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輪廻と土竜(メグルとモグラ)  作者: HS_TOUKA
第14章 導くもの

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第14章 07

 

「ごらん。サヤカがまた生まれる」



 一匹の(うじ)が、また泥の中から顔を出した。

 うねうねともがきながら泥から抜け出したサヤカの体は、みるみるうちに親指ほどの大きさにまで成長した。


 できたばかりの小さな目玉で、(おのれ)()された新しい世界、地獄界の惨憺(さんたん)たる有様をじっと見つめている。



(十界の最下層であるこの地獄界で、サヤカは何を見て、何を思うのだろう……)



 メグルは再び消え入りそうになる意識をぐっと(こら)えて、サヤカを見守っていた。

 すると、ひとりの赤ん坊が目敏(めざと)くサヤカを見つけ出した。成長すればするほど、この沼では目に付きやすく危険が増すのだ。


 赤ん坊は両手で泥を派手に叩きながら、地響きを立ててサヤカのもとへやって来る。



「やめろ! サヤカに近づくなっ!」


 思わず叫ぶメグル。

 その声が地獄界の住人に聞こえるはずもなかったが、なぜか赤ん坊は足がもつれて前のめりに転び、巨大な顔を泥に沈めた。


 赤ん坊から逃れることができたサヤカの体はさらに大きくなり、徐々に手足のようなものが生えてきた。


 しかし安堵(あんど)するのも(つか)()、生えたばかりの手足で、よろめきながら立ち上がろうとしたとき、転んでいた赤ん坊が再びやって来て、自分の体の半分にも満たないサヤカの横腹に頭突きした。


 サヤカは泥の沼を転がり、そのまま動かなくなってしまった。



(がんばれサヤカ、(あきら)めるな……!)


 メグルの悲痛な願いが届いたのか、サヤカは小さな(うめき)き声を漏らしながらも、泥だらけの顔を上げた。その体は、もう他の赤ん坊たちと変わらないまでに成長している。



 サヤカは震える足で立ち上がると、足もとでうごめく(うじ)には目もくれず、(うじ)を潰して()いまわる仲間のもとへ向かった。そしてひとりの赤ん坊の腕をつかみ、ずるずるとその体を引っぱり岸へと向かう。


 サヤカの思いがけぬ行動に、困惑しながら見つめるメグル。


 遊びを邪魔された赤ん坊は手足をばたつかせて暴れだすが、それでもサヤカはその手を離さなかった。


 他の赤ん坊たちが、その異変に気付きだす。

 遊びを邪魔する異端の存在に、訝しげな視線を向ける赤ん坊たち。


 やがて彼らはサヤカを取り囲み、蛆の替わりと言わんばかりに袋叩きにし始めた。

 殴られ、蹴られ、血を流しながらも、しかしサヤカは赤ん坊の腕を決して離さず、岸に向かって泥の沼を()い続ける。



「何してるんだサヤカ! 手を離せ! 構わずひとりで岸に上がるんだ!」


 メグルの必死の願いも叫びも、もう届くことはなかった。

 サヤカは最後まで手を離さず、岸を目前に精根(せいこん)尽き果て、泥に倒れた。

 赤ん坊たちは、なおも執拗(しつよう)にサヤカを蹴り続け、その体は、ついに泥の中へと消えた。


「ああ、サヤカ……。あと少しで岸に上がれたのに、なんで……」



 ……わからぬか。


 煉獄(れんごく)長は消え入りそうなメグルの声を聞きながら、サヤカの想いを感じていた。


 彼女はお前の愛情に応えたのだ。

 魂は愛情をもらった者に似て育つ。サヤカの行動はメグルよ、お前の行動そのものなのだ……。



 そのとき――。




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