第7章 01 クラスメイト
六時限目の始まりを告げるチャイムが響くなか、サヤカとふたり廊下を走る。
教室のドアを開けると、思った通りの大騒ぎでふたりは迎えられた。
ただでさえ仲を噂されているふたりが、一緒に授業をさぼってどこかに消えたのだ。騒ぎにならない方がおかしい。
桜子先生にも当然叱られる覚悟はしていたが 「あらまぁ、愛の逃避行? 大胆ねぇ」と、生徒と一緒にふたりを茶化しただけで、そのまま授業を始めた。
面倒な言い訳もせずに助かったが、最近の先生はこんなことでいいのだろうか? とメグルは逆に心配になってしまった。
そのとき、またしても例の十二個の試練星を頭上に浮かべたタカシが、教室の一番うしろの席で騒ぎだした。
「先生ぇ! 今日もトモルは、ひとり寂しく哀の逃避行をしています! どうせ帰って来ないだろうから、花を生けときましたぁ!」
見るとトモルの机には花瓶が置かれていて、どこからむしってきたのか、萎びれた花が一輪突っこまれていた。
「また今日も、トモくんは保健室でおさぼりかぁ……。ダメっ子ねぇ」
桜子先生が肩をすくめて、お手上げとばかりの態度をとる。
とたんにクラスのみんなは、お決まりのギャグでも聞いたかのように、どっと笑いだした。
「そうだメグルくん、保健室に行ってトモくんを連れて来てよん。もし教室まで引っぱって来られたら、愛の逃避行の件は、許して、あ、げ、る!」
桜子先生が人差し指を立ててウインクすると、またもや教室は笑いに包まれた。
メグルは憮然とした態度で席を立った。そしてトモルの机に置かれた花瓶を手に取り、タカシの席へ行くと、それを机に叩き置く。
「なんだよメグル! お前、転校生のくせに、このおれに文句でもあるってのか?!」
そう怒鳴って、胸ぐらにつかみ掛かろうとしたタカシの腕を、メグルは流れるような体さばきで捻り上げ、タカシの背中に押し当てた。
そして背後から耳元にささやく。
「きみは冗談のつもりでも、やられた方は真剣に悩んでいるんだ。
意味はわからないだろうが、今から言うことを肝に銘じておけ。
試練星は簡単に増えるぞ。せっかく人間界へ来られたというのに、このままじゃ次の転生で堕界するぞ!」
捻った腕をメグルが離すと、タカシは前屈みになって床に倒れた。
ゆっくりとふり返るその顔は屈辱に染まり、怒りに満ちた目は鋭くメグルを睨みつけている。
(所詮、修羅界からのおのぼりさんか……)
睨みつけるタカシに一瞥をくれて、メグルは教室をあとにした。




