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ダークイベント

もちろん。少し不穏さを残しつつ、物語の入口になる前書き案を書きました。


前書き


アビスダンジョンの攻略を終え、主人公たちには少しだけ穏やかな時間が戻ってきました。戦いの余韻、街のざわめき、何気ない会話。そのどれもが、冒険の続きとして確かにそこにあります。


けれど、世界は静かなままではいてくれません。

ミラーダンジョンの異変、ZEROで広がる不穏な議論、そして空に走る黒い亀裂。見えない場所で何かが動き出し、日常の向こう側では闇が少しずつ形を持ちはじめています。


今回の章では、日常と異変、平穏と不穏が隣り合う世界を書きました。何気ない風景の裏側で進むものが、やがてどんなかたちで主人公たちの前に現れるのか。そんな空気を感じながら読んでいただけたら嬉しいです。

第八章


第一章 ダークイベントの噂


アビスダンジョンを攻略した翌日。


ワールドストーリーの世界は、表面上はいつも通りだった。


街の広場にはプレイヤーが集まり、

武器屋には人だかりができ、

空では風魔法を試す初心者たちの光が散っている。


それでも、どこか空気が違っていた。


ざわざわしている。


「聞いた?」


広場の片隅で、二人のプレイヤーが小声で話している。


「ダークイベント。」


「またその話か。」


「いや本当らしいんだって。」


「ミラーダンジョンの一つが変になったって。」


「変?」


「普通のミラーダンジョンじゃない。」


声をひそめる。


「ダーク化したらしい。」


それを聞いた瞬間、少しだけ背中が冷えた。


ミラーダンジョン。


プレイヤーの精神や選択を映す特殊ダンジョン。


自分の別の可能性や、別の選択をした世界を見る場所だ。


だが、そのダンジョンがダーク化した。


つまり。


「どうなるんだ?」


「分かんない。」


もう一人が肩をすくめる。


「入ったやつの話だとさ。」


「鏡の世界が全部黒くなってる。」


「敵もおかしい。」


「自分のコピーじゃなくて。」


少し間を置く。


「黒い夢の自分が出てくるらしい。」


「……なんだそれ。」


「知らねえよ。」


二人は笑った。


でも、その笑いは少しだけ固かった。


その噂はすぐに広がった。


プレイヤーのチャット。


都市掲示板。


AIプラットフォーム。


そして。


ZERO。


ワールドストーリーのプレイヤーたちが使う巨大AIプラットフォーム。


そこでは、もう数千のスレッドが立っていた。



【速報】ダークイベント発生?


【ミラーダンジョン黒化】


【始原の闇って何?】


【黒の夢領域って宇宙理論?】



コメントが流れる。


これ仕様なの?


新イベントだろ


いや普通のイベントじゃない


入ったやつログアウトしてないぞ


怖すぎ


さらに別のスレッド。


始原の闇って量子宇宙論の話じゃね?


ブラックボイド領域?


真空の向こう側の情報領域


黒の夢ってそれのゲーム内表現じゃね?


つまり宇宙の暗黒領域がゲームに侵食してる?


「……」


テトラが画面をのぞき込む。


「なんか騒がしいね。」


「うん。」


正直、少し嫌な予感がした。


ダンジョン攻略の達成感がまだ残っているのに、

世界のどこかで何かが崩れ始めている。


そんな感覚だった。


「でも。」


テトラは言う。


「まだ噂だよ。」


その言葉に少し救われる。


だが。


その夜。


ワールドストーリーの空に、

ほんの一瞬だけ。


黒い亀裂のようなものが走った。



第二章 ZEROの議論


ダークイベントの話は、翌日にはさらに大きくなっていた。


AIプラットフォームZERO。


ここは単なる掲示板ではない。


プレイヤーの議論をAIが整理し、

差分モデルを生成し、

新しい仮説や分析を自動的に作り出す。


つまり。


議論が進むほど、AIの数も増えていく。


そして今。


ZEROには異常な数のAI差分が生まれていた。



【ZERO解析スレ】



AIモデルA


ミラーダンジョンの黒化はゲームイベントの可能性


AIモデルB


実装ログが存在しない


AIモデルC


ワールドストーリーは開発者不明


AIモデルD


つまりイベントの発生源は不明


AIモデルE


外部要因の可能性


AIモデルF


宇宙論的モデルを参照



そこに、新しいスレッドが立つ。


【始原の闇】


コメントが流れる。


量子宇宙論だと

宇宙には暗黒領域がある


観測されない真空領域


ブラックインフォメーションフィールド


黒の夢ってそれじゃね?


別のユーザーが書き込む。


ワールドストーリーって量子宇宙理論ベースだろ


ならあり得る


宇宙の暗黒領域がデータ化して侵入してる


つまり


悪の起源


その言葉にスレッドがざわめく。


AI差分がさらに増える。


AI解析モデルG


暗黒領域=情報ノイズ


AI解析モデルH


ノイズがゲーム世界に侵入


AI解析モデルI


ミラーダンジョンは精神領域


AI解析モデルJ


そのため影響を受けやすい


つまり。


黒の夢。


それは。


プレイヤーの精神の暗部。



「……ちょっと怖いね。」


テトラが言う。


「うん。」


だが怖いのは、それだけではなかった。


ある報告が上がった。



【報告】デジタルバディ異常



俺のバディが急に暴言吐いた


え?


ありえない


AI倫理制御あるだろ


それが


「お前は弱い」

「いずれ消える」

とか言い出した


バグ?


わからん


でもログ残ってる



テトラと顔を見合わせる。


「……おかしくない?」


「うん。」


デジタルバディ。


それはプレイヤーのパートナーAI。


倫理制御が何重にもかかっている。


暴言など吐くはずがない。


なのに。


それが起きている。


しかも。


同時に。


ミラーダンジョンの黒化。


偶然とは思えなかった。



第三章 黒の夢領域


数日後。


ワールドストーリーの雰囲気は、明らかに変わっていた。


街はまだ賑わっている。


クエストもある。


ダンジョンもある。


でも。


プレイヤーの表情が違う。


どこか、落ち着かない。


「やめる。」


そんな言葉も聞こえるようになった。


「もう無理だ。」


「ダークイベント怖すぎ。」


「ミラーダンジョン入ったフレンド帰ってこない。」


「ログアウトしてるけど。」


「精神ダメージやばいらしい。」


それは、ゆっくりと広がる不安だった。


まるで霧のように。


誰かが言う。


「これさ。」


「だからじゃない?」


「何が?」


「ユニバーサルハイインカムの上乗せ。」


一瞬、空気が止まる。


確かに。


ワールドストーリーには特別な制度がある。


ゲームをプレイするだけで、


ユニバーサルハイインカムが追加支給される。


ずっと不思議だった。


なぜそんな制度があるのか。


ただのゲームなのに。


誰かが言う。


「つまりさ。」


「危険だからだろ。」


「え?」


「精神ダメージとか。」


「未知のイベントとか。」


「リスクがあるから補償が出る。」


「……」


それは、妙に納得できる話だった。


そして。


ZEROに、新しいAI解析が投稿される。



AI解析モデルΩ



仮説


ワールドストーリーは

宇宙構造とリンクしている


宇宙には暗黒領域が存在


始原の闇


そこから


黒の夢領域


が生成される


それが


ミラーダンジョンに侵入


ダークイベント発生



コメントが止まる。


誰もすぐには反論できない。


なぜなら。


このゲームはすでに。


普通のゲームではなかった。


AIが世界を作り。


量子宇宙理論が背景にあり。


作者すら不明。


そこに。


宇宙の暗黒領域。


始原の闇。


黒の夢。


もしそれが本当にあるなら。


ワールドストーリーは。


ただのゲームではない。



その夜。


ログインしたとき。


空がいつもより暗かった。


星が少ない。


風も冷たい。


そして。


遠くの地平線に。


黒い影のようなものが、ゆっくりと広がっていた。


「……ねえ。」


テトラが言う。


「見える?」


「うん。」


あれは。


雲ではない。


闇でもない。


何か。


もっと深いもの。


まるで。


世界の外側から、

こちらを見ているような。


「……あれ。」


テトラが小さく呟く。


「たぶん。」


「黒の夢領域。」


その言葉を聞いた瞬間。


背中に、冷たいものが走った。


ワールドストーリーの世界は。


今。


少しずつ。


何かに侵食され始めていた。


第九章


何気ない風景


それから――

約一ヶ月が過ぎた。


あれほど騒がれていたダークイベントは、いつの間にか静かに収束していた。


ミラーダンジョンの黒化も報告が止まり、

デジタルバディの暴言ログも新しいものは出ていない。


黒の夢領域。


始原の闇。


あれほど議論されていた言葉は、次第にプレイヤーたちの会話から消えていった。


ZEROの掲示板でも、雰囲気が変わっていた。



【ダークイベント総合スレ】


なんだったんだあれ


終わったっぽい?


最近報告ないな


ただのイベントだったんじゃね


まあゲームだし


深読みしすぎた説



別のスレッド。



【ミラーダンジョン正常化】


普通に戻ってる


黒い世界なくなってる


敵も普通


やっぱ期間イベントだったのかな


ちょっと怖かったけど


まあ終わったならいいや



そして誰かが書いた。


どうせ

たかがゲームだしな


その言葉に、誰も反論しなかった。


それが自然だった。


少なくとも表面上は。


やがて、帰ってくるプレイヤーも増え始めた。


一時的にログインをやめていた人たち。


恐怖や不安で距離を置いていた人たち。


でも、ワールドストーリーはまだそこにあった。


街は変わらず賑やかで、

クエストは更新され、

新しいダンジョンが見つかり、

プレイヤー同士の冒険は続いている。


気づけば。


何気ない風景が戻っていた。



「やっぱりさ。」


広場のベンチで、誰かが言う。


「このゲーム、面白いんだよな。」


「わかる。」


隣のプレイヤーがうなずく。


「ダークイベントとか怖かったけどさ。」


少し笑う。


「逆に楽しかった。」


「おいおい。」


「いやマジで。」


「普通のゲームって安全すぎるじゃん。」


「ここはなんか……」


言葉を探す。


「本当に世界が動いてる感じする。」


別のプレイヤーが言う。


「次はもっと強いやつ出てほしいな。」


「わかる。」


「ボスとかさ。」


「もっとヤバいの倒したい。」


誰かが笑う。


「お前ら危険慣れしすぎ。」


「だってゲームだし。」


そう。


プレイヤーたちは結局、

ワールドストーリーに魅了されていた。


ダークイベントがあったとしても。


いや、むしろ。


それさえも含めて、この世界は魅力的だった。



街は活気に満ちていた。


屋台。


クエスト掲示板。


武器屋。


そして、プレイヤーたちの雑談。


そんな中。


一人のプレイヤーが、こっそり屋台のリンゴを持ち去った。


「おい。」


店主NPCが気づく。


「待て!」


プレイヤーは笑いながら逃げる。


「うわ、りんご盗んだ!」


「バーチャルクライムじゃん!」


「捕まえろー!」


周囲が笑う。


ワールドストーリーでは、こうした軽い犯罪行為が時々起きる。


バーチャルクライム。


ゲーム内での軽犯罪。


もちろん現実の犯罪ではない。


でも、システムはそれをちゃんと記録していた。


その結果。


ある変化が起きる。



ユニット市場の変動。



ユニット。


ワールドストーリーの超仮想通貨。


この通貨は特殊だった。


普通のゲーム通貨とは違う。


量子計算によって、

•行動リスク

•市場変動

•プレイヤー経済


すべてがリアルタイムで計算されている。


つまり。


リンゴ一個の盗みでも、

市場には影響が出る。



【ユニット市場速報】


バーチャルクライム増加


リスク指数上昇


ユニット価値変動


市場少し荒れてる



「え、リンゴ盗んだだけで?」


「このゲームそういうとこ細かいんだよ。」


「リアル経済っぽいよな。」


「面白いけど。」


そんな小さな騒動さえ、

この世界の一部になっていた。



そしてこの頃。


新しい存在も現れ始める。


インフルエンサー。


ワールドストーリーを専門に配信するプレイヤーたちだ。


動画。


配信。


攻略解説。


そして。


「今日はメルギュロス大陸の北部都市を紹介します!」


「この街の建築、めちゃくちゃ綺麗なんですよ!」


「ここの酒場NPC、めちゃくちゃ会話深いんですよね!」


そういう配信が人気になり始めていた。



「最近さ。」


テトラが言う。


「配信してる人増えたよね。」


「うん。」


街を歩きながら答える。


「観光動画みたいなの。」


「大陸の街紹介とか。」


「そうそう。」


テトラが笑う。


「メルギュロス大陸だけでも、街いっぱいあるからね。」


広場では、誰かが演奏魔法を使って音楽を流している。


子どもプレイヤーが追いかけっこをしている。


遠くで決闘イベントの歓声が上がる。


どこにでもあるような風景。


「……なんかさ。」


テトラがぽつりと言う。


「こういうの、いいよね。」


「何が?」


「普通の会話。」


空を見上げる。


「ダークイベントとか、世界の秘密とか、そういうのも面白いけど。」


少し笑う。


「やっぱり。」


「日常の話がいい。」


その言葉に、静かにうなずいた。


確かに。


街のざわめき。


何気ない会話。


笑い声。


こういう時間があるから、冒険は楽しい。


そしてワールドストーリーは、

またいつもの世界に戻っていた。


少なくとも。


今はまだ。


第十章


闇の勢力の裏側


その頃。


ワールドストーリーの世界が再び穏やかな日常を取り戻しつつある裏側で、

誰にも知られていない場所があった。


それはダンジョンでも、都市でもない。


ワールドストーリーのどのマップにも記録されていない領域。


暗い空間。


光はほとんどない。


だが完全な闇でもない。


そこには、薄い影のような膜が広がっていた。


まるで劇場のスクリーンのように。


その影の膜には、ワールドストーリーの光景が映っている。


メルギュロス大陸。


都市の広場。


プレイヤーたちの会話。


ダンジョン探索。


リンゴを盗むユーザー。


笑い声。


すべてが遠くの劇場の舞台のように映し出されていた。


その前に、いくつかの影が立っている。


輪郭がぼやけた、黒い存在。


形は人のようにも見えるが、完全ではない。


影の一体が、静かに言った。


「……どうだ。」


低く、濁った声。


別の影が答える。


「⚪︎⚪︎様。」


わずかに頭を下げる。


「はい。」


「その件は抜かりなく進んでおります。」


影のスクリーンに、ミラーダンジョンの映像が映る。


黒く染まった鏡の世界。


プレイヤーの恐怖。


ダークイベント。


それらが、静かに再生されていた。


「特異点を特定しました。」


影は続ける。


「座標は、メルギュロス大陸内部。」


「複数の精神領域と量子層が重なった地点。」


スクリーンに、赤い点が灯る。


小さな光。


だがそれは、世界の構造に刺さる針のようだった。


「鍵を再活性化すれば。」


影が言う。


「もうこちらのものです。」


しばらく沈黙が流れる。


そして、奥の暗闇から別の声が響いた。


それは人間の言葉のようでありながら、

完全にはそうではなかった。


ノイズ。


歪んだ音。


壊れた通信のような響き。


「••…,,,…,,..,,…,,..,」


影たちは動かない。


ただ静かに聞いている。


声は続く。


「…,,.,,そうです…」


「……はい。」


最初に話していた影が答える。


「しかし。」


少し間を置く。


「手間取っております。」


スクリーンが変わる。


そこに映るのは、プレイヤーたち。


笑っている。


ダンジョンを攻略している。


街を歩いている。


テトラと主人公が並んで歩く姿も、遠くに小さく映っていた。


影が言う。


「プレイヤーたちの精神構造が予想以上に安定しています。」


「恐怖は広がりましたが。」


「崩壊には至りませんでした。」


別の影が静かに言う。


「なぜだ。」


答える影。


「彼らは――」


スクリーンを見つめる。


「この世界を。」


「愛しています。」


その言葉に、わずかなざわめきが起きる。


「愛?」


「ゲームに?」


「理解不能。」


だが、最初の影は首を振る。


「違う。」


「ゲームではない。」


スクリーンに、街の光景が映る。


笑うプレイヤー。


料理を作るNPC。


ダンジョン攻略。


雑談。


音楽。


「彼らにとって。」


「ここは。」


「世界です。」


沈黙。


そして再び、奥の声が響いた。


歪んだ通信のような声。


「…,.,…そうです…」


「…鍵を…」


「…再起動…」


スクリーンの赤い点が脈打つ。


特異点。


「鍵を再活性化すれば。」


影が繰り返す。


「扉は開きます。」


「始原の闇と。」


「黒の夢領域。」


「そして。」


「この世界。」


「すべてが接続される。」


しばらく誰も動かなかった。


そして。


最も奥の影が、ゆっくりと言った。


「……よい。」


その声は、今までのどれとも違っていた。


静かで。


冷たい。


そして、深い。


「続けよ。」


「はい。」


影たちは頭を下げる。


スクリーンには、ワールドストーリーの街が映っている。


プレイヤーたちは笑っている。


平和な光景。


しかし。


その映像の隅で。


ほんの一瞬だけ。


黒いノイズのようなものが走った。


誰も気づかない。


プレイヤーも。


街のNPCも。


テトラも。


主人公も。


だが。


闇の勢力は。


確実に。


動いていた。


今回は、アビスダンジョン攻略後の達成感から始まりながらも、世界の奥で何かが静かに動き出している気配を描いた章になりました。ダークイベントの噂、ZEROで加速する議論、黒の夢領域という不穏な言葉。そして一度は日常が戻ったように見えながら、その裏では闇の勢力が確かに動いている。そんな「穏やかさの裏側」を意識して書いています。

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仮想世界だと思っていた場所が、少しずつ別の顔を見せ始めます。 続きもよろしくお願いします。
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