第5話 おじさんが相手をしてあげよう。来な。
ライオネル王国の地方都市ディードへ同行する事になったとはいえ、同意を得るための誠心誠意のオハナシにより、その道中は実にギスギスしたものだったが、水瀬としてはディードへ向かうまでと割り切っていたので、ミントやレナード達の警戒する態度に全く不満はなかった。
寧ろ、これで水瀬に警戒を持っていなければ、悪い意味でレナード達に関心していたかもしれない。
そんな訳で、水瀬は道中、この世界の事をより詳しく尋ねると、ミントがそれに答えてくれた。
どうやらこの世界は世界全体の名前と言うモノはなく、またそんな事は誰も気にもしていないそうである。
そしてこの世界は自分達のいる中央大陸が文字通りの中心で、海を隔てて東西南北それぞれに大陸があり、そこでもそれぞれの文化を形成しているが、西と北は中央大陸の文化とよく似ており、南はエルフ、獣人、ドワーフ、魔族と言った亜人がメインの大陸で、東は独特の文化となっており、西と北と中央大陸は、水瀬の基準で西洋文化で東の大陸は東洋文化の様で南の大陸は東西ごちゃ混ぜの様である。
種族に上記で述べた様に様々な種族がおり、純粋な人間族は人族と呼ばれているそうである。
亜人はエルフ、獣人、ドワーフ、魔族の他に龍人族と言うのもおり、北と東は人族と龍人族、獣人族がメインとなっているそうである。
「とまぁ、こんな感じですね。」
「ふ~ん、ありがとね。おじさんに講習してくれて。」
「と言うかおっさん、こんな当たり前の事、聞くなよ。」
「ひひっ、悪いねお嬢ちゃん。でも、おじさんとっても遠い場所から来たから、おじさんの常識と違っている場合があるから、摺合せをしておいた方が後で赤っ恥をかかなくて良いだろうぉ。」
「まぁ、そりゃあ、そうだけど・・・。」
ミントの説明に礼を言った水瀬にリタが噛みついて来たので、相手が好きに解釈出来る様に答えると、案の定、リタは渋々と言った様子ながら水瀬の言う事に納得した様子だった。
話を聞いている間に距離もそれなりに進んでいたらしく城壁のようなモノが見えてきた。どうやら、それがディードと言う都市らしい。
それを目にしながら、レベルについても訊こうとした時だった。それほど遠くないところから「ウオォン」という狼らしき唸り声が聞こえ、次にガサガサと草をかき分けて大きなものが走ってくる音が聞こえ、程なくして荷馬車の前に銀色の毛色をした大型犬を一回り大きくした狼のモンスターが姿を現し、立ちはだかった。
「なっ!?シルバーウルフ!?」
「嘘っ!?よりによって護衛している時に遭遇するなんて!!」
立ちはだかった狼のモンスターを見て動揺するレナードとエマ、そこにリタが「待て!違う!よく見ろ!あれは進化体だ!!」と叫んだ。
また専門用語が出てきたなと思いつつ、水瀬も狼のモンスターをよく見てみると、所々、毛色が金色になっているのに気づいた。
ミントやレナード達も気付いた様で、絶句しているのが感じられた。
シルバーウルフは「グルル」と唸り声を上げて威圧し、ミントやレナード達は蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなっている中、水瀬はと言うと、
う~ん、お嬢ちゃん達の様子を見ると、ヤバいのに遭遇した様なんだが、俺にはデカい犬っころにしか見えないんだよねぇ、さて、これは俺の危機感が低いためか、この犬っころが弱いからか、どっちかな?
そんな事を考えながら荷馬車の前に立ち、シルバーウルフと対峙する水瀬。
すぐさま、レナード達から「おいっ!?何考えてんだおっさん?!」「引け!殺されるぞ!!」「一人で手に負える相手じゃない!!」「水瀬さん!!殺されますよ!!」と声が背中に飛んでくるが、
「ひひっ、だってお嬢ちゃん達、この犬っころにブルって動けないだろうぉ、なら、おじさんが駆除するしかないだろうが。」
と見向きもせず答えると
「という訳で犬っころ、おじさんが相手をしてあげよう。来な。」
片手を上げて、クイクイと動かすと、シルバーウルフは挑発されたと理解出来た様で、一声叫ぶと水瀬に襲い掛かって来た。
「へぇ、挑発されたと理解できるだけの知性はあるって訳か。オラァ!!」
間合に入った瞬間にカウンターで全力の右ストレートの一撃を叩き込もうとしたが、しかしシルバーウルフは、物理法則を無視したように方向転換し、水瀬の一撃を難なく躱して後ずさり、馬鹿にした様に鼻を鳴らした。
「ふん、化け物だけあってあり得ねぇ動きはお手の物ってか」
水瀬の呟きを第二ラウンドの合図としたのか、シルバーウルフは再び水瀬に駆けてきたが、今度は物理法則を無視したような動きで、高速で蛇行しながら彼に迫って来た。
今度は水瀬の正面左側から飛び掛かろうとしたので、左拳の裏拳を叩き込もうとしたら、シルバーウルフは反対側の水瀬の正面右側へと飛び、虚を突かれて動きが一瞬、硬直した彼の隙を逃さず、シルバーウルフは水瀬の首を狙った。
「?!チィッ!!」
咄嗟に身体をずらして首元を噛みつかれるのは避けたが、右肩をガブリと噛みつかれ、その牙は皮膚を貫通して水瀬の右肩部分は瞬く間に血に染まり、垂れてきた。
シルバーウルフはそのまま水瀬の右肩を食いちぎろうとしたが、その前に水瀬の両手が噛みついているシルバーウルフの顔と身体を強く掴み、その痛みでシルバーウルフの噛みつく力が弱まったところで、
「痛ってぇんだよ!!この駄犬がぁ!!」
無防備なシルバーウルフの柔らかい腹に、水瀬の全力の右膝蹴りが突き刺さった。
「ギャフーン!!」と叫びながら血を吐くシルバーウルフ。そんなシルバーウルフにもう一度、全力の右膝蹴りを叩き込み、今度は『ギャブッ!』と呻きながら再び血を吐くと、シルバーウルフの身体から力が抜けてダランとなって小刻みに震えた。
「とっととくたばれ!!駄犬!!」
瀕死のシルバーウルフの身体を頭上高く持ち上げると、勢いよく地面に叩きつけ、シルバーウルフは「ギャン!!」と断末魔を上げると、その身体は地面に少しめり込んでおり、ピクリとも動かなくなった。
「こういう躾のなってない駄犬は、やっぱり暴力で躾けるのが一番だな。」
水瀬はそう言って、鼻を鳴らした。
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