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輪廻と土竜(メグルとモグラ)  作者: HS_TOUKA
第9章 真夜中の捜索

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第9章 03


「……それがどうかした?」


 桜子先生が、ついにその口を開いた。


「わたしはただサイトを開設して悪口を書き込んだだけ。あの親子はサイトを見ていないし、わたしは何も危害を加えてないわ」


「先生は自分の手を汚さずに、あのサイトを見た親や生徒たちの悪意を利用して、トモルと清美を追い込んだんだ!」


 メグルが静かに続ける。



「本能のままに生き、他を(かえり)みることがない。善悪に頓着(とんちゃく)が無く、命を平気で(もてあそ)ぶことがある。まるで小動物をいたぶる猫のように……。

 (おろか)なるは畜生(ちくしょう)。先生は『畜生(ちくしょう)界』から来た越界者(えっかいしゃ)ですね」



 桜子先生の背中が、かすかに揺れている。


「んふふ……。何を言ってるの? メグルくん変だわ。まるで『管理人』みたい」


「語るに落ちましたね、先生。『管理人』を知っている人間などいない!」



「あっはは!」


 背を向けたまま、桜子先生は手を叩いて笑いだした。


「ダメねぇ。まだこの世界に慣れてなくって……。ああ、大変だった。人間のフリするのも苦労するわ……」


 くるりとふり返ったその瞳は、ぎゅっと細長く、怪しく黄色に光っていた。




「たった一行の文章で、昨日までの友だちを裏切るんだもの。笑えるったらないわよ! 人間なんて上等なもんじゃないわ。ほんと単純。おバカな操り人形よ!!」




 メグルはカバンから取り出したマントを羽織(はお)り、右手に『魔捕瓶(まほうびん)』を掲げた。


「やっぱり、()()()の言った通り、メグルくんは『管理人』だったのねぇ。

 でも、こんなに遠くまで誘い出せたんだから、わたしの仕事は大成功! この計画が成功すれば、わたしは魔鬼として生まれ変わり、魔界に迎えられるの。

 ここでメグルくんに捕まって地獄界に堕とされても、すぐに天魔(てんま)様が迎えに来てくれるわ」


 桜子先生は腰を落として丸くなると、思い切り地面を蹴った。空高く舞い上がったその姿が、闇夜に紛れる。



「そんな()()()()()に釣られるのも『畜生(ちくしょう)界』の現れですよ、先生!」


 メグルは『魔捕瓶(まほうびん)』の栓を抜き、桜子先生めがけて放り投げた。



「この世に不法に存在する罪深き者よ。十層界(じっそうかい)の法を犯す者よ。管理人の名において、地獄界送りの刑に処す!」



 遥か頭上を飛翔する、ビルのネオンを背にした桜子先生のシルエット。

 ぐにゃりと歪んで『魔捕瓶(まほうびん)』に吸い込まれたかに見えたとき、そのシルエットから細長い尻尾が生えて、鞭を打ったような強烈な音が真夜中のビル街にこだまする。


 目の前に迫り来る物体が、跳ね返された『魔捕瓶(まほうびん)』だと認識できた刹那、メグルの額に激痛が走った。

 無数の星がほとばしり、視界が闇に沈んでいく。



 桜子先生は音もなく着地すると、もんどり打って倒れるメグルを睨みつけながら、地面に転がる『魔捕瓶(まほうびん)』を踏みつけて割った。



「甘ク見るナよ、メグルゥウッ!」



 黄色の瞳がギラリと光る。その指先から、鋭い爪がのびた。


 態勢を低くし、裂けたスカートからのぞかせた長い尻尾をゆらりと揺らしつつ、うずくまるメグルに照準を定め飛びかかろうとした。



 その瞬間――。



 ガラリという音とともに桜子先生の姿が忽然(こつぜん)と消えた。

 かわりに地面からひょっこりと顔を出したのは、モグラだった。



「おひょ。間一髪! 大丈夫かメグル」


 メグルが額を押さえ、よろめきながら立ち上がる。


「痛てて……。わりと早かったじゃないか」


「おいらの下水道網をバカにすんなよ? 地上の十倍は速く移動できるぜ」



 モグラはひょいっと地上に出ると、マンホールの蓋を閉め、どっかと上に座った。


「このマンホールの中は行き止まりにしておいた。桜子先生は袋のネズミ……。いや、袋の化け猫か。

 それよりメグル、ここはおいらにまかせて、お前さんは急いでトモルを捜してくれ。おいらが学校を出る直前、例のサイトに妙な書き込みが投稿されたんだ」



「妙な書き込み?」





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