第9章 04
「妙な書き込み?」
「ああ。落ち着いて聞けよ。『ぼくをいじめたやつらに告ぐ。今日、お前たちは後悔することになるだろう』……ってな」
メグルの背筋に悪寒が走る。
モグラが神妙な顔で続けた。
「トモルの母ちゃんには内緒にしてある。投稿者がトモルとは限らねぇからな。第一、トモルにはネットにアクセスできるような端末を持たせてないそうだ。だが嫌な予感がするぜ。もしかしたら自殺……」
「ない! ありえない! トモルに限って……」
そう言いながらも、メグルの顔から血の気が引いていく。
居ても立ってもいられず、メグルは学校に向かって走り出した。走りながら桜子先生の携帯電話をカバンから取り出し、着信履歴に残る最後の番号に発信した。
「清美……いえ、トモルくんのお母さんですか? こちらでもトモルくんは見つからなかったので、一度学校に戻って、校内を捜してみようと思います」
「そうですか……」
電話に出た清美が力無くこたえる。
「あっ、でもこっらは任せて。さっき別の先生も来てくださったので、その先生と校舎内を捜してみます。メグルくんは引き続き、桜子先生と街を捜してもらえますか?」
「わかりました、それじゃあ学校の方は頼みます。では」
メグルは電話を切った。
(もっとトモルの家の近所を捜してみよう。桜子先生は、ぼくをできるだけ遠くへ連れて行こうとしていた。ならば逆に、トモルはそう遠くには行っていないはずだ)
再びメグルは、夜の街を全力で走り出した。
(それにしても、別の先生って誰だろう?)
ふとよぎった疑問は、焦る気持ちにかき消された。
*
「いまの電話、誰からですか?」
携帯電話をしまう清美の背後で、低い声が静かに響いた。
「トモルのお友だちでメグルくんっていう子です。桜子先生と一緒に、外でトモルを捜し回ってくれているんです」
「ほう、あの六道メグルですか。彼なら安心できます。しっかりしてますからな。とても子どもとは思えないほどに……。では、参りましょう」
低い声の男は校務員室の引き戸を開け、清美を部屋の外に出るよう促した。
「あの……。先生は何年生の担当をなさっているんですか?」
校務員室の引き戸を通りながら、清美が訊ねる。
「これはこれは……。わたしをお忘れですか? お会いしているはずですが」
鋭い目つきで、男が清美を見つめた。
「すみません……」
申し訳ない気持ちで視線を落とす清美。
「教頭です。教頭の神崎。以後、お見知りおきを……」
ふたりは薄暗い廊下を、ゆっくりと歩き出した。
ぼんやりと白み始めた窓の外ではカラスの鳴き声が響き、夜明けが近いことを知らせている。
しかし空には鉛色の雲が広がり、朝を迎えても陽の光が街を照らすことはなさそうだった。




