表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻と土竜(メグルとモグラ)  作者: HS_TOUKA
第1章 死と再生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/86

第1章 04


 エントランスから続く長い廊下を歩いていると、突き当りに見上げるほど巨大な観音開きのドアが現れた。

 ドアプレートには『煉獄長(れんごくちょう)室』と書かれている。

 しかしよく見れば『中有(ちゅうう)』という文字の上に紙を貼って『煉獄(れんごく)』と書き換えられていた。


中有(ちゅうう)より迫力のある『煉獄(れんごく)』という呼び方を広めたのは、じつは煉獄長(れんごくちょう)自身だという噂があったけど、本当みたいだな……」


 ドアをノックする。

 すると、ぎりぎりと錆びついた音を響かせながら、観音開きの巨大なドアが、ゆっくりとひとりでに開いた。

 廊下の明かりが一本の道となって部屋の中へのびる。

 そこは吸い込まれそうな深い闇に包まれた空間だった。


 男は緊張で高鳴る胸を押さえ、そろそろと部屋に足を踏み入れた。


「失礼します……」

 蚊の鳴くような男の声が、暗闇のなかをこだまする。


(ここはずいぶんと広い部屋のようだけど……)

 ぐるりと辺りを見渡そうとしたとき、背後で激しい音をたててドアが閉まった。

 漆黒の闇が男を包み込む。


 すると闇の奥から、年老いた男の返事が聞こえてきた。


「おお……来たか」

 しわがれているが優しい声。


煉獄長(れんごくちょう)』などと威圧感のある呼称を好むあたり、ドスの()いた恐ろしい声を想像していた男は、拍子抜けしてしまった。

 しかし姿は見えない。


 男が奥へ進もうとすると、再び声が聞こえた。

「そこでよい。まぁ掛けなさい」


 暗闇のなか、男は手をのばして辺りを探ってみたが、椅子のようなものは何処(どこ)にもなかった。男を囲むようにして四本の柱が立っているだけだ。


 それが巨大な椅子の足だとようやく気付いた男は、柱をよじ登って四畳半ほどの広さがある座面の中央に正座した。座面の四隅に置かれたロウソクに、ぽうぽうと火が灯る。男の姿がぼんやりと朱色の明かりで照らし出されたとき、煉獄長が静かに話を始めた。


「今回のきみの人生についてだが……」


 男が緊張しつつ耳を傾ける。


「きみのように人間界へ昇界(しょうかい)して来たばかりの魂は、まず十二個の試練星を持っておる。大抵の者が一回の人生で乗り越えられる試練は二、三個。よって、よくできた魂でも四、五回は転生を繰り返すことになるじゃろう」


 ばつが悪そうにくせっ毛頭を()きながら、男はうなづいた。

「それはもちろん、承知しています……」


 男の頭に苦い思い出がよみがえる。

 それは、ひとつ下の世界『修羅(しゅら)界』をただの一度で卒業し、意気揚々と煉獄へやって来たときのことである。


「ぼくなら人間界も一度でパスさ。『天界』行きも楽勝だね!」

 自信満々でそう語る男に、人間界の常連である先輩たちは口々にこう言ったのだ。


「おのぼりさんが笑わせんなよ。人間界はそんなに甘くないぜ」


「長い長い十層界(じっそうかい)の旅も、おれたち凡人にとっちゃ、ここが終着点。地獄界へ帰りたいなら、おれが案内してやるけどな」


 確かに、人間界は魔界と真如(しんにょ)界側との境界線。そう簡単には卒業できないか……。


 己の考えの甘さに、顔から火が出るほど恥をかいた男は、先輩たちの罵声を浴びつつ、地道にがんばろうと心を改めたのである。



「快挙じゃ」


 煉獄長の言葉に男ははっと我に返った。


「ありえぬ話ではない。が、一回の人生で十二個すべての試練を乗り越えた者は……。わしの記憶が確かなら、およそ二五〇〇年ぶりの快挙である」


 暗闇が静寂に包まれる。ロウソクの明かりだけが、ちりちりと(かす)かな音を立てて揺れている。

 男は煉獄長の言葉を、何度も心の中で繰り返していた。


「…………!」


 ようやくその意味を理解できた瞬間、マグマのように心の奥底でくすぶっていた男の野望が、火山の爆発のごとく一気に噴き出した。


(やったあああっ!)飛び上がり、心の中で叫ぶ。


(やはりそうだ。ぼくは普通じゃない!

 エリート! それも二五〇〇年に一度の、超エリート!!

『人間界』など、ぼくにはただの通過点。ぼくの住むべき世界は六道(ろくどう)の頂上『天界』!

 いや、十層界(じっそうかい)の頂上『真如(しんにょ)界』でさえ、夢ではないかも……)



「……続けて、よいかの?」


 突如聞こえた煉獄長の言葉に、男はどきりとした。

(こちらからは暗闇しか見えなくても、煉獄長様には、ロウソクの明かりの中で、さもしくはしゃぐ姿を見られていたはず……)

 全身に滝のような冷や汗をかきながら、再び男はその場に正座した。


「超エリートのきみに、(たく)したい使命がある」


 男の顔が真っ赤に染まる。

(超エリートだなんて煉獄長様の言葉とは思えない。やはり煉獄長様は、すべてお見通しなのだ……)


 必死に落ち着こうと努めた男は、その直後の聞き慣れない言葉に、思いがけず平静を取り戻すことになる。



「管理人じゃ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ