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扉が開いた日

北の森へ向かう足取りが、

昨日までとは少しだけ違っていた。


理由は分からない。

でも、分かっていることが一つある。


――今日は、何かが起きる。


根拠はない。

ただ、そんな気がした。


廃塔の前に立つと、

空気が静かだった。


拒絶がないわけじゃない。

でも、張りつめてもいない。


俺は、いつもの距離まで歩いて、

……そこで止まらなかった。


五日目に許された距離。

その、さらに半歩先。


魔力が揺れる。


拒絶は来ない。


「……来すぎ」


扉の向こうから声。


怒ってはいない。

戸惑いの方が強い。


「ごめん」


素直に謝る。


「今日は、ちょっと様子が変だから」


沈黙。


しばらくして、低い声。


「……それ、私も」


その瞬間だった。


森の奥から、

空気を引き裂くような魔力の波動が走った。


地面が、震える。


鳥が一斉に飛び立つ。


俺は、すぐに分かった。


これは昨日の魔物なんかじゃない。


「……まずいな」


廃塔の壁が、きしんだ。


リュシアの魔力が、無意識に反応している。


「……来てる」


扉の向こうで、声が震えた。


「王都の……追跡術式」


一気に、話が繋がる。


「お前を、探してる?」


返事がない。


代わりに、

魔力の圧が急激に上がった。


これは拒絶じゃない。


恐怖だ。


森の奥から、三人。


黒い外套を纏った魔術師。


王都の紋章。


「いたぞ」


「やはり、ここだったか」


「天才魔術師リュシア。

 王命だ。戻れ」


声は冷たい。


丁寧ですらある。


それが、一番危険だった。


扉の向こうで、

リュシアが息を詰める。


「……また」


過去が、フラッシュバックする。


利用。

失敗。

切り捨て。


「……嫌」


魔力が、暴走しかける。


このままじゃ、

彼女は一人で全部背負って壊れる。


俺は、前に出た。


「止まれ」


三人が、俺を見る。


「なんだ、お前は」


「関係者だ」


嘘は言ってない。


「彼女は、ここで生活している」


「王都の所有物じゃない」


一人が、鼻で笑う。


「才能ある者は、国家資産だ」


「拒否権はない」


――来た。


一番、聞きたくなかった言葉。


俺は、スキルを使った。


◆原因鑑定:Root Cause


対象:追跡魔術師団


【鑑定結果】


根本:

・天才依存型国家運営

・責任転嫁構造

・失敗時のスケープゴート化


「……なるほど」


つまり、

彼女が戻っても、

また同じことが起きる。


なら、選択肢は一つだ。


「リュシア」


扉に向かって言う。


「今から、二人で対処する」


「外に出ろ、とは言わない」


「でも、力は貸してほしい」


沈黙。


長い、長い間。


そして――


ギィ……


音を立てて、

扉が、開いた。


ほんの少し。


隙間から、

青白い瞳がこちらを見る。


「……外、怖い」


「分かってる」


「だから、出なくていい」


「ひきこもったままでいい」


その言葉に、

彼女の魔力が、安定した。


「……やり方、言って」


それが、

彼女の答えだった。


俺は、頷く。


「追跡術式は“認識”が前提だ」


「見つけられなければ、存在しないのと同じ」


「お前の理論なら、できる」


「……森全体を、私の結界にする?」


「そう」


「やりすぎ」


「加減しろ」


一瞬、

リュシアが笑った。


魔法陣が、

廃塔を中心に展開される。


だがそれは、攻撃じゃない。


認識の歪曲。


森に入った者は、

「ここに来る理由」を忘れる。


「……なんだ?」


「何しに来たんだ、俺たち」


三人の魔術師が、

混乱し始める。


数分後、

彼らは何事もなかったかのように、

森を去っていった。


静寂。


俺は、息を吐いた。


「……終わった」


扉が、完全に開く。


リュシアが、

廃塔の内側から一歩も出ずに立っている。


「……外、出てない」


「完璧だ」


しばらく、沈黙。


それから、彼女が言った。


「……一緒にいていい?」


命令じゃない。

契約でもない。


お願いだ。


俺は、即答した。


「もちろん」


その日、

リュシアは廃塔から出なかった。


でも――


俺の仲間になった。


ひきこもりのまま。

扉の内側のまま。


それでいい。


そして――


この出会いが、

やがて語られることになる。


世界各地に散らばる

才能あるひきこもりたちを束ね、

常識も、国家も、戦場の形すらも塗り替えた存在。


後に人々が、畏れと皮肉と敬意を込めて呼ぶことになる。


最強ひきこもり軍団。


その、はじまりの一人が――

確かに、ここに加わった。

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