虚栄の心に勇気を届けて其の五
《虚栄のアマリリス》に遭遇しました
見上げなければならないほどの巨躯。アヤメの着ている青色のドレスに似ている。両手に二振りの極大な長剣。1度振り下ろせばプレイヤーは斬られるどころか潰されるだろう。そんな美しい彼女だが、首から上は存在していなかった。世界が青に埋め尽くされてもその美しさから目を離すことなどできない。
「っ!散開!!」
プレイヤー達に迫る巨大な花の幹。我に返ったのはガンマであった。全プレイヤーその美しさの前に固まってしまった。1戦闘で全プレイヤーの行動がピタリと止まってしまう、これは感情によるものではない、我に返ったガンマは瞬時に頭を回転させ今の現象を奴の何らかの能力、つまり我々に対する行動不能デバフと一時的に結論付けた。
「カゲツ!」
ガンマが呼ぶ前にカゲツは肩を並べていた。これだけ極大な攻撃を低レベルプレイヤー2人で防ぐのは至難の業、寸分の狂いも許されないタイミング同じ方向に弾かなければならなかった。
「はっ!奇襲失敗だな!アマリリス!」
二人で潜り抜けた死線は数知れず、2人はタイミングを合わせ攻撃を左に逸らした。
「そうという訳でもなさそうだ、ガンマ」
シグマがそういうと周りには青色の鎧を着た中世の騎士達が佇んでいた。その数は未だに増え続けていた。まるでチュートリアルの時のように.....
「おそらく湧きに制限は無いだろう。つまり処理しなければ例え我々といえど物量で押されてゲームセット、アマリリスの相手をしつつモブの処理も行わなければならない。」
幸いアマリリスはさっきの攻撃以降動いていない。いつまでもこの時間が続くという訳では無い。シグマが事前に走らせていたプラン、(ガンマ シグマ カゲツをフロントに情報を集める)これの大部分を撤回しセカンドプランへと移行させた。
「ガンマ・私・ペンタゴンでアマリリスの相手をする!他のプレイヤーで周辺の騎士の処理!行け!」
ここに居るプレイヤー達は情報に巣食うトッププレイヤー余程の事がないボスが召喚した程度のモブに殺られるはずが無い。加えてカゲツ、ゆぃつの援護がある、この二人がいれば死ぬことはまず無いだろう。
「いい判断だ....行くぞ!」
『まさか俺が、あのガンマの援護とはな、』
『あぁ、肩を並べて戦えるのか』
「「負けられないな」」
その巨躯に向かって行くのは三人のプレイヤーそれを察知しアマリリスは切っ先を少し上げた。
「斬撃警戒!」
少しのモーションだが相手は創世生物だ、完封するレベルの気持ちで挑まなきゃ足元をすくわれるだろう。
ガンマの予想通り左の長剣による縦ぶりの斬撃が飛んできた。ガンマの言葉が届いていたプレイヤー達は備えていただろうがその他のプレイヤーはそうでは無い、備えていないプレイヤーに防げる訳もなく.....
「知恵の探求者」
「高性能のAIに序盤から情報の開示をするつもりはなかったのだが、頭数が減ってしまうのは痛手だ。仕切り直しにしよう、アマリリス」
斬撃が他プレイヤーに当たりそうになったときアマリリスの斬撃が消滅した。それはシグマのスキルによるものだった。
「ガンマ覚えておくといい。このゲームは職業ゲーと言われるほどに職業専用スキルが強力だ。私の先駆者も例外ではない。私の職業先駆者のスキル「知恵の探求者」は自身にとって初見の攻撃を無効化することができる。これがあれば初見殺しされることは無い。もう左の斬撃に使用することはできないが、他の攻撃であれば私が対処しよう。」
「この場において最高のスキルじゃねーか、頼りにしてるからな!」
「でもまずは俺達のゴールラインを見つけなきゃね」
横から口を出してきたのはペンタゴンだった。ペンタゴンの言う通り俺達の目標、というか予想は奴のどこかにこのエーデルワイスの琥珀を嵌めることだ。まずはそれがあるかどうかの方が重要だろう。力でねじ伏せる必要などないのだ。
「灯火の矢」
上の方となると多少見ずらいが、これがあればかなり見やすい。奴に刺すという訳ではなく完全に動体視力だよりで奴の付近を矢で照らし確認するというものだった。矢の速度からして常人には見えないだろうけどこの二人なら何とか見えるだろう、という考えらしい。その願いも届き一瞬だが胸元に丁度よさそうな場所を見つけた。おそらくあそこが俺達の目指す場所だろう。
「やる事は明確になった、だがあそこまで行くには我々の跳躍力じゃ不可能だ、」
「攻撃を足場にするしかねーな、やっぱ俺がこの係かよ」
分かってはいたがはめ込む係はガンマが担う。プレイヤースキルで奴の攻撃を掻い潜りつつもその攻撃に便乗して上まで行く、斬撃のみで戦われたら詰みだがあの茎攻撃などが来てくれればまだ勝機はある。ひとまず消耗戦になるだろう。
3人は再びアマリリスに向かって行った。アマリリスは二振りの剣を構えガンマ達を迎え撃ち始めた。初めは左の大振り、右による牽制など武器の扱いは1級品である。その繊細さに加えてこの重さ。ガンマはひとりで弾き切ることを諦め紙一重で流すことを選んだ。武器の耐久がゴリゴリ削られそうだが、クリティカルを出し続けることによって破撃の聖鎚の効果を継続させれば問題ない。
「この武器じゃなかったらもう死んでるな、無理聞いてもらって悪いな」
「勝つためさ、何も惜しまないと決めていたからね、存分に戦ってくれ。」
「ちょっと!俺へのヘイト半端ないんですけど!」
ペンタゴンは弾丸のような速度で飛来する青色の花弁と鞭のような幹の対処に追われていた。
「お前ならいける!ファイト!!」
もちろん手を抜いていたわけではない。手が回らないだけだ。この巨躯を目の前にして他の援護などしてしまったらそれこそ戦線の崩壊を招きかねない、ペンタゴンであれば援護と対処の同時をこなせるだろうと踏んでのこの状況でもあった。
『シグマにはやってもらっている事があるから今積極的に戦えるのは俺くらい、プレイヤースキルで立ち回りはどうとでもなるけど火力はステータスの差が顕著に出る。だから今は、』
「うぉらよ!」
鈍い音がフィールドに響き渡る。アマリリスへの攻撃はあまり効いてる感じはしないが、アマリリスのヘイトをこっちに向けることには成功している。遠距離攻撃の花弁と幹をペンタゴンが受け持ってくれているおかげだろう。
「頼んだぞシグマ!」
シグマに対しての攻撃は極端に少なかった。シグマは自分に来る攻撃を弾く程度で攻撃に参加しているという訳では無い。ただそれはシグマの強みを理解しているガンマと自身の選択であった。
『連れて来た者の義務として、私が勝たせる。』




