第8章 02
『ようこそ! 都立J小学校 情報掲示板へ』
「これは……?」
「個人の手により勝手につくられた、ウチの学校の非公式コミュニティサイト、いわゆる『学校裏サイト』ってやつ?」
「学校裏サイト……って、おい冗談だろ? SNSが全盛の時代に、いまさら掲示板って……」
「だからこそよ! 匿名性が高くアカウントなしで書き込めるこの手のサイトは、悪巧みをする連中には、まだまだ需要があるんだよ。
これは、ほんの一ヶ月くらい前に開設されたばかりらしいんだけど、桜子先生はこれを見て大鏡の幽霊話を知ったそうだぜ」
どうだとばかりに胸を張るモグラに、メグルが急き込んで聞く。
「知ったそうだぜって……。お前、まさか桜子先生に大鏡の幽霊話のこと、直接聞いたのか?!」
「そうよ。今日の昼休みにね……。そしたら桜子先生、このサイトのこと教えてくれたんよ」
モグラがキーボードを叩いてパスワードを入力する。
「MATATABIと……。大方、前の校務員が大鏡の幽霊話をここに書き込んだんだろ。
これで桜子先生の疑いは晴れたなメグル。お前がこっそり桜子先生を疑っていることぐらい、おいらが見抜けないとでも思ったかね? ん? どうよ??」
モグラの言葉を無視してメグルはモニタを見つめていた。
『不審者情報』『モンペア報告会』『大鏡の幽霊話』『推しのイケメン教師』など、ずらりと並ぶスレッドのなかに『ホケンのT』というタイトルを見つけたのだ。
ざわりと胸が騒ぐのを感じながら、メグルはマウスを滑らせ、そのタイトルをクリックした。
「おいらもまだちゃんと見てないんだよ。なんか気になる情報でもあったか?」
モグラがモニタとメグルの顔を交互にのぞく。
「みんなで……トモルのことを……」
メグルの顔は呆然としているように見える。
が、その目に涙を滲ませているのを見て、モグラは血相を変えてモニタを睨んだ。
そのスレッドには実名こそあげられていないが、トモル親子と思われる人物を誹謗中傷する文章で埋まっていた。
『Tくん、また今日も保健室だったそうです。いっそのこと転校してもらうと助かるんだけど』
『警察に捕まってれば話が早いのにね。娘にはTくんと関わるなって忠告してます』
『Tくんママ、もう仕事してないらしいよ。いいご身分だ』
『私が職場に密告したんです。金持ちが道楽で働かれても気分悪いし』
『ウチの近所に住んでるけど、最近ずいぶんやつれてるよ。天罰だね♪』
『保険金目当てに殺された旦那の呪いじゃないの? でもどうやって殺したんだっけ?』
『そんなのどうでもいいじゃないですか。この情報は確かです。平和な街に平然とのさばる悪人は、天に代わって、わたしたちみんなで懲らしめましょう!』
「どうしてこんなこと……。書き込んでいるのは、みんな大人じゃないか。自分にも子どもがいる親だろうに……」
頬を伝う涙を拭いながら画面を見つめるメグルに、神妙な態度でモグラがこたえる。
「きっと悪意なんてありゃしねぇのさ。それどころか、社会から『悪』を追放しようと本気で思っている。大方、我が子から少しでも『悪』を遠ざけようと、こっそり話してるんだろうよ。殺人犯の息子とは付き合うなってな……」
一転、メグルの顔をニヤニヤと見つめながら、意地悪そうに訊ねた。
「いやしかし驚いたぁねぇ、まったく。保険金目当てに殺された旦那って、お前さんのことだろ? ……お前さん、奥さんに殺されたのけ?」
「そんなわけないだろっ!」
怒鳴りながらも前世の記憶をほとんど無くしているメグルは、自分の言葉に確証が持てなくて苛立った。
「ぼくは煉獄から見たんだ! 妻の……」
(妻の……どんな姿を……?)
「トモルの家に行ってくる!」




