第3章 02(挿絵)
「そうだ! 忘れてたぜ。あぶねぇ、あぶねぇ……」
モグラはポケットからビー玉をいくつか取り出し、メグルに手渡した。
「なんだこれ、例のGPS発信器じゃないか」
「あとで説明するって言ったろ。GPSは越界者の情報を管理人に渡すために、こっそり付け足した機能。本来、これは『擬星玉』と言って、おいらたち越界者が管理人に正体がバレないようにするための、偽の『星』だよ」
モグラが自分の頭めがけて『擬星玉』を放り投げる。すると『擬星玉』は、モグラの頭上で煙のようにすうっと消えた。
「おい、『星見鏡』で見てみな」
モグラに言われた通り、メグルはカバンから分厚いレンズの黒ぶち眼鏡『星見鏡』を取り出して掛けると、モグラの頭上を見た。そこには本物と見まごうばかりの『試練星』が一個浮かんでいた。
「魔鬼は眼鏡なしで『星』が見えるからな。この『擬星玉』を使わないと、『星』のない管理人や越界者は一発で正体がバレちまう」
メグルは『擬星玉』に小さなスイッチが付いているのを見つけた。スイッチを押すと、『星』は光を発して『成就星』になった。
「ぼくは人間界を一度でパスした超エリートだからね。この年齢だと、こんな感じかな」
メグルが自分の頭上に次々と『擬星玉』を放り投げる。
モグラが『星見鏡』を取り上げてメグルの頭上を見ると、そこには『試練星』三個、『成就星』九個が浮いていた。
「初めての人間界。そしてなんとこの年齢で、すでに残る試練は三個っていう、ぼくらしいエリート設定さ」
「バカ。目立ってどうすんだよ。もっと普通にしな」
モグラがメグルの頭上の『星』を回収する。
結局『試練星』二個、『成就星』一個で落ち着いた。
「人間界を四、五回転生して、来世こそは『天界』に行けるかなぁ……っていう設定だ。どうよ、リアルだろ?」
「こんな凡人のような『星』じゃ、みっともなくて歩けやしない!」
メグルはぶつぶつと文句を言いながら、仕返しにモグラの頭に『試練星』を二個、こっそり追加しておいた。
すっかり準備が整ってしまったふたりは、ようやく重たい一歩を踏み出した。
恐怖と不安が入り交じった歩みは次第に速度が増していき、まるで競歩のような足取りで校庭を突き進む。
真新しい昇降口から新校舎の中へと滑り込み、そのままの勢いで職員室に飛び込んできたふたりを見て、教員たちは怒鳴り込んできたモンスターペアレントかと戦々恐々としたものだが、モグラが引きつった愛想笑いを浮かべながら用件を切り出すと、一転、鼻であしらうような態度で、部屋のすみに置かれたパイプ椅子を指差した。
待たされているあいだ、モグラは自分を奇異な目つきで見ている教員たちを 「全員、目つきが怪しいぜ」と疑った。しかしメグルは、それはモグラの奇異な格好のせいだと確信。気にはしなかった。
しばらくして応接室に案内されたふたりは、ドアをくぐったとたん凍りつく。
そこには、皺ひとつないダークグレーのスーツを着た、細身で背の高い男が立っていた。
教頭にしては若く、ストレートの長い髪をオールバックにして後ろで結わいていたが、だらしない印象はまったくない。ぎろりと鋭い刺すような視線からは、一切の不正も見逃さぬといった厳しい性格を窺わせ、同時に、人間離れした異様な雰囲気も醸し出していた。
ふたりは目で合図した。
(魔鬼はこいつだ! 間違いない!)




