第一歩 冗談にも程がある
いつも読んで頂きありがとうございます♪
ストレス発散目的かつ思いつきで緩く書いてます
かつて聖なる都と呼ばれ多くの人々から愛された王都では至る所で硝煙が立ち込め幾つもの建物が破壊されて瓦礫と煙に覆われていた。
割れた石造りの壁、壊れた石畳、欠けた煉瓦がそこら中散らばり建屋の骨組みだったであろう木製の柱達が無惨な姿を露わに互いに支え合うかの様に寄り添い朽ちている。
その柱の隙間、三角形の空間にぽつりと1人の青年が満身創痍、疲労困憊の状態で眠りから醒めると視界は赤く染まり、手足は痺れて感覚も怪しく、呼吸は荒い。
懸命に手を伸ばし、やっとの思いで手繰り寄せた剣を頼りにと立ち上がろうとするが、身体が上手く動かず、深く息を呑む。
青年の虚ろな瞳からは本来の神々しいまでの黄玉さは見受けられない。
(……ここまで……ですか……妹達は上手く逃げれましたかね……)
血に塗れた青年は焦げ折れた柱を背に不意に一言吐く。
「すまない、皆……なんて……ね……。」
誰に伝えたかった理由でなくただ最期の最期まで己を貫く姿勢だけは彼の中にいる彼が敗北を許さなかった。
「……ますか?」
轟音に紛れて微かな声が聞こえた気がして朦朧とする意識の中、声の主に静かに反応する。
目と鼻の距離ほど近いはずなのだが、額から流れ落ちる血と疲れの影響で相手の顔ははっきりと視えず、更には時が止まったかのようにさえ感じた。
「あっ、返事は要らないですよ、想うだけで通じますから。さて、貴方は今まさに無慈悲で理不尽極まりない死に抵抗しましたね。運命に抗う者……なんと素晴らしい響きでしょう。それでこそ黄玉に愛されし英雄というもの。なので、サクッとお聞きします。……貴方、死にたいですか?」
青年は想う。
―生きたい―と。
「ならば、願いなさい。」
青年は願う。
―交わした約束を守り通せる力が欲しい―と。
「ならば、抗ってみせなさい。これは誓約。貴方の想いも願いも共に背負いましょう……サーディア・ファン・ダインバルト。」
そして、青年は抗う。
☆☆☆
「悪しきダインバルト国、ここに滅せり!全軍、勝ち鬨を挙げよ!!」
反乱軍主の声に釣られ地鳴りを誘う程の多勢の雄叫びが残る戦火を焚き付けるように王都を包み込まんとする。
戦意を失った兵士は次々と拘束されては押し伏せられ、民は為す術無く王城前広場へと連行される。
道中、数多に転がる兵や民の無惨な屍がその戦火の惨さを物語る。
中には、見知った者の変わり果てた姿に嗚咽を漏らす者もいれば、気付いても感情に波が押し寄せず沈黙に伏せる者もいた。
そうした一団が一つ、また一つと広場に集められほぼ全て揃うと反乱軍の指揮官は姿を群衆の前に現し忌避交々であるものの口上を述べると、ニケラル・ファン・ダインバルト国王とその后ブリオッシュ・ファン・ダインバルトの公開処刑が執行された。
それを観て納得せざるを得ない者は項垂れて納得出来ぬ者はただ悔しさや疎ましさを必死で押し殺した。
全ては明日の陽を拝む為に。
☆☆☆
「ご報告致します。ノルマン・ファン・ダインバルト第一王子の身柄を拘束。第二王子ノーブルについては第一王女マリーと未だ逃亡中との事です。」
「第三王子は?」
反乱軍の幹部の一人が伝令に問うと沈黙を招いたが、程なく別の伝令が慌ただしく軍議の間にやって来て一同が望んでいた報せを受ける。
「そんな筈はない!」
そう狼狽えたのはかつてこの国の将軍であったフレイル・ラ・エリオットであった。
「我が剣が苦労の末、奴の四肢を削いだのだぞ!動ける筈がなかろう!」
「落ち着け、フレイルよ。貴殿の働きは我も見ている。見間違うものか。して、第三王子は今何処に?」
「南西の方角に早馬を走らせ逃亡中でありますが、ラスコー団が追跡しております。」
「なら、時間の問題だな。あの傷ではまともに動けないだろうからな。放っておいても野垂れ死ぬのが関の山だ。そうであろう、フレイルよ。」
反乱軍首謀者、オニール・バランタインの言葉の前にフレイルは静かに頷く。
「この際、死体でも厭わない。可及的速やかにラスコー団に伝えよ。必ず連れて帰れと。」
その言葉に伝令は踵を返し軍議の間を去る。
☆☆☆
「報告によればサーディア様は深手を負っている!絶対死なせるな!」
「頭ぁ!なんすかその言い草は!反吐が出ますぜ!サーディア〝様〟なんて!」
「馬鹿野郎!おめおめ死体なんか持ち帰ってみろ、俺等まで懲罰対象だ!依頼は生きたままの捕縛だ!手段は厭わない!絶対死なせるな!」
「ブロス、その依頼主から生死は問わないと連絡が来たぞ。」
ラスコー団の連絡手段である耳飾りの魔道具から聴こえてきた吉報にラスコー団率いるブロス団長の肩の荷は下りた。
「……なら、殺すとするか。」
ブロスの変わり身の早さに一団は笑い飛ばす。
「ニール!この位置からならバンズ手前に抜けて奴を挟撃できるはずだ!街に入れるなよ!あそこに紛れられたら面倒だ!」
一瞬緩んだかと思えた一団の士気を逃さずブロスは西の街道より南東に位置する街バンズを横切って逃げ場を失くすようニールに告げるとただ沈黙を保ったままニールは指示通り向かう。
西の街道はバンズと王都を結ぶ唯一の街道で行商の往来を効率良くするために整備された一本道である。しかし整備の容易さゆえかなり遠回りな道程となるが、その分、行商や旅人、特に冒険者などは魔物と遭遇する可能性が極めて低い。
だからこそ野を下り獣道を駆け抜けたほうが近道なのは野戦に手慣れた傭兵や冒険者ではなくとも解る。
「見えてきたあの街が我が国きっての商業都市バンズであそこを抜ければ白樺の森に入れます。追手が迫っている以上気は抜けないですがそこからなら隣国のサルバディアまであともう少し……それで、時に貴殿の名は何と呼べば良いのでしょう?」
「今しがた気を抜けないって言ったばかりなのに随分余裕だな、おい。」
サーディアは名も知らない者に興味が湧いていた。
早馬を駆る少し前、泡沫の夢見後に異変を感じていたが、今ではその激動に慣れ始めていた。
サーディアの意思とは違う、何かが身体を支配しているが、これが妙に馴染んでいて飽きない。
今まさに自身に向けられる殺気が犇々と背後から迫っているにも関わらずにだ。
「……。俺はコースケだ!」
何処からとも無く感じずにはいられないむず痒さに堪らずコースケは口走る。
「そうか、コースケと申すのか。なら貴殿はコースケ・ファン・ダインバルトですね!」
「うるせぇ!さっきまで死に体だった奴がお気楽かましてんじゃねぇよ!何だってこんな事態に女神サマは転生かましてくれてんだよ!いきなり死地続きじゃねーか!!ボケ!!」
「ふむ、随分な言い草ですね。だが、私は貴殿に感謝しています。魔人契約とは女神様も大胆不敵な事を為される。」
「うるせぇ!俺はただの人間だ!魔人なんて言うな!大体、俺がいた世界は魔力だとか魔物だとかあり得ない話だっつーの!そもそも異世界転生なんてそりゃ……多少興味あったけど!!」
「ふむ。色々話を聴きたい所だがどうやら先回りされたようです。来ますよ、コースケ!」
瞬間、風切り音と早馬の悲鳴が街道に木霊する。
激しく地に振り落とされたサーディアの身体は砂煙を上げながら衝撃音と転げ踊る。
間髪入れずに追撃の火の玉がサーディア目掛け飛び込んできたが、コースケの反応以前に剣がそれを両断した。
10を超える数の殺気に満ちた追手が行く手を阻むように進路を塞ぐ。
(話が違うな、おい。明らかに殺しにかかって来てんだろこれ。)
コースケの意思にサーディアは『王都から離れた街道での交戦中にてやむを得ず討った』事にする腹積もりと『反乱軍の指示が変わった』かの二択を提示する。
前者なら戦利品は追手、特に討ち取った者に報奨として身ぐるみを剥いでも良しとされる世界。
世界の理とあらばあり得る考えだ。
後者の意図は読み切れないが少なくとも蘇生魔術のアテがある事だけは解っている。
(どっちも無茶苦茶じゃねーか。)
「直にブロス団長が到着します。無駄な抵抗はよして大人しく捕まってもらえたら助かるんですが。」
聖職者のような格好をした若い金髪の男は錫杖の先端をサーディアに差し向け静かなる殺気を放つが、到底その様子からかけ離れた言葉が飛び出した。
「なら、さっきの炎弾は何のつもりだ?殺す気満々じゃねーか。」
若い男が咄嗟に差し向けていた錫杖を下ろすと人差し指と親指で自身の顎を挟む仕草を見せ黙り込んだ。
(コースケ、コースケ。彼はラスコー団の賢戦、ニールです。)
(賢戦?)
(えぇ、近年王都で名を上げた〝赤い石〟の幹部で支援役も突撃役も熟す凄腕冒険者。ランクは最高峰の黒です。)
(そりゃ、ご丁寧に説明ありがとう。絶望的なのは理解した。どう切り抜けるんだ、化物なんだろ?)
(……諦めたいのは山々ですが、女神様からは抗えと申し付けられましたので最期の最期まで足掻きましょうか。)
(ったく。勝算ゼロかよ。)
束の間の静寂を割るように追っ手の一人が逸るように声をあげた。
「ん?……あぁ、まぁ、好きになさって結構ですよ皆さん。」
そこからの一戦は瞬く間……とはいかないまでもサーディアの前には撥ねられた首がごろごろと転げ落ちた。
「さっさと道、開けてくれねぇか?ニール。」
サーディアの問いかけにまたしても沈黙するニール。
そうこうしていると背後からブロスら数十人が到着した。
(挟まれた……のか?)
「おい!こりゃ、一体どうなってんだ!?ニール!」
「……あぁ、ブロス団長。……見ての通りですが?」
ニールの淡々飄々とした態度にブロスの語気は強まるが、直後にその怒りの矛先は返り血を浴びた白銀鎧のサーディアに向けられる。
「団長、気は抜けませんよ。サーディア様はかなりお強いので。」
「はっ!竜殺しの俺様に敵はいねぇよ。それに、王家の三男坊は魔法頼みの腰抜けで宮中でハブられてた出涸らしと聞く。さて、お坊ちゃんよ。そこに転がってる奴らは俺の財産なんだ。奪ったからには奪われる覚悟は出来てんだろうなぁ!」
(コースケ。)
(なんだ、あの熊みたいなゴツい奴の薄っぺらな挑発には乗らねーぞ。)
(いえ、そうではなく〝ラスコー〟の要である彼が先程から全く動かないんです。彼ほどの手練ならこの事態に陥るまでに私を確実に殺せたはずなんです。)
(えらく弱気だな、おい。)
「聞いてんのか?腰抜け。」
サーディアとの想話の間、ブロスは怒り散らし仕掛けてきたが、その猛攻はコースケに一切届かず、サーディアは間合いを取るために後方に飛ぶと、すぐ背後には馬にまたがるニールが見下ろしていた。
「おい!ニール!殺れ!」
「……えっ?良いんですか?ブロス団長の手柄取っちゃう事になりますし、そうすると……報奨は私の物ですね。」
ニールの何とも言い難い反応はブロスの胸の内を抉ったからか大きな舌打ちが離れていても聞こえたものの相変わらずニールは人差し指と親指で自身の顎を挟みながらサーディアを凝視するのだが、なにやら呟いている。
(なんだ、この違和感。)
(コースケ。前に集中しましょうか。彼から殺気が全く感じ取れないので、これは吉兆かと。)
ブロスの背後では20名、息巻いて戦闘態勢に入っている。
後衛の弓使いの矢と魔術師の魔法が入り乱れると同時にブロス含め複数の近接特化者が迫りくると矢と法撃を躱しつつ近接攻撃の間合いを計る。
名うての冒険者団だけに隙が中々見当たらないままでいるとブロスの怪力による大斧の斬撃が視界外から飛び込んでくるが、それよりも直前にただならぬ殺気のおかげで攻撃は読めていたが、手数の多さに一瞬気が取られ、想定していた位置までの移動がその分遅れた。
速さも強さもブロスが勝っている。
打ち付けられた大木にはしっかりとサーディアの胴体痕が付いていたが、斬撃と身体の間に立てた剣のお陰か、はたまた転がる屍が求めていた装備のお陰か、四肢は繋がったまま激痛だけが走る。
(コースケの世界には魔力は無かったんですよね。このままでは負け戦確定っぽいですから、私が授けましょう。意識を外ではなく中に向けて下さい。)
「……。」
熱り立つ傭兵団を尻目にブロスとニールだけは冷静に現状を分析する。
傍から見ればサーディアの圧倒的不利は明白なのだが、サーディア自身の纏う空気が明らかに変化したのを見逃さなかった。
「よせ!おま……!?」
ブロスが言葉を吐ききる前に前線に居た2名の胴体は裂け、その延長線上に居た魔術師と弓使いも屍と化した。
唖然とするブロスと目を見開いて固まるニールだが、二人の驚嘆の矛先は違っていた。
(これが、魔力か。悪くねぇな。)
(貴殿はやはり魔人ですよ。いきなり訓練もなしに魔力使えるとか普通ないですから。)
魔力を呼び起こしたサーディアの前に、勇猛な戦士達は怯みかけたが、散々見下していた相手の変わり様に納得いかず次々と飛びかかっていくが無惨な成れの果てとなって街道に散っていった。
「少し解った気がするぜ。お前の強さは魔力によるものと、その装備だ。なぁ?竜殺しさんよ。」
気配に気圧されブロスは漸く気付いて少し前の記憶を必死に手繰り寄せていた。
そう、言葉遣いが明らかに違うことに加え、剣筋も型もそれを知るものとは何一つとして違っていた事。
「お前……誰……だ?」
★★★
名うての傭兵団として名を挙げたばかりの頃、ブロスは団員の幹部らと王宮内の練兵場で軍兵の指南に明け暮れていた。
「面倒だが、金払いは良いから引き受けてやってるだけだ。」
そう吐き捨てるようにニールに伝え大酒をかっ喰らう。
「昔からそうですがその横柄さ、なんとかなりません?腕があっても悪い評判が立つと長い目で見れば大きな利益損失ですよ?」
「知ったことか。文句ある奴はこないだの竜のように真っ二つにしてやる。俺からしちゃニール、貴様こそどうにかならんか?なぜ誇らない?なぜ偉ぶらない?金も女も抱きたい放題で勿体ないだろ?魔術に長け、剣にも優れ、誰も歯が立たねぇだろ?人の形をしたチキンなのか?」
「それは、誇りに思いってますとも。この才能も是迄の努力も父や母といった家族、師、知人、友人の献身あっての賜物。だからこそ、我々みたいな立場の者は周囲に正しい姿勢を示さねばなりません。ブロスのそれとは違いますよ。貴方のは〝誇り〟ではなく〝驕り〟です。」
「ケッ、綺麗事で飯は食えねぇよ。大体、貴様こそ綺麗事が大嫌いなクチじゃねーか。だから聖職者辞めたんだろうが……あー苛ついてきたわ、あの辺の兵士で憂さ晴らしするから後で回復してやってくれや相棒。」
★★★
なぜそんな昔の事を思い出したのかと思うと同時に気が付けば視界の隅で逆さに映る相棒を捉えていた。
「一つ聞きたい。なぜ殺気を止めた?」
俯くニールは少し間を置いて馬から降りると相棒の亡骸の傍にかがみ、サーディアに返答するがそれは問答とは到底呼べぬものであった。
「私を知る貴方はどこからどう見てもサーディア・ファン・ダインバルト第三王子ですが、貴方は一体誰です?ここに散ったブロスもそれを知りたがっていました。どうか、教えていただけませんか?」
(この男、何考えてやがるか判るか、サーディア。)
(ふむ。コースケのお陰であらゆる思念が垣間見れましたよ。結論として、今彼は迷っているようです。幼馴染を目の前で殺された怒りと何か別の感情が大きく揺れ動いている……話してみたら案外受け入れるかもしれませんね。聖望教団出の彼だからこそ。)
「俺はサーディア・ファン・ダインバルトだが……そうでもない。」
「それは、どういう意味ですか?私を誂ってます?」
振り向きざまに見せた顔から感じる情緒は、『無』である。
誂うつもりは毛頭なく、真実を告げたまで。
かつて第三王子の訓練指南を任されていた時期から数年が経過しているとはいえ、口調や仕草のみならず魔力の扱い方の雑さがそれをサーディアとは到底認められないニールは感情を押し殺してサーディアの腕を手に取ると真っ先に白銀色の篭手を取り上げた。
篭手を剥がされ露わになった左手の甲にはニールが幼き頃、読み明け暮れた一冊の冒険譚に描かれた聖紋がくっきりとサーディアの手の甲に刻まれている事を確認すると、ぼろぼろと大粒の涙が流れ落ちる。
「何処で……何処で……道を違えたのでしょうか……ブロス……。」
コースケはともかくサーディアですらその光景に狼狽えた。
(おい、これどういう状況……。)
ニールは急に我に返ると、サーディアに跪き、こう述べた。
「英雄よ、共に参りましょう。倒すべきはオニール・バランタインでも聖望教団でも魔王でもこの命尽きるまでお供致します。」
「……冗談じゃねぇ!ついさっきまでバリバリ生殺与奪の匂いしかしてなかっただろ!」
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
一身の都合上、不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪
書き溜め… …_φ(・_・




