第11章 04
「そんなの言い訳にもならないわ!」
トモルの腕を引っぱり、繋がったふたりの視線を断ち切った。
「大人はいいわよね、お酒に逃げられるから! ならトモくんは? あなたまでトモくんを無視するなら、トモくんはどこへ逃げればよかったの?!
あなたしか味方がいなかったのに! あなたにしか、抱きしめてあげることが出来なかったっていうのにっ!」
そして清美の前に立ち、蔑んだ目で見下ろした。
「わたしのお母さんも離婚してからお酒ばかり飲んでひどく荒れてた。でも、新しくお父さんになる人を紹介してくれたとき、お母さんはとても嬉しそうだった。あんなにきらきらと輝いているお母さんを見るのはとても久しぶりだった。
やがてその人とも別れることになって、落ち込んでいるお母さんが見てられなくて、わたしは思わず抱きついたの。そしたら、痣になるほど何度も殴られた……。
わたしがいけなかったんだ。お母さんの笑顔をいつまでも見られるならって、あの男の言うことを何でも聞いてたから……。
春にこっちに引っ越してからは、わたしは始めから居ない者として、ゴミと一緒に奥の部屋に閉じ込められた……。学校に行くことも、部屋から出ることすら許されず、一週間に一度ゴミと一緒に投げ込まれる、一袋の食パンで生きていた。
夏になった頃には、それすら無くなり、ゴミの中の残飯とペットボトルに溜った水しか飲めずに、そのうち汗も出なくなって、体がしびれて動けなくなって……。
部屋に転がっている割れた酒瓶を見つけたとき、ようやくわたしは楽になれると思った」
サヤカが清美の目の前に左腕を突き出し、腕時計の赤いベルトを外した。
とたんに清美が目を背ける。
サヤカの手首には、いまにも血が噴き出しそうなほどの、生々しい切り傷が隠されていたのだ。
「薄れていく意識のなかで、次に目を開けたときには、きっとこの悪夢から覚めると信じていた。目の前にはお母さんの、あの優しい笑顔があると……。なのに目を覚ましたら、相変わらずわたしはゴミと酒瓶に埋もれた部屋の中にいた……。
わたしは幸せになることも死ぬことすらもできない。そしたらバカらしくなっちゃって……。
なんでわたしが死ななければならないんだって! なんで以前の優しいお母さんに会えるだなんて、一瞬でも夢見たんだろうって!!」
サヤカはまた腕時計をはめて傷を隠した。
「トモくんの味方はわたしだけ。この計画は絶対成功させる。見せつけてやるのよ! 自分の醜い姿が見えない、愚かな大人たちに!」




