表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻と土竜(メグルとモグラ)  作者: HS_TOUKA
第4章 トモル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/86

第4章 06


「あのな、おいらが帰ろうとすると、そこの松の木を剪定(せんてい)してるオヤジがいたんだよ。それがまるでなっちゃいねえのさ。仕方ねぇから、おいらハサミを取り上げてササーッと刈り上げてやったのよ。何を隠そう、江戸の時分は庭師を生業(なりわい)にしてたからよう。

 そしたらオヤジ感動してな。おいらの格好を頭のてっぺんからつま先まで見て、よかったらウチの校務員として働かないかね。って言うわけよ。オヤジ、ここの校長だったのさ。

 おいらは悩んだよ? でもオヤジがどうしてもって言うからさぁ。上場企業の役員として数千名の社員に()しまれますが、この(まな)()と未来ある子どもたちのために、いまの会社をスッパリと辞めて引き受けましょう! って言ったら、そのオヤジ、ゲラゲラ笑ってな。何がおかしいんだか、よくわからないんだけど……。これは人助けだメグル」


 思わず頭を抱え込むメグル


(人助けをしたと思っているのは、むしろ校長の方だろう。あのぼろぼろの服を着ていたんじゃ、誰だって無職だと思うはずだ……)


 メグルは周囲に人がいないか見まわすと、声を押し殺して怒鳴った。


「お前、気は確かか? この学校には魔鬼がいるんだぞ! 今朝はさっさと帰りたがっていたじゃないか!」


 そしてモグラの顔を下からのぞき込み、キッと睨み付けて、とどめを刺す。


「本当はお前、桜子先生が目当てだろっ!」


 まるでペンキをかけられたみたいに、モグラの顔が一瞬にして真っ赤に染まる。


「ば、ばか言っちゃいけないよ。お前、あれだよ、それだよ……」


 しどろもどろのモグラは、はっと何かに気が付いたように、ぽんっと手を打つと、メグルに耳打ちした。


「作戦だ」

「作戦?」


「そうよ。いいか、魔鬼は昼夜を問わず越界門(えっかいもん)を見張っている。夜の学校にも必ず現れるはずだ。だから校務員なのさ。普通のやつは夜の学校をおおっぴらにうろちょろできねぇ。だが、校務員なら話は別。学校に泊って監視することができるからな」


「なるほど……」


 思いも寄らぬモグラの名案にメグルが(うな)った。さらに言えば『モグラの息子』という設定のメグルが、父親と夜の学校に宿直したって不思議じゃない。



「あらぁ、メグルくんのお父さま。まだいらしてたんですかぁ?」


 ひそひそと話をするふたりの背中に、とつぜん声がかかった。ふり返ると、桜子先生が妖しい目つきでふたりを見つめている。


 とたんにモグラの垂れた目尻が、ぎゅいんとつり上がった。


「いやぁ、どうもどうも桜子先生。わたくし、校長のたっての希望で、この学校の校務員として働くことになりました!」


 それを聞いて、さすがの桜子先生も顔を引きつらせた。


「だ、大丈夫ですの? お仕事の方は……」


「それはもう、前の会社では、辞めてくれるな、行ってくれるなの大合唱でしたが、桜子先生のような立派な教師の方々と、未来ある子どもたちの為の労働に(いそ)しむ幸せに比べれば……」


 桜子先生はあごに手を当て、厳しい顔でうつむいてしまった。


「桜子先生、お気分でも……?!」

 心配そうにモグラが駆け寄る。


「あっ、いえ、大丈夫です。前の校務員を……、いえ、前の校務員さんが突然辞めてしまって、代わりがいなかったので助かります……」


 桜子先生は、さらに神妙な顔で続けた。


「でも安請け合いなさらない方が……。出るんですよ、うちの学校」


「出るって、何がでしょ?」

「何がって、お化けです!」


 モグラが笑った。


「大丈夫ですよ! お化けなんかね、このドリュー様のスクリュードリューパンチで……」


 モグラが素人目にも未経験だと見破れる、へなちょこなシャドーボクシングを始めたとたん、校庭に三時限目の始業を知らせるチャイムが鳴り響いた。


「本当に、やめた方がいいですよ……」


 桜子先生が心配そうに言い残し、校舎へ戻っていく。

 だらしなく目尻を垂らしながら、うっとりと後ろ姿を見つめるモグラ。


「やさしいな、桜子先生……。おいらの身をあんなに案じてくれるなんて……」



「それはどうかな……」


 前髪を指に絡ませながら、メグルも桜子先生の背中を見送った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ