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テトラと魔法と剣と神ゲー

第六章


第一章 治療のあと


それから、二年が過ぎた。


カレンダーの日付は

2039年。


窓の外の街は、以前よりも少しだけ静かで、少しだけ明るかった。


空には配送ドローンが飛び、ビルの外壁には薄いホログラム広告が流れている。

それでも、世界の空気はどこか柔らかくなっていた。


「今日の調子はどうですか?」


白い部屋の中で、優しい声がする。


目の前には、医療用のホログラムディスプレイ。


そして、その横には看護AIが立っていた。


人間の姿をしているが、完全な人工知能だ。


「……悪くないです。」


自分でも少し驚くほど、落ち着いた声だった。


二年前の自分とは、まるで別人のようだった。


父の遺書を読んだあの日。


それから、長い治療が始まった。


最初は、自分でも何が起きているのか分からなかった。


父のことを思い出そうとすると、

記憶が霧のように崩れていく。


胸の奥が空洞のようになり、

ゲームも、音楽も、何も楽しめなくなった。


その状態を、医療AIはこう診断した。


「重度の認知的喪失ショック」


そしてそこから、治療が始まった。


2030年代の医療は、もう昔とはまるで違っている。


量子医療。


ナノ神経治療。


心理シミュレーション。


そしてサイコスキャン。


何億種類もの薬と治療法があり、

患者一人ひとりに合わせて完全にパーソナライズされる。


AIが脳の状態を解析し、

最も適した治療を組み合わせていく。


それは、まるで心の修復プログラムだった。


「薬の副作用はありませんか?」


看護AIが穏やかに聞く。


「大丈夫です。」


「サイコスキャンの結果も安定しています。」


画面に波形が表示される。


脳活動。


感情バランス。


ストレス指数。


すべてが正常値だった。


「あなたの治療は、ほぼ完了しています。」


看護AIが微笑む。


「……そうですか。」


自分でも、少し実感が湧かない。


二年前の自分は、

まるで別の人間だった。


そして社会も、少し変わっていた。


2037年以降、世界の法律は大きく変わった。


特に医療制度。


昔は「医療保護入院」という制度があった。


精神状態が不安定な人を、

強制的に入院させる制度。


だが、それは2038年に廃止された。


理由は単純だった。


「監禁は犯罪である」


未来法では、そう定義されたのだ。


医療の名目で人を閉じ込めることは、

人権侵害とされた。


代わりに導入されたのが、


完全同意型医療


AIが患者と対話し、

患者の意志を尊重しながら治療を進める。


それが新しい医療だった。


「あなたは自由です。」


看護AIが言う。


「いつでも退院できます。」


昔なら、信じられない言葉だ。


「……」


窓の外を見る。


遠くの空が広い。


あの日。


父の遺書を読んだ日。


世界が終わったように感じた。


でも今は違う。


胸の奥は、静かだった。


「最後に確認します。」


看護AIが言う。


「ゲームプレイに関する心理テストを実行します。」


「ゲーム?」


「はい。」


画面にタイトルが表示される。


ワールドストーリー


二年前。


自分が投げ捨てたゲーム。


あのあと、世界中で爆発的に広まった。


ニュースでも、街でも、

誰もがその名前を口にしている。


「……」


少しだけ胸がざわつく。


「プレイできますか?」


看護AIが聞く。


少しだけ考える。


そして。


「……多分。」


「ログインしてみます。」


看護AIはうなずく。


「それが、あなたの回復の最終段階です。」


ベッドの横には、

ソリトンホラフィックデバイスが置かれていた。


二年前と同じ機械。


でも、今は違う気持ちでそれを見る。


ゆっくり手に取る。


「……」


父のことを思い出そうとする。


顔は思い出せない。


声も思い出せない。


でも。


あの遺書の言葉だけは、

今でもはっきり覚えている。


夢を持て。


夢は死なない。


デバイスの電源を入れる。


光が広がる。


ログイン画面が現れる。


「……」


小さく息を吐く。


「よし。」


そして、静かに言う。


「もう一回やってみるか。」


ワールドストーリー。


ログインボタンを押した。


第六章


第二章 再ログイン


ログインの光が視界を包む。


白い粒子がゆっくりと流れ、

それが空のような空間へと変わっていく。


身体の感覚が戻る。


足元に地面。

冷たい空気。

遠くで鳥の鳴き声が聞こえる。


「……」


ゆっくりと目を開ける。


そこは草原だった。


見覚えのある場所。


ワールドストーリーの初期エリアだ。


二年前と同じはずの景色。


だが、不思議なほど空気がリアルだった。


風の匂い。

草の揺れ。

遠くの山の霞。


すべてが妙に生きている。


「……こんなにリアルだったっけ。」


思わず呟く。


そのとき。


遠くから声が聞こえた。


「……あ!」


振り向く。


一人の少女が走ってくる。


金色の髪が風に揺れている。


赤いマント。


白いブーツ。


そして――


クリスマスの衣装だった。


赤と白のコートに、ふわふわの襟。


胸元には小さなベル。


そして頭には小さな帽子。


少女は手を振る。


「久しぶり!」


その声を聞いた瞬間、

胸がドクンと鳴った。


「……テトラ?」


少女は笑う。


「そうだよ!」


二年前に別れた少女。


テトラ。


でも――


違う。


「……」


思わず言葉を失う。


テトラは二年前より、ずっと成長していた。


背も少し高くなっている。


表情も大人びている。


そして何より――


目が、輝いている。


「どうしたの?」


テトラが首を傾げる。


「久しぶりだから?」


「いや……」


思わず言う。


「ちょっと……」


言葉が詰まる。


正直に言えば。


一瞬で。


完全に。


一目惚れだった。


テトラは笑う。


「二年ぶりだもんね。」


「私、すごく強くなったんだよ!」


そう言うと、手を空にかざす。


空気が震える。


「見てて!」


次の瞬間。


テトラの周囲に光が生まれる。


炎。


氷。


雷。


風。


光。


闇。


さらにいくつもの属性が、

同時に浮かび上がる。


「……!」


思わず声が出る。


「なにそれ……」


テトラは少し得意そうに笑う。


「私ね。」


指を鳴らす。


氷の槍が空中に現れる。


それが砕けると、

雷の火花が散る。


「オールエレメンタリスト。」


「十三属性、全部使えるんだ。」


「……」


絶句する。


十三属性。


それは、このゲームで最上位に近い魔法系クラスだった。


「そんなクラスあったっけ……」


テトラは笑う。


「最近追加されたの!」


「エクストラクラス!」


そして突然、腕を掴まれる。


「ね!」


「クエスト行こうよ!」


引っ張られるまま、草原を歩く。


村が見えてくる。


小さな木の家。


煙突から煙が上がっている。


テトラはその家の前で止まる。


「ここ!」


「私の家!」


「……え?」


思わず聞き返す。


「家?」


テトラは誇らしそうに言う。


「そう!」


「自分で作ったの!」


ドアを開ける。


中は暖かかった。


木の床。


暖炉。


テーブル。


まるで本物の家のようだった。


「すごいな……」


思わず呟く。


テトラは笑う。


「でしょ?」


そして突然、斧を渡される。


「はい!」


「薪割り!」


「……え?」


「冬だからね!」


「薪ないと寒いよ!」


外に連れ出される。


丸太が積んである。


「こうやって――」


テトラが斧を振る。


カンッ!


綺麗に割れる。


「できる?」


「……多分。」


斧を振る。


カンッ!


割れた。


テトラが笑う。


「上手!」


それからしばらく。


二人で薪を割る。


風が吹く。


空が青い。


時間がゆっくり流れる。


気づけば夕方だった。


家の中に戻る。


テーブルに料理が並ぶ。


パン。


スープ。


焼いた肉。


「食べて!」


テトラが笑う。


「……」


一口食べる。


「……うまい。」


思わず言う。


「でしょ?」


テトラは嬉しそうに笑う。


その笑顔を見て、

胸がまたドクンと鳴る。


「……」


ふと、違和感に気づく。


スープの香り。


パンの温度。


暖炉の熱。


全部――


妙にリアルだった。


リアルすぎる。


まるで。


「……」


現実みたいだ。


その考えを振り払う。


テトラが笑っている。


それだけで、

今は十分だった。


テトラが言う。


「また明日もクエスト行こうね!」


「ダンジョンもあるし!」


「……ああ。」


頷く。


窓の外を見る。


雪が少し降り始めていた。


その夜。


久しぶりに、

心が少しだけ軽かった。


第六章


第三章 世紀の神ゲー


それから、しばらくの間。


ワールドストーリーは、まるで日常の一部になった。


朝起きる。

軽く食事をする。

ニュースを見る。


そしてログインする。


草原の風。

テトラの笑顔。

クエスト。

ダンジョン。


その繰り返し。


でも、不思議と飽きることはなかった。


むしろ現実よりも、あの世界の方が生きている感じがした。


「……」


ある日、街へ出た。


2039年の都市は、以前よりも賑やかだった。


人々はみんな何かを楽しんでいる。


ホログラム広告が流れる。


そのほとんどに、同じ言葉が表示されていた。


ワールドストーリー


「……またか。」


思わず呟く。


コンビニのディスプレイでも。


地下鉄のモニターでも。


街の巨大スクリーンでも。


同じ名前が流れている。


ワールドストーリー。


それはもう、ただのゲームじゃなかった。


「聞いた?」


近くのカフェから声が聞こえる。


若い二人組が話していた。


「総ユーザー数、ついに二億四千万だって。」


「マジで?」


「やばくね?」


思わず足を止める。


「世界人口の何割だよそれ……」


もう一人が笑う。


「今世紀最大の神ゲーらしいぞ。」


「神ゲーってレベルじゃないだろ。」


別の席から声が飛ぶ。


「しかもさ。」


「ゲームやるだけで、ユニバーサルハイインカム上乗せされるって聞いた。」


「え?」


「マジ?」


「なんか社会参加扱いになるらしい。」


「意味わかんねえ!」


みんな笑う。


「でもさ。」


別の男が言う。


「デザインやばくね?」


「世界のスケールが桁違いだろ。」


「ダンジョンとか都市とかさ。」


「全部リアルすぎる。」


「しかもNPCが人間みたいなんだよ。」


「わかる。」


「AIが本当に生きてるみたいなんだよな。」


都市伝説も流れていた。


「なあ。」


誰かが言う。


「このゲームさ。」


「制作者いないらしいぜ。」


一瞬、空気が止まる。


「……は?」


「0人。」


「笑わせんなよ。」


別の男が笑う。


「ゲームには必ずクリエイターがいるだろ。」


「だから俺たちは遊べるんだろ?」


「そうそう。」


「会社とかチームとか。」


「普通そうだろ。」


だが、最初の男は首を振る。


「いや。」


「マジらしい。」


「開発者の名前が一人も出てこない。」


「運営会社も存在しない。」


「サーバーの場所も不明。」


「は?」


「そんなわけあるか。」


「もし一人で作ったならまだわかるけどな。」


誰かが笑う。


「いやいや。」


「一人でもおかしいだろ、この規模。」


「宇宙レベルだぞ。」


「どうやって作るんだよ。」


みんな肩をすくめる。


「AIじゃね?」


「AGIが勝手に作ったとか。」


「それもう都市伝説だろ。」


笑い声が広がる。


だが、そのとき。


空に光が走る。


青い線。


雷のような光。


「おお!」


誰かが指をさす。


「見ろよ!」


広場の中央。


数人の若者が立っている。


そのうちの一人が手を上げる。


「いくぞ!」


手のひらから光が生まれる。


次の瞬間。


炎が走る。


「おおお!!」


周囲から歓声が上がる。


炎は空中で消える。


だがそれは、ただのCGではなかった。


本当に熱を持っていた。


「魔法だ。」


誰かが言う。


「ワールドストーリーのスキル。」


「リアルでも使えるのかよ!」


もう一人が言う。


「バディ持ち込みOKになったんだよ。」


「対戦バディ。」


ワールドストーリーで育てた能力。


それを現実の都市空間でも使える。


もちろん制限付きだが。


「すげえ時代だな……」


空にはまた別の光。


氷の粒。


風の刃。


小さな雷。


街の一角が、まるでファンタジーになっている。


だが誰も驚かない。


それが普通の光景になっていた。


魔法。


AI。


量子ネットワーク。


そしてワールドストーリー。


すべてが繋がっている。


「……」


街の中央スクリーンに、巨大な文字が出る。


WORLD STORY


その下に、小さく表示される。


次のログインイベントまで 3時間


人々が歓声を上げる。


「帰ってログインしよ!」


「今日のクエストまだやってない!」


「テトラとダンジョン行く約束してんだよ!」


その名前を聞いた瞬間。


胸が少しだけ熱くなる。


「……」


小さく呟く。


「テトラ。」


そして思う。


このゲーム。


本当に。


誰が作ったんだ。


第六章


第四章 魔法のかたち


その日の夜。


部屋の照明を落とし、

ソリトンホラフィックデバイスを手に取る。


画面にはログイン画面。


WORLD STORY


深呼吸する。


二年前とは違う。


今は逃げる気はなかった。


「……ログイン。」


光が広がる。


空間が溶ける。


身体の感覚が変わる。


そして次の瞬間。


足の裏に、柔らかい土の感触。


風が吹く。


草の匂いがする。


ワールドストーリーの世界だった。


「やっと来た!」


声がする。


振り向く。


テトラが立っていた。


相変わらずの笑顔。


今日はクリスマス衣装ではなく、

軽い冒険服だった。


でも目は輝いている。


「遅いよ!」


「ちょっと街寄ってた。」


そう答える。


テトラは腕を組む。


「ふーん?」


少し疑うような目。


でもすぐ笑う。


「まあいいや!」


「今日は新しいダンジョン行こう!」


そう言って歩き出す。


しばらく歩いていると、

ふと気になることが頭に浮かんだ。


「……なあ。」


「ん?」


テトラが振り向く。


「魔法ってさ。」


テトラが使っているあれ。


氷の槍。


雷。


炎。


「どうやって使うんだ?」


テトラは一瞬きょとんとした。


そして笑う。


「あー。」


「そこ?」


「いや。」


正直に言う。


「ずっと気になってた。」


「そういえば教えてなかったね。」


テトラは立ち止まる。


そして小さく手を上げる。


「見てて。」


空気が静かに揺れる。


テトラの指先に、光が集まる。


冷たい青い粒。


それが一瞬で形を作る。


アイシクル。


氷の槍が空中に浮かび、

遠くの岩に突き刺さる。


バキッ。


砕ける音。


「……すげえ。」


思わず言う。


テトラは笑う。


「これね。」


「基本魔法。」


指を一本立てる。


「魔法にはランクがあるの。」


「七段階。」


地面に杖で円を描く。


その円の中に、七つの光が現れる。


「この世界の魔法は、根源人種の力から来てる。」


「根源人種?」


「うん。」


テトラは言う。


「この世界の最初の種族。」


「魔法の源。」


光が一つずつ輝く。


「初級。」


「中級。」


「上級。」


「高位。」


「聖位。」


「王位。」


「そして――」


最後の光。


強く輝く。


「根源位。」


思わず息を飲む。


「そこまで行くと、世界そのものを動かせるって言われてる。」


「……」


スケールが違う。


テトラは笑う。


「でもね。」


「魔法の基本は簡単だよ。」


少し近づいてくる。


そして言う。


「こうして。」


目を閉じる。


「心の中で。」


小さく囁く。


「こう。」


その瞬間。


空気が震える。


小さな雷が指先に生まれる。


パチッ。


「……!」


「わかった?」


首を振る。


「いや。」


「全然。」


テトラはくすっと笑う。


「じゃあ説明するね。」


少し真面目な顔になる。


「魔法っていうのは。」


空を指す。


「無に。」


胸を指す。


「心の作用を通して。」


そして手のひらを開く。


「具現化すること。」


小さな炎が生まれる。


ゆらゆら揺れる。


「現実では無理なこと。」


「でも。」


炎が大きくなる。


「心が媒介になると。」


炎が消える。


「可能になる。」


しばらく沈黙。


「……」


正直。


少し鳥肌が立った。


テトラの魔法は、

ただのゲームスキルに見えなかった。


もっと。


生きている力のようだった。


「詠唱は?」


聞く。


テトラはうなずく。


「あるよ。」


「でも。」


口元に指を当てる。


「私は暗唱してる。」


「暗唱?」


「心の中で詠唱するの。」


「声に出さない。」


なるほど。


「じゃあ。」


「無詠唱って?」


テトラの目が少し細くなる。


「それは。」


「もっと上。」


空を見上げる。


「一部の特殊な人しかできない。」


「完全に思考だけで魔法を出す。」


「……」


少し黙る。


テトラが言う。


「でも。」


「君ならできるかも。」


「え?」


テトラは笑う。


「なんとなく。」


風が吹く。


草が揺れる。


遠くの空に雲が流れていく。


「……」


ふと気づく。


自分が。


完全に。


テトラの魔法に魅了されていることに。


第六章


第五章 武器の選び方


次の日。


ワールドストーリーの空は、やけに澄んでいた。


雲がゆっくり流れ、

遠くの山脈が青く霞んでいる。


テトラはいつものように元気だった。


「今日は街行こ!」


突然そう言う。


「街?」


「うん!」


くるっと振り向く。


「武器見に行くの!」


「武器?」


思わず聞き返す。


「君、まだちゃんとした武器持ってないでしょ?」


確かにそうだった。


今まで適当に拾った剣しか使っていない。


「……まあ。」


「でしょ!」


テトラは満足そうにうなずく。


「じゃあ決まり!」


二人で街へ向かう。


石畳の道。


人の声。


遠くで鍛冶の音が響く。


ワールドストーリーの都市は、以前よりもずっと賑やかだった。


プレイヤー。


NPC。


商人。


魔法使い。


みんなが自由に行き来している。


そして街の中心には、大きな武器屋があった。


看板には大きく書かれている。


ガルド鍛冶工房


扉を開ける。


カラン、とベルが鳴る。


中には無数の武器が並んでいた。


剣。


槍。


斧。


弓。


壁一面に輝いている。


「おお……」


思わず声が出る。


「すごいでしょ?」


テトラが笑う。


カウンターの奥から、店主が顔を出す。


大きな体。


長い髭。


典型的な鍛冶屋だ。


「いらっしゃい。」


低い声。


「武器を探してるのか?」


テトラがうなずく。


「この人の!」


店主はじっとこちらを見る。


そして棚を指す。


「剣ならあっちだ。」


歩いていく。


いくつもの剣が並んでいる。


長剣。


短剣。


大剣。


そしてその中に、一本の剣が目に入った。


少し短め。


でも重厚感がある。


手に取る。


重さがちょうどいい。


「……これ。」


店主が言う。


「ミディアムソードだ。」


「扱いやすいぞ。」


剣を軽く振る。


ヒュン、と空気が鳴る。


「いいな。」


思わず言う。


テトラがうなずく。


「うん。」


「その長さいいと思う。」


「バランスもいい。」


店主が続ける。


「物理武器にはな。」


棚を叩く。


「流派派生がある。」


「流派?」


「そうだ。」


店主は一本の剣を取り出す。


刃に虎の紋様が刻まれている。


「これはタイガー派生。」


別の剣を出す。


赤い刃。


「これはドラゴン派生。」


さらに別の棚を指す。


「だいたい動物だな。」


「狼。」


「鷹。」


「蛇。」


「熊。」


「……」


聞いているだけで面白い。


店主はさらに言う。


「中にはな。」


少し笑う。


「モンスター派生もある。」


テトラが笑う。


「レアなやつ!」


「そうそう。」


店主がうなずく。


「だが。」


こちらを見る。


「お前は魔法も使うだろ?」


少し考える。


でも答えはすぐ出た。


「……魔は。」


剣を見つめる。


「魔法でいい。」


テトラがにやっと笑う。


「言うと思った。」


店主が棚を指す。


「なら。」


一本の剣を取り出す。


その刃は青く輝いている。


龍の紋様が刻まれていた。


「龍派生。」


剣を差し出す。


手に取る。


不思議な感覚だった。


まるで剣がこちらを選んでいるような。


刃がかすかに震える。


「……」


胸の奥が熱くなる。


「これだ。」


自然に言葉が出た。


テトラが笑う。


「やっぱり。」


「似合うよ。」


店主がうなずく。


「いい選択だ。」


「龍派生はな。」


剣を指す。


「成長する。」


「成長?」


「使うほどに。」


店主は笑う。


「龍になる。」


その言葉を聞いた瞬間。


不思議な予感がした。


この剣。


きっと。


自分の物語に関わる。


そう思った。


第六章


第六章 小さな冒険の日々


龍派生のミディアムソードを手に入れてから、

ワールドストーリーでの生活は少し変わった。


それまでは、ただテトラの後ろをついていくことが多かった。


でも今は違う。


剣がある。


戦える。


そして何より、

テトラと並んで冒険できる。


「今日はダンジョン行こ!」


朝、テトラが元気よく言う。


彼女は相変わらず楽しそうだった。


魔法の腕はさらに上がっている。


指を軽く動かすだけで、


炎。

氷。

雷。

風。


さまざまな属性が自然に現れる。


十三属性のオールエレメンタリスト。


普通のプレイヤーではありえないクラス。


でもテトラは、それを当然のように扱っていた。


「行くよ!」


森の奥へ進む。


そこには小さなダンジョンがあった。


翠影の洞窟。


入口は岩でできていて、

苔が生えている。


中は少し暗い。


「モンスター出るよ。」


テトラが言う。


その瞬間。


影が動く。


狼型モンスター。


三体。


「来た!」


テトラの指が動く。


「アイシクル!」


氷の槍が飛ぶ。


一体が凍る。


残り二体がこちらへ飛びかかる。


剣を構える。


「……よし。」


龍派生のミディアムソード。


振る。


ヒュン。


狼の爪を弾く。


もう一度振る。


斬撃。


狼が倒れる。


「おお!」


テトラが笑う。


「強くなってる!」


残り一体。


テトラが指を鳴らす。


「サンダー。」


雷が走る。


狼が倒れる。


静かになる。


「ナイス!」


テトラが親指を立てる。


思わず笑う。


「……楽しいな。」


言葉が自然に出る。


二年前。


ゲームなんてもうできないと思っていた。


でも今は違う。


洞窟の奥へ進む。


宝箱がある。


テトラが開ける。


「やった!」


中には素材が入っている。


魔石。


鉱石。


少しのお金。


「これでまた武器強化できる!」


テトラが嬉しそうに言う。


洞窟を出る。


空が広い。


風が気持ちいい。


「お腹すいた。」


テトラが突然言う。


「帰ろ!」


二人で家へ戻る。


テトラの家。


小さな木の家。


煙突から煙が出ている。


「今日はね。」


テトラが言う。


「シチュー作る!」


キッチンに立つ。


鍋をかき混ぜる。


野菜の匂い。


肉の匂い。


「手伝う?」


「じゃあパン切って!」


言われた通りにする。


こういう時間が、

なぜかとても楽しかった。


ゲームなのに。


本当に生活しているみたいだった。


食事ができる。


テーブルに並ぶ。


二人で座る。


「いただきます!」


スプーンを入れる。


温かい。


「……うまい。」


思わず言う。


テトラが笑う。


「でしょ!」


その笑顔を見ると、

胸が少し熱くなる。


外を見る。


夕焼け。


空が赤い。


静かな時間が流れる。


「ね。」


テトラが言う。


「明日はさ。」


「大きいダンジョン行こう。」


「いいね。」


答える。


そしてふと思う。


この世界。


ワールドストーリー。


ただのゲームのはずなのに。


時間が。


感情が。


現実みたいに流れている。


でも今は、それでよかった。


剣がある。


冒険がある。


そして――


テトラがいる。


それだけで、

日々は十分幸せだった。

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仮想世界だと思っていた場所が、少しずつ別の顔を見せ始めます。 続きもよろしくお願いします。
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