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輪廻と土竜(メグルとモグラ)  作者: HS_TOUKA
第14章 導くもの

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第14章 06

 

「お前はいま『地獄界』におる」



 とたんにメグルは、自分が地獄界にいる怖ろしさに戦慄(せんりつ)した。小刻みに震える肩を両手で抱こうとしたき、自分の体が無いことに気付いた。


 メグルは、意識だけの存在になっていた。

 その意識に、煉獄(れんごく)長が語りかける。



「あの赤黒い泥の沼は『地獄界』の罰のひとつ……。ぽつぽつと泡のようにわいているのが見えるか? あれは(うじ)じゃよ。あれが、この世界の住人じゃ」


 メグルの意識が眼下に広がる泥の沼に近づいていく。うごめく(うじ)の一匹一匹が見えるほどに近づいたとき、煉獄(れんごく)長の声が再び聞こえた。



「よく見ておれ。もうすぐ生まれる」


 泥の中から、白い(うじ)が体をうねらせながら顔を出した。


「見えるか? これがサヤカじゃ」



 変わり果てたサヤカの姿に、メグルは心臓を潰されたようなショックを受けた。

 意識が揺らぎ、散っていく。


 その意識が、地獄界の焼けるような風に吹き飛ばされそうになったとき、煉獄(れんごく)長が静かな声で叱った。



(こら)えろメグル。サヤカを真に想うなら、どんなに(つら)かろうが、お前自身が見守らねばならぬ」



 悲嘆(ひたん)にくれる自分の心に鞭打つように、メグルは強く意識を集中した。

 (かすみ)のように消えかかっていた己の意識が、またひとつにまとまるのを感じた。


 そのとき、メグルの意識の背後から巨大な気配が近づいてきた。

 それはメグルの意識を素通りし、サヤカのもとへと飛んでいく。


 その正体は、ぷくぷくと肉付きのいい赤ん坊の手の平だった。

 (うじ)に意識を集中していたので、赤ん坊の手の平でさえ、とても巨大に感じたのだ。


 圧倒されているメグルの目の前で、声を掛ける間も無くサヤカはその手に押し潰された。

 


「ああ、サヤカ……!」



 赤黒い泥の沼が、サヤカの血でさらに赤く染まる。

 巨大な手の持ち主である赤ん坊は、産まれたままの姿で面白そうに(うじ)を潰し、その血で赤黒く染まった沼を()い回っている。


 沼には他にも沢山の赤ん坊たちがいて、みな手や足で(うじ)を潰して遊んでいた。



「あの赤ん坊は、この(うじ)から成長したのだ。先に生まれた者は、足もとから生まれ()でる我が兄弟たちを、(たわむ)れに潰し、踏みつけて遊んでいるのじゃ。

 彼らに潰されずに運良く育つ者は、ほんのひと握り。そのひと握りの赤ん坊たちが、また(うじ)たちを踏みつけて遊ぶ。ここではそれが永遠に繰り返され、大抵の者は何千、何万と、この沼で転生(てんせい)を繰り返すことになるじゃろう……」



 また一匹、(うじ)が顔を出したとたん、踏みつけられて死んだ。


幾度(いくど)も踏みつけられ、幾度(いくど)と殺されようとも、(あきら)めずに生まれ()でんとする者だけが、この沼から()い出ることができる。(あきら)めれば、永遠に沼の泥となるだけじゃ」


 (あわ)れにも生まれてすぐに命を奪われていく(うじ)たちを、メグルはただ呆然(ぼうぜん)と見つめていた。


幾多(いくた)もあろう地獄界の罰のなか、この沼から(せい)を受ける者たちはみな、身内との因縁(いんねん)で命を絶った者たちなのだろうか……)




「ごらん。サヤカがまた生まれる」



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