第4章 03
メグルは深い霧に沈んだ記憶の森を、必死に走り回っていた。
(ぼくは何処かで、この子と会っている……!!)
懸命に記憶を取り戻そうとするメグル。
するとサヤカが、本を持つトモルの腕をそっと指で撫でながら言葉を続けた。
「トモくん、クラスのみんなに仲間外れにされているの。かわいそうよ。最近、お父さんを亡くされたばかりだっていうのに……」
その瞬間、痺れるほどの強烈な電流が、メグルの脳内を一瞬にして駆け巡った。
(間違いない!)
メグルは確信した。
(ぼくは前世でこの子の父親だった! 死ぬ間際、真っ白な天井を見つめていたあのとき、視界の端で必死に声をかけていた、ぼくの息子だ!)
メグルの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。
再会できた喜びの涙ではない。
前世での息子を目の前にして、なかなか思い出すことができなかった自分が許せなかったのだ。
トモルが涙に驚いている。メグルはあわてて濡れた頬を拭った。
「ぼくの名前は六道メグル。さっきはじっと見つめちゃってごめん。きみがぼくの、そのう……、親友にそっくりだったから」
「……えっ?」
ずっと本に落としていた視線が、少しだけメグルに向いた。
「うん。お父さん残念だったね。もしよかったら、ぼくと友だちになってよ」
トモルの頬がぽうっと赤くなり、表情が少し和らぐ。
メグルは閉じきったトモルの心をなんとかしてこじ開けたいと思っていた。幼い息子ともっと一緒に過ごしたかったという前世での強い想いが、そうさせたのかも知れない。
いまは少しでも、息子と繋がりを持っていたかった。
「じゃあわたし、もう行くね」
仲間外れのトモルに友だちができる――。
しかしサヤカはその状況に興味がないのか、いつのまにかふたりに背を向け教室に戻ろうとしていた。
が、ふと立ち止まり、メグルのところに駆け寄ると、そっと耳打ちする。
「あんまりトモくんと関わらない方がいいよ……」
驚いて目を見張るメグルに、サヤカは不可解な微笑を残して保健室をあとにした。




