:220 MSP:11 MPP:3 MOP:7 MEP: 510』
とりあえずスタミナを70消費する。
『モンスターの攻撃。』
モンスターの腹パン。
しかし、痛くはない。
問題は、スタミナの消費量だ。
次はスタミナを80消費する。
『勇者の攻撃
モンスターに 1016 のダメージ
勇者は勝利した。』
やはり、素早さが弱いのは痛い。
高い防御力でダメージを受けないが、殴られている感覚はあるから恐い。
高い攻撃力はあるからあたれば大ダメージだが、素早さが低いからスタミナを消費しなければあたらない。
早く素早さが増えるアイテムが欲しい。
…………確率的にはマッスラーと同じはずなのだが。
それに、いい加減薬草はもう拾い飽きた。
何のアクションも変化もなく、ただログの上だけの処理だから飽きるもなにもないはずなのだが、一度マッスラーとえろ本という大物をあててしまったため、ログが更新するたびに「おっ?」と身構えてしまうのだ。
それでもって結局薬草だったときのテンションの落差は、階段を3段ほどずるっと滑り落ちたくらいだろう。
あれってすごくひやっとするし、打ち所が悪いとめっちゃ痛いんだよね。
誰かこの恥ずかしいところを見たかきょろきょろして、誰もいなかったときのむなしさは何ともいえない。
見られたら見られたで恥ずかしいのだけど。
『モンスターが現れた!
MHP:80 MSP:7 MPP:11 MOP:11 MEP: 310』
次こそ一度で倒そう。
さっきの戦闘の経験をもとに、スタミナを80消費。
三度目の正直だ。
『勇者の攻撃
モンスターに 996 のダメージ
勇者は勝利した。』
よし。なんとかなった。
ここまでの経験から考えると、素早さが2桁なら80、5前後なら50、2程度だったら30くらいのスタミナを消費することを基準にすればいいだろう。
なんだかふらふらするような気がするので、ステータスを確認する。
(まあ、実体(ry )
『ステータス 体力171 スタミナ 84 素早さ2 防御力14 攻撃力13 です』
いつの間にかにスタミナがはじめの20%以下になっている。
そして……スタミナと体調がリンクしている?
『モンスターが現れた!
MHP:220 MSP:10 MPP:9 MOP:8 MEP: 510』
こんなときにもこいつらは現れる。
スタミナを10くらい残して攻撃する。
体中から一気に力が抜ける。
『勇者の攻撃
モンスターに 829 のダメージ
勇者は勝利した。』
ふらふらとおぼつかない足取りで進む。
薬草を拾ったが、例に漏れずやはり体力は満タンで、俺をがっかりさせる以外意味はない。
特にスタミナ回復薬の欲しい今は、がっかりの度合いが30%増しだ。
さっきから体力ばかり回復していてスタミナが全く回復しない。
……消費しているのはスタミナなのに、実質的な体力の削られ具合が半端ないのはなぜだろうか。
『モンスターが現れた!
MHP:200 MSP:11 MPP:9 MOP:10 MEP: 460
ステータス 体力171 スタミナ 14 素早さ2 防御力14 攻撃力13 です』
もうスタミナがほとんどない。
俺は残り14のスタミナをすべて込めた。
『モンスターの攻撃。
しかし、勇者は攻撃を防ぎきった。』
あんなちっぽけなスタミナでも全然痛くないとは。
防御力の大きさを改めて感じた。
しかし、その後に再びやって来た、あの圧迫感。
指一本すら動かすことができない。(ような気がする)
『勇者は動くことができない。
モンスターの攻撃
勇者に 120 のダメージ』
あぁ、害意が痛い。
今まで見えないシールドに守られていたようだ。
腹に衝撃が、痛みがダイレクトに襲いかかる。
『勇者は動くことができない。
モンスターの攻撃
勇者に 120 のダメージ』
今度こそ、とどめだ。
目の前が暗くなる。
『勇者は敗北した。』