表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻と土竜(メグルとモグラ)  作者: HS_TOUKA
第5章 闇夜の訪問者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/86

第5章 01 闇夜の訪問者


 登校初日の夜にして、すでにメグルとモグラは新校舎一階にある校務員室にいた。

 モグラの下心が関係しているとはいえ、こんなにもうまくいくとは上々と、メグルはひとり満足気だった。


「なかなか居心地のいいとこじゃないか」


 お茶をすすりながらメグルが部屋を見まわす。

 六畳一間の校務員室は畳のしかれた小奇麗な和室だった。座卓にはポットとお茶菓子まで用意されていて、極め付けにエアコンまで完備されている。人間界管理人のメグルにあてがわれた、あの暑苦しくてカビ臭さい四畳半の小部屋に比べたら、段違いの心地良さだ。


「ああ、そうね」


 しかしモグラはごろんと寝そべり、背を向けたまま気のない返事をした。

 桜子先生が帰宅したとたん、モグラのテンションは急激に下がっていた。


「おいモグラ、本来の目的を忘れるなよ」


「本来の目的? なんだっけ……」

 モグラが大きなあくびをする。


「この学校のどこかにある越界門(えっかいもん)を潰すんだろ! そのためにお前と親子になってまで、学校に潜入したんじゃないか!」


「冗談だよ……。魔鬼が越界門(えっかいもん)を開くのは明後日(あさって)の満月の夜。今日はもう寝ようぜ。疲れちまったんだ……」


 そう言ってモグラは、仰向けになって目を閉じてしまった。


 メグルは肩をすくめて、またお茶を飲もうとした。

 湯のみの中に、栗色のくせっ毛頭の少年の顔が映る。メグルは新しい自分の顔にすっかり慣れていた。引きかえに前世の自分の姿は、もうすっかり忘れていた。


「今日、トモル……。息子に会ったんだ」

 メグルがぽつりと(つぶや)く。


「ん? あぁ、前世のときの息子か。トモルっていうの?」


 モグラが仰向けに寝たまま片目をあけて、ちろりとメグルを見た。


「それが……、ぼくは前世のことをほとんど覚えていないんだ……。息子がいたことも、今日、息子の顔を見てようやく思い出した。いや、つい数日前までは覚えていたはずなんだ。でも、気を抜くと日に日に忘れていってしまう……」


 モグラはむくっと起き上がると、着ていた作業服を脱ぎだした。


「そら仕方ないね。死んで煉獄(れんごく)に戻ったとたん、生前の出来事は夢幻(ゆめまぼろし)のように感じるだろ? お前さん、一週間前にどんな夢を見たか覚えているかね?」


「夢……なんか見たかな?」


「ほらな? 誰でも夢は見てんのさ。でも起きた瞬間に忘れちまう。もし覚えていたとしても、朝飯を喰ってる頃には忘れちまってる。そんなもんさ」


 モグラは作業服をハンガーに掛けると、となりのハンガーに掛かっている、いつもの黒いぼろぼろのスーツを手に取った。


「なんか薄情だな。この世に残された者は、いつまでも死んだ者のことを忘れられないというのに……」


 メグルは申しわけない気持ちで肩を落とすと、座卓にあごをついて小さく息を吐いた。


「管理人は仕方ねぇのさ。守護霊をやらずに、こっちの世界に来ちまってるんだからな」


 本来ならメグルも、次に転生するまでのあいだは煉獄(れんごく)で守護霊となり、残した家族の人生を見守るはずであった。だが管理人という仕事を引き受けてしまった以上、それはできない。


 いまは他の者が引き続き守護霊となり、メグルが残した家族を見守ってくれているはずだ。


「忘れちまいな。前世のお前さんと、管理人のお前さんとはまったくの無関係。そのトモルって息子にも、あんまり関わるじゃあねえぜ?」


 そう言うとモグラは、すっかりぼろぼろのスーツに着替えて寝てしまった。



(そういえば、サヤカもそんなこと言ってたっけな……)


 ふと、そんなことを思い出しながら、メグルも部屋の(あか)りを消して眠りについた。



          *



 廊下から硬い足音が聞こえた――。


 そんな気がしてメグルは目を覚ました。

 窓から差し込む月明かりが、部屋の中を青白く照らしている。メグルは廊下に面している校務員室の引き戸に視線を移した。


 引き戸にはめ込まれた曇りガラスは黒いまま。廊下の(あか)りはついていない。


(気のせいか……)


 そう思って目を閉じたとき、今度は、はっきりと廊下から足音が聞こえた。



「ま、魔鬼だメグル! 魔鬼が来たんだよぅ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ