虚栄心と青い花
「条件?」
あまり考えていなかった回答が飛んできて思考が少し止まるがシグマは言葉を続けた。
「そうさ、つい数時間前に幹部だけに共有した情報なんだが、君にも1枚噛んでほしいんだよ。」
「....内容による。としか言えねーな」
「私達が君に求める内容はただ1つ。プレイヤースキルのみだ。」
「言っておくが、俺のレベルはまだ30前後。話的に総力戦か何かがあるんだろうが今の俺は戦力になれそうにねーな。他を当たってくれ。」
ガンマが背を向け扉から出ようとするとまったをかけるようにシグマが声をかけてきた。
「言ったじゃないか。プレイヤースキルだと。レベルに関しては我々ですら足りていない。現状のレベルカンストである150レベルだったとしても足りないだろう。」
「だったら尚更だな。いくら俺が強くても150レベで足りないことを30レベの俺にどうにかできるはずがない。」
ごもっともな意見だ。ただでさえ低いレベル。通常なら50前後は行っているであろう進み具合だが、ガンマはノンストップで攻略を進めたためたかがレベル30前後で来てしまったとも言える。そんなプレイヤーが150レベルがうようよいるような状況でゲームになるとは考えづらい。が。
「では、単刀直入に言おう。」
ガンマに不可能など存在しない。そして、ガンマの行動理念の根幹に存在するのは.....
「創世生物」
「?!」
「虚栄のアマリリスの攻略に。参加して貰えないだろうか。」
全力で楽しむこと。ゲームは楽しむためにあるもの、その理念に揺るぎなど無い。
「いいぜ、乗ってやるよ」
考えるのは後で良い、自分の心はなんと言っているか。こんなチャンスこの先何度もある訳じゃない。誰も討伐したことの無いモンスターの攻略作戦。断るはずがない。
「そう言ってくれると思っていたよ。では、」
「その前に。」
周りからまだ何かあるのか、という視線が有りつつもずっと思っていた気持ちを表に出すことにした。
「おい」
ビクッと肩を揺らした1人のプレイヤー。一言だけ発していたが、それ以降何も喋らなくなったベータというプレイヤーには何やら親近感があった。だらける時の姿勢、声色、何か裏がある時は人の背中に隠れてやり過ごそうとするその行動。それと長年の勘。全部がそいつの正体を証明していた。
「確か、本名はマナー違反だったよな??ここで大声で叫んだっていいんだぞ??」
隣に座っていた奴の後ろから顔を出したのは髪色が違うだけでいつも見ている顔と全く同じの実の妹が出てきた。
「や、やっほ〜.....」
ガンマは頭の中で整理を始めた。妹が兄に教えたことを一言一句違わず再生し始めると明らかに嘘まみれだった。
「妹に嘘をつかれていたことが一番悲しい」
真顔でなおかつ圧をかけながら言う。
「ご、ごめんて〜、タイミングが悪かったんだってば!私がお兄ちゃんに嘘ついたことある?!」
頭の中で二人で過ごしたここ十数年を思い返す.........
「.......思い返してみればみるほど出てくるな。信用無いわ」
「ぐ、」
引きつったような表情が表に出ると周りのプレイヤー達もクスクスと笑いだした。
「はっはっは。いやぁ〜兄妹とは良いね。仲睦まじい姿までとても絵になる」
「団長〜、意地悪しないでよ.....」
「そんなことよりだ。虚栄のアマリリスについて話をしよう。」
「あぁ、始めてくれ」
「まずは経緯から話そうか。そこに座ってくれ。」
そう言われシグマの対角に位置する椅子に座った。
「私とベータ。そしてここにいるトゥーシューガァンと一緒にクエストを攻略していた時のことだ。」
話によるとクエスト【君に花を届けて】という何の変哲もないクエストを受けていた時たまたま青色のアマリリスの花を見つけたらしい。その花を持ってクエストのNPCである── アヤメに渡したところ、クエストクリアの表示ではなくまた新しく別のクエストを提示されたらしい。それが、
「クエストのタイトルは」
── 理を断つ一輪の青い花
「クエストを受けるとアヤメの名前がシークレットNPCアヤメに変わったっていう変化もあったね。」
「このシークレットクエストはクエストを受けた私達が連れてくればクエストを受けられるみたいだ。先程それを試してきたところだ。」
「かなり簡単な発生条件だな、元はと言えば一般的に知られたクエストなんだろ?なんで誰も気づかなかったんだよ」
至極真っ当な疑問を問いかけるとシグマは間髪入れずに答えを返してくれた。
「そうだね、確かに簡単なクエストだ。ただ、青色のアマリリスなんて、誰も見たことがなかったんだよ。」
「誰も見た事がない??」
たまたまとも考えづらい返答。リリースから3年程経っていて未だに発見されていないアイテム、あるにはあるだろうが、それをたまたま見つけられるとも思えなかった。
「たまたまとは、考えづらいな。」
「私達も同じ意見だよ。おそらくだが、副職業に皆開拓者の上位職業である先駆者だからだね。」
先駆者 ── 開拓者の上位職業。ドロップアイテムなどにかなり補正がかかる。
開拓者からの昇格条件。
── 開拓者を職業または副職業に入れた状態で新たなクエストやエリア。アイテムを一定数発見すること。── 上限 3名
「その根拠はあるのか?」
「もちろん。なんたってこの職業は私達3人しか就けないからね。」
それはかなり信憑性の高い根拠であった。なんたってその3人が全員居るのだから。今まで発見されなかった=先駆者が3人いなかったとなる。話を聞く限り最近トゥーシューガァンが先駆者に昇格したそうだ。時期的に合いすぎていたため、自分達でそう結論づけたそうだ。
「この話はほんの数時間前まで私達3人の秘密だったんだよ。だから兄妹とは言え教えるわけにはいかなかったのだ、許してやってくれないか?」
ベータこと庵は口を尖らせながら珍しく少し拗ねているようにも見えた。ガンマもそれを察してか嘘をついたことに関しては水に流すことにした。
「理由があったんだったらしゃーねーわな。口が堅い妹に育って俺も誇らしいよ。」
ベータの表情がパーッと明るくなった。机に身を乗り出してパタパタと暴れていることから見るにかなり浮かれている様だ。
「こんなベータは初めて見るよ。やっぱりいつm」
ベータは咄嗟にその続きを言わせまいとシグマの口を手で塞いだ。
「それ以上言うと団長といえど殺めますよ、?」
「ハハッ、肝に銘じておくよ」
小声でなにか喋っているが、幸いガンマに声は届いていなかった。
「そんで?俺を誘う理由がまだ見えてこねーな。クリア条件も教えろよ」
「そうだね。君を誘った理由の根幹はそこにあるからね。」
そういいシグマはあるアイテムを机に出した。見たところオレンジ色の大きめの琥珀だった。




