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扉の向こうから伸びた魔法

翌日も、俺は北の森へ向かった。


理由は単純だ。

約束したから。


昨日と同じ時間、

昨日と同じ距離。


俺は扉の前に腰を下ろした。


何も言わない。


しばらくして、

魔力の圧がわずかに緩む。


昨日より、ほんの少しだけ。


「……また来たんだ」


低い声。


驚きが混じっている。


「約束しただろ」


それだけ返す。


それ以上は話さない。


この日は、それで終わった。


三日目。


森の空気は、もう完全な拒絶ではなかった。


「来るな」ではなく、

「様子を見る」に変わっている。


俺は同じ場所に座る。


沈黙のあと、声。


「……暇なの?」


少しだけ棘がある。


でも、会話だ。


「暇じゃない」


「じゃあ、なんで来るの」


「来るって言ったから」


沈黙。


そのあと、

小さく、困ったような気配。


その日は、それ以上何も起きなかった。


五日目。


明確な変化が起きた。


廃塔に近づいた瞬間、

魔力の壁が、少しだけ薄い。


完全に消えたわけじゃない。


でも、

近づくこと自体を拒んでいない。


「……今日は、ちょっと近くてもいい」


扉の向こうの声。


俺は一歩だけ前に出た。


それ以上は行かない。


「ここまででいい?」


「……うん」


それだけで、十分だった。


七日目。


初めて、

扉の向こうから話題が出た。


「……毎日来る人、初めて」


責めでも皮肉でもない。


ただの事実。


「そうか」


それだけ返す。


その距離感が、ちょうどよかった。


十日目。


事件は、帰り際に起きた。


森を抜けかけたところで、

背後の空気が歪んだ。


遅れて、低い唸り声。


振り向くと、

黒い獣型の魔物が二体。


牙が長く、

目が赤い。


距離は近い。


逃げ切れるか、微妙だ。


「……やばいな」


剣も、魔法もない。


俺は戦える人間じゃない。


一歩、後退した瞬間。


足元の枯れ枝が折れた。


それが、合図だった。


魔物が跳ぶ。


――間に合わない。


そう思った、その時。


空気が、凍った。


「……やめて」


かすかな声。


扉の向こうから、

魔力が放たれた。


直接の攻撃じゃない。


空間そのものが、歪む。


魔物の足元に、

見えない魔法陣が展開された。


次の瞬間、

獣の体が、地面に叩きつけられる。


悲鳴。


もう一体が逃げようとしたが、

森の木々が軋み、道を塞ぐ。


数秒。


それだけで、終わった。


俺は、しばらく動けなかった。


助かった。


確実に。


でも、それよりも――


「……今の」


声が震える。


廃塔の方を見る。


沈黙。


そして、微かに聞こえる。


「……ケガされると気分悪いから」


俺は、すぐに答えなかった。


少し間を置いて、言う。


「ありがとう」


その日、結局扉は開かなかった。


でも、

扉の向こうと外の境界は、

確実に変わった。


助けた。


助けられた。


それだけで、

関係は一段、先に進む。


帰り道、思う。


無理に外へ引きずり出さなくていい。


才能を使え、なんて言わなくていい。


ひきこもったままでも、

誰かを助けることはできる。


それに、

彼女自身が気づいた。


そしてたぶん――


次に扉が開く日は、

もう遠くない。

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