第２章 04
再びモグラがキーボードを叩くと、今度はモニタに日本地図が現れた。地図の上で沢山の青い光が点滅している。
「この青く点滅しているのが、全国にいる越界者たちの居場所だ。どうだい、これで仕事もはかどるだろ。ドリュウ様を見直したか？ ええおい？ ん？」
「どうやって日本じゅうの情報を集めているんだ？」
モグラの自画自賛をそっけなく無視して、メグルが質問した。
「こいつを大量に越界者に流している。越界者には、この玉が必要だからな」
モグラはポケットからビー玉のような物をいくつか取り出した。
「なんだこれ、試練星にそっくりだな……」
しげしげとビー玉を見つめるメグル。
「そりゃあ、ただの玉っころじゃねえさ。本来の使い方は後で説明するが、これにはＧＰＳ機能が埋め込んであるんだ」
「なるほど、発信器ってわけね。確かにこれなら越界者を探し出す手間が省けるよ。ドリュウ凄いな。凄い凄い」
適当に褒めたあと、メグルは青い光に紛れて点滅する、十個ほどの赤い光に気が付いた。
「この赤く点滅しているのは？」
「そりゃあ『魔鬼』の居場所だ」
「魔鬼だって！」突如メグルの目が輝いた。
「越界者には人間と魔鬼の見分けがつくのか？ ていうか、魔鬼相手によく発信器なんて仕込めたな？！」
モグラが首を横にふる。
「いんや、これはＧＰＳ情報じゃねぇ。だいたい、おいらたちだって人間と魔鬼の見分けなんかつかねぇよ。だからこそ、お前さんのあとをつけていたんじゃねぇか」
メグルの頭上に『？』が浮かんでいるのをみて、モグラが続けた。
「いいかね？ 越界者がある日突然、姿を消すことがある。その理由はふたつ。管理人に捕まったか、あるいは魔鬼に消されたかだ」
「魔鬼が越界者を消すだって？ ありえない。だってお前ら仲間だろ？」
肩をすくめるメグルに向かって、突然、モグラが怒鳴った。
「断じて仲間なんかじゃあないっ！」
モグラは一瞬気色ばんだものの、蝶ネクタイを緩めて、落ち着きを取り戻すよう努めながら静かに続けた。
「……確かに、おいらたち越界者は魔鬼の手足となって動く。だがそれは魔界側の辛く厳しいそれぞれの世界より、遥か自由気ままに生きていける、この人間界へ密入界させてもらった見返りとしてなのだ……」
「ふうん……」
メグルはくせのついた前髪をくるくると人差し指に絡ませながら、モグラの反応を静かに観察していた。
（思った通り、越界者と魔鬼は一枚岩じゃないようだな……）
「なんで魔鬼は、お前たち越界者を利用するんだ？」
「それはやつら魔鬼が、十層界の法に縛られて直接人間に手が出せねえからさ。だから代わりに越界者たちを使い、犯罪や暴力を蔓延させて人間界の秩序を乱すんだ。その目的は人間の『試練星』を増やし、魂を大量に魔界側の世界へ堕界させること。ひいては人間界そのものを魔界側に堕してしまうことだ」
「越界者が消されてしまう理由は？」
「せっかく密入界させた越界者のなかにも、おいらみたいに命令された悪事をせず、のんびりゆったり人間界で暮らす奴がいる。かと思えば、昨夜のように越界者の存在が人間にバレてしまいそうなほど派手にやりすぎる奴もいる……。そんなやつらが魔鬼に消されちまうってわけよ」
「なるほどね……。で、話をもとに戻すけど、どうしてぼくのあとをつけると魔鬼の居場所がわかるのさ？」
モグラは、はあ～っと大げさな溜め息を、わざとらしくついてみせた。
「お前さん、超エリートって言うわりには、おつむの回転が良くないのね！ いいかね？ お前さんがいないところで越界者が突然いなくなったら、それは魔鬼に消されたってこと。その近くに魔鬼がいるんだ！」
「なるほど！」メグルが、ぽんっと手を叩いた。
「その場所がここ！」
