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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神様の悪戯 ?それとも運命 ?遠い記憶の中、愛した人と再会を夢見て。

作者: sizuma

初めて短編を書きましたので、投稿します。

私は素人で、小説を書く事に慣れておらず、プロットは使わずに頭でイメージを描いて書いてますので、文章がおかしい所があれば、お詫びします。

この小説は、完成形ではありません。改変させ続ける予定で、ストーリーも増えていくと思いますが、敢えて改変は付けません。

 楽しんで頂けたら幸いです。

 俺の名前は伊藤 和彦50の後半を超えた、おっさんって言うか、もうじいさんの仲間入りだよな。最近物忘れも出て来たし、あれ?銀行通帳どこにしまったかな?

先月使って、ここに入れた筈だけどな?見つからない•••。どこに仕舞った?思い当たる所を探すが目当ての物は出て来ず、1つの袋が出て来た。

 この袋は?懐かしいな。昔の写真か。それと•••

 あぁ、地元に帰った時に出会った、美樹との手紙や絵はがきかぁ。懐かしいな。タイムカプセルを開けた気分だな。もう30年は経ってるよな?彼女はどうしてるんだろうか?元気にしてるだろうか?


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖ 


 彼女との出会いは、親父が死んで地元の北九州に戻って葬式後、帰る電車の中での出会いだった。


 鹿児島で生まれ北九州で育った俺は、親父が49歳の時の息子で親父は大正生まれの戦争経験者だった様だ。けっこう上位の将校をしてたらしい。母親とは再婚同士だった様だが、母親とは18歳年が離れてた。うちは貧乏で親父は大工で出稼ぎばかりだったから、母親と連れ子の姉と幼稚園の卒園時に母親の実家のある鹿児島に移り住んだ。


 鹿児島は酷い田舎だったな。ばあちゃんが1人暮らしでテレビも無く小学校まで、子供の足で歩いて1時間30分。雑貨屋すら近くにない、ど田舎。山の裏に滝があって自然は豊かで、星だけは綺麗だった記憶がある。

 娯楽もなく、俺が読めるのは教科書だけだったから、小学1年で、既に自分の名前は漢字で書けてたっけ。テストもほぼ、満点を取る天才に育ったんだけど、小学2年の2学期まではね。

 

 小学2年になって、美容室で働いていた母親が帰って来たり帰って来なかったりする日が続いていたら、母親が知らない男を俺と姉貴に紹介した。その時は分からなかったけど、今なら分かる。母親は浮気をしてたんだ。

 まぁ、俺もこの歳になれば、親父は出稼ぎでいつも居ないし、母親も寂しかったんだと分かるけど、ある日、親父が帰って来て、大人達の話し合いで、俺達は再び家族で北九州に帰って来た。家は長屋で6畳と4畳の作りだった。いま思えば親父も俺たちへの仕送りを優先にして最低限の生活をしていたんだと思う。それで母親を許したんだから、心は広い親父だったんだろう。

 

 しかし、俺にはその転校時期が最悪だった•••

 鹿児島では小学2年の3学期に九九を習うけど、北九州では2学期で習っていて、俺以外は全員暗記してた•••鹿児島で天才だった俺が鈍才になってしまった•••

 一気にやる気を無くした。

 毎日居残りで1人で先生に教えられる毎日、言葉は鹿児島弁の訛りが強く、馬鹿にされる毎日で、次第に勉強嫌いになっていき、孤独な時を過ごしていたが、唯一、出来た友達が悪ガキの真矢だった。真矢と遊ぶ事が多くなり、中学3年まで一緒に遊んでいた。この時まではまだ子供の遊びだったけど、高校受験になって状況も変わって行った。

 親父は既に60はとっくに過ぎている。母親も今は真面目に仕事をしているが、親父は毎朝6時には家を出て働いている姿を見ている。これで俺が高校に行きたいとなれば、さらに金が掛かるよな?親父は心配は要らないと言ったけど、最終的に俺は高校には行かずに、家を出て、福岡の料理屋で住み込みで働く事を決めた。まぁ、それがいま考えると、その決断が21歳まで最悪であり、最高な時間だったんだが。

 この頃だっかな。姉貴と親父が血が繋がって無い事を知ったのは。

 親父は姉貴には優しかったが、俺には厳しかった。しょっちゅう殴られたし、青あざが絶えなかった。

 それもあって、家を出たかったのも、あるかも知れない。


 中学1年の時の身長は143cmだったが、今は175cmで顔はまぁ、イケメンだったのだろう。正直モテてたし。最終的には181cmまで伸びたよ。

 俺が働いていた料理屋は所謂、高級店で福岡の社長さんが接待に使ったり、クラブのホステスと同伴に使用したりする店で、次第にホステスの女の子とも距離も近づいて行き、16歳で夜の繁華街を連れ回される様になった。当然ながら仕事してるより、楽しいのは当たり前で、料理屋の仕事を辞めて17歳前にはクラブのボーイになり、クラブのNo1だったユリのツバメになった。ユリに紹介されたモデル事務所にも出入りする様になったけど、ユリは性格も束縛も強くて、次第に俺も窮屈を感じる様になり、別れて1人暮らしを始めて、親不孝通りのディスコの黒服で働いた。とにかく遊びまくったな。車の免許を取ってからは更にエスカレートして行った。

 何股掛けていたのかとか、覚えていない。1人暮らしの家にも帰らず、毎晩違う女とホテル帰り。それが21まで続いた。いま考えると最悪な男だよな•••

 

 ある日、実家に帰り、扉を開けると親父が包丁を持って玄関に立ってた。

 「俺と一緒に死ぬか、真面目に仕事をするか選べ!」

 (だれにも迷惑をかけずに働いてるだろ!)

 「お前が知らんだけで、お前は沢山の人に迷惑をかけてる事に気づかんのか?そんな事も分からんのか?」

 (もう良いわ!帰るわ!)


 頭にきて家を出て出て、車に乗って1人暮らしのマンションに戻った。

 ベッドに横になって少し冷静になって、親父の言葉を思い出していた。俺は人に迷惑を掛けてるのか?確かにまともな生活はしてないけど•••

 もう70近いのに、まだ仕事してるんだよな?仕送りもしてるぞ?あの頑固ジジイ。そう言えば、母親が、家に燕尾服着た人がやって来て、親父に勲章を置いて行ったって言ってたな。瑞宝章とか言ってたな。菊の紋章の付いた表彰状と一緒に•••

 国の為に戦った人か•••

 好き放題生きてる俺とは違うな•••

 俺は周りを泣かせてる?よな•••

 でも俺の人生はこれで良いのか•••?

 何も残せないよな。俺の人生は•••

 心配掛けて働かせてる原因は、俺なのか。

 親父をゆっくりさせてあげれてないのは俺のせいだ。何で気づかなかったんだろう。金だけ送れば良いんじゃないよな。その前に親を心配させたらダメだ。単純な事に気づいて無かった•••。

 明日、謝りに行こう。まだ21だしやり直せるな。福岡も出よう。

 

 翌日、再び家に行って、親父に謝った。


 (ごめん。今更だけど気付いた。俺の悪い所に。それで前に誘われていた、愛知の従兄弟の仕事をする。昨日電話もして、いつでも来ても良いって事だったから、住んでるマンションを解約したら愛知に行くよ。)

 「分かった。」

 親父の言葉はそれだけだったけど、ホッとした表情は何となく感じた。


 借りてたマンションは、知り合いの不動産だったから、退去は直ぐに出来たし、要らない物は全て処分した。車は姉貴にやった。来週の月曜日には愛知に行けるな。愛知に行くまでの数日は実家で過ごした。


 愛知に行く当日の朝。

 

 (親父は?)

 〈もう仕事に行った。〉

 〈これを持って元気に行ってき。〉

 手渡されたのは通帳とカードと印鑑。

 (これは何ね?)

 〈あんたが仕送りしてきたお金たい。〉

 (使ってなかったと?)

 〈お父さんが、あんたの将来を心配して使っとらんかったから、何かあったら役にたてなさい。〉

 

 俺は込み上げて来る物をグッと我慢して受け取った。


 〈向こうのおばちゃんには、電話したから身体に気を付けて頑張ってくるんよ。〉

 (ありがとう。行ってくる。)

 

 筑豊電鐵、これに乗るのは次はいつだろうな。

 俺は小倉まで電車で行って、新幹線で愛知に向かった。




 仕事は設備関係のエンジニア。プラモデルとか作るのも好きだったから嫌いな仕事ではない けど、遊びまくってた俺には体力的にキツかったよ。毎日、筋肉痛だし、油まみれになりながらも一生懸命働いた。最初は従兄弟と住んでたが、アパートを借りて1人暮らしも始めた。恋人は出来たり別れたりの繰り返しだったけどね。そちらは福岡とあまり変わらずだったけど、二股はかけてない。胸を張って働いていると、親父にも言える。お盆は仕事で帰れないけど、正月は実家に帰っていた。

 親父はパーキンソン病になった様で、入退院を繰り返してる様で心配だったが、もう70を超えてるしな。昔の無理が来たんだと思う。母親の話では、戦争で敵を殺した事を、今も悔やんでるそうだ。ある意味、親父も被害者だよな。昔、親父からガダル.カナル島に行ってたと聞いた事があるけど、今なら分かる。良く生きていたな。

 

 月日も流れて、もう愛知に来て6年か早いなって、恋人はいるが独身だ。親父に孫も見せれて無いなって思っていたら、夕方に携帯が鳴った。姉貴からだった。親父が危篤と言う内容だった。

 (分かった。)

 それ以上、言葉も出なかった•••

 今から用意しても、新幹線も間に合わないな。車で帰っても高速までの渋滞を考えたら、着くのは朝だよな。たぶん間に合わないだろう。いつかはこうなると、自分の中では思ってた。朝イチの新幹線で帰ろうと決めた深夜、親父が死んだ知らせの電話が鳴った。


 いま、俺は1人新幹線に乗っている。新幹線で帰るのは久しぶりだな。帰省は車で帰ってたからな。実家もアパートだったから、親父は1度家に戻り、午前中に葬儀場に向うそうだ。11時前に小倉に到着して、黒崎まで電車で行き、筑豊電鉄に乗って姉貴が待ってる実家に向かう予定だったが、俺は電車を途中で降りて、福知山に向かった。

 北九州が見渡せる場所だ。街を眺めたくなった。

 頭では分かっていても、親父が死んだ事を、心が拒絶してる。色々、叶えてあげれなかった。親父の子供は俺だけだ。姉貴とは血が繋がっていない。姉貴の孫を可愛がっていたと聞いたけど、俺は親父に孫も見せれなかったな。色んな感情が芽生えて来る。悔いだけが残る。

 結局家に帰ったのは昼2時を過ぎていた。

 姉貴には遅いと責められたが、帰る勇気が無かったとだけ伝えた。


 葬儀場に着くと、布団に寝ている姿の親父がいた。

 痩せこけて、身体も小さく見えたが、間違い無く親父だ。薬の影響で、精神も病んでいき、錯乱状態もあったと聞いたが、最後は眠る様に逝ったそうだ。

 母親にも遅いと責められたが、踏ん切りが付かなかったと答えた。

 お通夜も終わり、棺の中で眠っている親父の側の椅子に座り、深夜になり人が居なくなった後に、俺は号泣した。

 本当に親不孝の息子で悪かった•••


 その後の事は正直あまり記憶に無いが、1つだけ不思議な光景を見た。葬儀が始まりお経が終わった後に、姉貴の娘が天井を見て「ジジイばいばい」って手を振った。


 無垢な子供には、見えてるんだろうか。


 葬儀も無事に終わり白い骨も拾い上げ、初七日まで済ませた。

 その後、母親と話しをして、親父の話しを色々聞いた。最後に言われたのは、父ちゃんにあんたの孫を見せたかっただったかな。


 実家で1週間を過ごして、四十九日まで執り行った。墓は無いので、数年後に、愛知に母親が来る事は、決まったので俺が建てる事を約束して、帰る日を迎えた。


 もう、筑豊電鉄に乗る事は無いかな。黒崎まで出て、電車に乗って小倉駅に向かう為、乗り継いだ電車の中に不思議な雰囲気を持ってる女性が立っていた。言葉では言い表せないけど、とっても優しいオーラに包まれてるような女性だった。悲しみを癒してくれる様な女性で正直に一目惚れだった。

 彼女も小倉駅で降りたので、声を掛けた。

 

 (すいません。少しお尋ねしたいのですが、父の葬儀で帰って来て、今から新幹線で帰るのですが、小倉駅もずいぶん変わってまして、道案内と新幹線まで時間があるので、少しだけお茶に付き合って貰えませんか?)


 「お父様が亡くなられたんですか?大変でしたね。少しなら良いですよ。」


 正直に言えば、道案内は口実で嘘だったけど、この子と会話がしたかった。それだけの魅力を感じる子だった。彼女もどうして受けてくれたかもこの時は分からなかった。


 「どこまで帰られるんですか?」

 (名古屋で新幹線で帰ります。)

 「名古屋なんですね。行った事無いです。楽しい街ですか?」

 (みんな、みゃぁ、みゃぁは言ってないですよ。)

 「あはは!そうなんですね。」

 (小倉から何処に行く予定でした?)

 「実家が下関なので、今日は福岡で買い物して帰って居る所でした。」

 (ごめん。改札出ちゃって。)

 「大丈夫ですよ。小倉駅もだいぶん変わりましたからね。あそこの喫茶店で良いですか?」

 (大丈夫です。付き合ってくれてありがう。)


 ほわっとした子だよな。喋り方も、ほんわかしてる子だよな。


 (改めて、俺は、伊藤 和彦って言います。今年27になります。)

 「私は久宮 美樹で22です。和彦さんが5つ年上ですね。」

 (美樹さん、ほんわかした雰囲気してますよね?)

 「そうですかね?うちの母もこんな感じですよ。」

 (じゃぁ、家の中もほんわかしてるんですね。)

 「あはは!どうなんでしょうね。」

 (福岡には何を買いに行ってたんですか?)

 「私は絵本が大好きで、絵本を買いに行ってました。」

 (絵本が好きなんですね。それで柔らかい雰囲気なんでしょうね。)

 「昔から絵本とか詩集とか好きでしたから、家にたくさんありますよ。和彦さんは絵本とか見ますか?」

 (ごめん。その辺りは全然知らないです。)

 「そうなんですね。じゃぁ、今度おすすめの本とか教えますよ。」

 (是非教えて下さい。電話番号の交換とか良いですか?)

 「良いですよ。私のは090€***€〆€です。」

 (ありがと。俺は080£€〆€**です。)

 

 本当に包んでくれる様な、柔らかい笑みの女性だな。

 その後、メール交換や他愛もない話をして、時間が来たので美樹とお別れした。


 なんか、悲しみが癒えた様な感じがするな。今日の俺にとっては、本当に女神様だった。あの子はモテるだろうな。彼氏もいるだろうし、なんか一気に名古屋に帰りたくなくなったなって思ってたら、美樹からメールが届いた。


 【実家に帰り着きました。和彦さんも気を付けて帰って下さいね。】


 すごい良い子だよ。今までに出会ったことのない女性だな。でも遠距離過ぎるよな•••岡山から戻るか?ダメだ。俺はそんな状況じゃ無いし、親父に誓ったしな。


 その後、美樹とは手紙のやり取りしたり、絵本が届いたり俺が誕生日に花を贈ったり、遠距離交際が続いた。恋愛じゃ無いのが辛いが、ご縁があるだけ嬉しいしな。

 美樹は茶道も、してる様だ。俺の知ってる茶道とは少し違って、小さい器でするみたい。良い所のお嬢様なのかな?自然も大好きで手紙の文字は、おおらかでとても大きなダイナミックな字体。美樹らしいが、ギャップ萌えでもある。今はメールで楽しくおしゃべりタイム。


 【名古屋だったら焼き物も多いですよね?】

 【瀬戸焼とか常滑焼とかあると思うよ。】

 【今度遊びに行ってもいいですか?】

 【本当に?是非来てよ。連れて行く所を探して待ってるよ。】

 【じゃぁ今度、計画を立てますね。】

 【楽しみに待ってるよ。】


 やったぁ。美樹に会える。何処に連れて行こう。近くには焼き物もあるし、動物がいる所も良いかな。楽しみだな。

 数ヶ月後、1泊2日で美樹がやって来た。

 駅のホームで俺の姿が見えたら大きく手を振ってくれた。子供がする様に、無邪気にする大人の女性を、初めて見た気がする。


 (ようこそ。名古屋へ新幹線は混んで無かった?)

 「快適でした。ここが名古屋ですか。」

 (駅は変わらないでしょ?)

 「そうですね。でも久しぶりに和彦さんに会えて、嬉しいです。」

 (俺も美樹ちゃんに会えて嬉しいよ。)


 彼女のこの距離感が分からないんだよな?これは遠距離恋愛なのか、唯の友だちなのか?俺の中では恋愛感を持ってて、欲しいんだけどな•••

 俺は美樹と知り合って恋人とは別れた。正直に言って美樹より素敵な子はいないし、美樹とは邪心なく付き合いたいから、そうしただけだけど。


 (それで泊まる所は決めてるの?)

 「いえ、決めてません。ノープランです。」

 (1人暮らしだし、良かったら泊まる?)

 「良いんですか?じゃぁ、お邪魔しちゃおうかな。」

 (全然良いよ。ホテル代も浮くだろうし。)

 「じゃぁ、お願いします。」


 もうこれは遠距離恋愛って事で良いんだよね?

 俺の考えは合ってるよね?


 (じゃぁデートプランもお任せで良い?)

 「はい。お任せします。何処に連れて行ってくれるんですか?」

 (海がある所に行くよ。福岡より海の水は綺麗じゃ無いけどイルカとかと遊べる所があるから。美樹ちゃんの好きな焼き物もあるし。)

 「イルカですか?近くで見れるんですか?行きたいです。」

 (じゃぁ、行こう。荷物は持つよ。)

 「ありがとうございます。イルカなんてワクワクですね。」

 本当にこの子は無邪気だな。絵本が好きなだけあって少女がそのまま大人になった子だよ。今までの汚れた俺が浄化される。

 言い方が悪いが親父に感謝だ。


 名古屋駅から車で海に向かって走って行く。時間的に3時のショーには間に合うだろうし。海岸線を進んで途中でご飯を食べて目的地に到着した。


 「ここはイルカショー見れるんですか?」

 (そうそう。それで外の水槽に休憩してるイルカとか触れ合えるみたいだよ。とりあえず3時からショーがあるから先に見ようか?)

 「はい。見ましょう!」


 ははは!目がキラキラしてるんだけど。本当に23歳なんだろうか?

 目の前で演じてるイルカに手を振ったり真剣に楽しんでる姿は、周りにいる子供達と変わらない。大人だから動きはダイナミックなんだけどね。


 (ショーは楽しかった?)

 「はい。イルカショーは初めてだったから、最高でした。」

 (あっちに休憩してるイルカを、近くで見れるみたいだよ。)

 「すぐに行きましょう!」

 「こんなに近くで見れるんですね。触れる近さですよ。」

 (でもごめん。触らないで下さい。って買いてあるからダメなんだろうね。)

 何故かイルカも彼女に近付いて来る。と思ったら1頭のイルカから俺は大きめのビーチボールをぶつけられた。

 (うわ!ビックリした!)

 「あはは!イルカさんも和彦さんと遊びたいんですよ。」

 (そう?俺は殺気を感じたけど•••)

 「イルカさんは頭が良いから、そんな事はしませんよ。ねぇ〜。」


 美樹がイルカに話しかけてるけど、本当に(なんだ?お前?彼女だけ置いて、あっちに行けや!)って感じでぶつけられたと感じたけど•••イルカ怖い•••


 その後は園内を色々見て回って、ご飯を食べて自宅に帰った。

 さぁ、ここからが難しい。俺たち恋人同士なの?って聞くのも変だし、どう思ってるの?って聞く勇気もない•••バッドの場合、ダメージが大き過ぎる。

 

 「へぇ〜ここが和彦さんのお家なんですね。あっ、私のあげた絵本がある。この人が亡くなったお父さんですか?」

 (小さい遺影だけ持って来てるんだ。)

 「では、ちょっと挨拶だけさせて貰います。」

 

 親父の遺影に手を合わせてくれてる。そんな事をしてくれたのはこの子だけだな。本当に美樹のご両親は良い子に育てたんだろうな。


 (ありがとう。)

 「いえ。和彦さんの大切なお父さんに、あいさつするのは当たり前ですから。」


 本当に奥さんになって欲しい子だけど、俺には不釣り合いかもな•••

 福岡で散々やらかしてる俺だし•••


 その後は、面白い話や福岡の懐かしい話などした。 

 話に夢中で時刻はいつの間にか、10時を過ぎていた。 

 (美樹ちゃん、お風呂を溜めてあるし、俺はあっちの部屋にいるから、お先にどうぞ。)

 「ありがとうございます。では先に入らせて貰いますね。」

 (ゆっくりどうぞ。)


 はぁ、この感情はどうしたら良いんだろう?ハッピーエンドなら良いが、バッドエンドなら明日がとても気不味い空気になってしまう。せっかく楽しみを想像して名古屋まで来てくれてるのに、そんな嫌な気持ちで帰らせたく無いけど、はっきりしたい気持ちもある。なにが正解なんだろう?っと考えてたら、パジャマを着た美樹が出て来た。


 パジャマ姿も可愛い。心は少女でも立派な大人だった。いかん、脳がやられる。


 (俺も、入って来るよ。)

 「はぁ〜い。」


 美樹と結婚したら、こんな幸せな毎日なのか。いかん。邪念が入る。

 風呂に入って俺も、Tシャツにスエットに着替えた。

 今日はバッドエンドはやっぱりイヤだな。

 

 (美樹ちゃん、俺はソファーで寝るから、ベッドで寝て良いよ。)

 「ダメですよ。和彦さんのベッドダブルベッドだから2人で寝れますよ?」

 (流石に不味いよ。美樹ちゃんはゆっくり寝てよ。)

 「私がいたら邪魔でしたか?」

 (イヤ、そんなんじゃ無いよ。)

 

 俺は誘われてるのか?気を使われてるだけなのか?いかん。脳がパンクしそうだ。


 (じゃぁ、ベッドで寝るよ。)

 「はい。そうしましょう。」


 ダブルベッドで2人で横になる。

 ダメだ。寝れる訳がない。美樹からの体温と鼻腔を擽ぐる香りが放たれて来る。


 「和彦さん。私の事どう思ってますか?」

 (もちろん好きだよ。一目惚れだったし。)

 「私はLIKEが強めだけど、LOVEです。」

 (良く分からないんだけど。)

 「先に結ばれる運命は無いかなって事です。」

 (彼氏は居ないって聞いて居たけど、出来たの?)

 「彼氏が出来てたら、ここに来たりしませんよ。」

 

 そう言うと、俺の方に身体ごと向きを変えて、じっと見られた。ヤバいって!小悪魔ちゃんかよ。


 (俺は美樹ちゃんを大切にしたいと思ってるけど、俺も男だし•••)


 そう言ってキスをしたけど、無抵抗だった。その後は抑える事の出来ない本能のまま、身体を重ねた。

 

 (ごめん。嫌いになった?)

 「そんなんじゃありませんけど、私達は結婚は出来ませんよ。私は両親の近くから離れたくありませんから、名古屋に来るのは無理ですし。」

 (じゃぁ、俺が帰ったら?)

 「そんなのダメですよ。お父さんとの約束違反になりますよ。だから、先は結ばれないんです。明日は何処に連れて行ってくれるんですか?」

 (明日は陶芸品を売ってる記念館があるから茶器とか見に行こうと思ってたよ。)

 「それは楽しみですね。寝ますね。おやすみなさい。」


 美樹はすぅ〜っと眠りについた。

 どうしたら、良いんだろう?この気持ちは?話を逸らかされたけど、完全にバッドエンドだよな。何が正解だったのか?正解は美樹じゃないと分からない。朝を迎えるのが正直、怖いな。明日どの様に接すれば、良いんだろうか?せっかく名古屋まで遊びに来てくれたのに、気不味い雰囲気は作りたくないしな•••色んな事を考えてたら、外が明るくなって来て、答えも出ないまま、俺も眠りについた。


 「おはようございます。和彦さん。」


 目の前にはパジャマから着替えた美樹が声を掛けてくれた。


 (おはよう。ごめん。寝坊しちゃった?)

 「大丈夫ですよ。私もさっき起きて着替えた所でしたから。今日も楽しませて下さいね。」

 (大丈夫。任せてね。)


 昨夜の事は夢だったのか?昨日と美樹は変わらないテンションだけど。でも、現実だよな。俺が気を遣わない様に接してくれてるんだろうな。それなら俺は自分に出来る精一杯のおもてなしを、しなきゃいけない。帰りの新幹線は4時だ。それまでは楽しく過ごしてもらおう。


 家を出て、陶芸記念館に向かう。色んな茶道具を見る美樹の目は楽しくも真剣に見てる。美樹が気に入った様に見てる茶道具は今日、買って渡したら荷物になるだろうから、今度プレゼントに送ろうかな。色んな所を見て廻って帰りの新幹線の時間が近づいたから駅に送った。


 俺も入場券でホームまで入ってお見送り。


 〈まもなく15番線にのぞみ•••〉


 (新幹線が来たね。名古屋は楽しかった?)

 「はい。楽しかったですよ。」

 (今度は俺が遊びに行っても良いかな。)

 「そうですね。」


 どっちにも捉える事の出来る言葉だった。

 新幹線が到着して扉が開くと美樹が抱き付いて来て。

 「ありがとう。」

 その一言で新幹線に乗って、小さく手を振って美樹を乗せた新幹線は走り出し、美樹は帰って行った。


 最後のありがとう。も、どちらにも捉えれる言葉だったな。なんか、とても切なく感じる。美樹の言った言葉を思い出す。

 俺達は結ばれられる運命にはないのかな•••


 この時は、美樹に会えるのは最後とは、思ってもなかった。


 その後も美樹から絵本が届いたり、彼女の好きな曲のCDが届いたり、茶道具をプレゼントしたりの日常に戻ったけど、会う事はなかった。


 なんか心にぽっかりと穴が空いた気分だな。少しずつ電話したりメールしたりする機会も減ってきた。会いたいと思う時に会えない距離は、次第に心にも距離を作って行った。


 しばらく電話もして無かったな。電話してみよかかな。


 (もしもし、久しぶりだね。元気にしてた?)

 「はい。和彦さんお久しぶりです。元気にしてます。あの、実はですね。結婚する事になりました。」


 青天の霹靂だった。


 (えっ?•••結婚するの?)

 「はい。大学時代の友人に告白をされて、その流れでその様な関係になり妊娠しちゃいまして、結婚する事になりました。」

 (そうなんだ•••おめでとう•••)


 電話を切った後は、何を話したのかは、あまり覚えていなかった。ありがとうと言われたのかも覚えていない。頭に入ってこなかったよ。それくらいの驚きと、衝撃を受けた。


 彼女の言う通りだったな。俺達の先に結ばれる運命は無かった。出会わせてくれたのは、神様の気まぐれか悪戯かどっちなんだろうな?

 でもあの時、出会えた美樹に、本当に救われたのは事実だし、間違いなく俺には眩しい女性だった。でも叶わなかった縁は、俺も忘れなきゃいけないな。でもこの失恋は引きずりそう••••••


 ご縁は疎遠 か


 次の年の正月に、美樹から年賀状が届いた。無事に産まれた様だ。へぇ、自分の名前から1文字入れたのか。

絵本好きな美樹なら、良いお母さんになるだろうな。

 年賀状の返事はしなかった。正直にまだ、美樹の事を引きずっていたし。その後、数ヶ月が経って絵本と手紙が届いた。


【心配してます。連絡下さい。電話番号は**€〆€€〆€です。】


 美樹は本当に変わらない子だよな。まだ、俺の事を心配してくれてるんだ。真剣に女神様の御使様かな。


 (もしもし、久しぶり、元気だった?年賀状ありがとう。子供の名前も良い名前だね。)

 「久しぶりです。和彦さんは元気にしてたんですか?全然、連絡をくれないから心配してましたよ。母も心配してました。」

 (ごめん。そう言えば、美樹さんのお母さんとも電話だけだったけど、仲良くさせてもらってね。謝っていたって言っといて。美樹さんも結婚したから、あまり電話したりメールしたりするのは良くないって思ったから。)

「そうなんですね。気にしなくても良いですよ。」

 (そうはいかないよ。美樹さんは人妻だし。お母さんは元気にしてるの?)

 「はい。元気にしていますよ。孫を可愛がってくれてます。」

 (そっかぁ。みんな元気で良かったね。子育て頑張ってね。)

 「はい。和彦さんも元気に過ごして下さいね。」

 (ありがとう。じゃぁ、またね。)

 その後は、俺も携帯の会社も変わって番号も変わり、引っ越しもしたので、自然消滅的に音信不通になった。


 ずいぶん前に度だけ、美樹の自宅に電話を掛けて美樹のお母さんと話したのが最後だったな。美樹のお父さんが亡くなって息子さんが店を継いだとかの話を聞いた。美樹も元気で過ごしてるそうだった。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖

 

 俺も3年くらい引きずったけど、38で結婚をして娘を1人授かり、病弱で大変だったけど、今年、大学の薬学部に入学出来たし、あと6年は頑張らないとな。

 

 しかし、久しぶりに見ると懐かしいな。もう30年前くらいかな。思い出して見ると、けっこうたくさん絵葉書や手紙を貰ってるな。メッセージカードも。本当に懐かしい。美樹は元気にしてるんだろうか? 当たり前だけど、彼女も50は過ぎてるんだよな。

 これは子供の名前が書いてある年賀状か。自宅に電話繋がるかな?

 

 美樹に今更、未練は何もない。だけど、なんの感情かは分からないけど、美樹の事がとても気になった。


 〈お掛けになった電話番号は現在使われて•••〉


 繋がらないな。お店はやってるみたいだけど、やめておこう。

 これは美樹が心配して送ってくれた電話番号か。流石に使って無いよな•••気になるな。ちょっと掛けてみようかな。違う人が出たら間違いましたと言えば良いだろうし。

 発信音が鳴ってコールしてる。番号自体は使われてるんだな。


 「はい。もしもし、」


 •••!!この声は間違いなく美樹の声だ。声は昔と全然変わってない。


 (あの、すみません。伊藤 和彦ですが、美樹さんですか?)

 「はい。もう一度名前を•••」

 (名古屋に住んでいる、和彦ですが覚えてますか?)

 「あっ!あぁ〜覚えてます。どうしたんですか?びっくりしました。」

 (イヤ、昔の美樹さんから貰ったメッセージカードとかを見てたら電話番号が残ってたので、繋がるかなって思って掛けてみたら美樹さんに繋がって。まだ番号変わって無くて良かったです。)

 「そうだったんですね。懐かしいですね。」

 (美樹さん、声は昔と変わらないですね。)

 「自分では分からないけどそうですか?」

 (声を聞いた瞬間に美樹さんだと分かりましたけど、娘さんだったら、どうしようと思ってました。)

 「あはは!そうなんですね。」

 (でも元気そうで良かったです。)

 「実は今は人生の中で味わった事のない、どん底にいるんですよ。でも、そんな時に和彦さんから電話が掛かって来て声が聞けるなんて、とても嬉しいです。」

 (そうなんですか?じゃぁ、これも何かの縁ですね。私で良かったら話しを聞くので、いつでもメールして下さい。LINEでも良いですよ。)

 「私、機械に疎くて、今もガラケーなんですよ。もうすぐ使えなくなりますから、予約はしてあるんですが、初めてのスマホで分からないですが、頑張ります。)


 美樹は性格も昔と変わって無いな。ほわんとしてる。

 美樹の話では、自分の書いた詩集が出版社から発売されたそうだ。しっかりと営業してきたらから、ネットで2冊購入した。

 すごいな。昔から絵本とか詩集とか好きだったから、夢が叶ったんだな。俺は、そんな事をさせてあげられなかったかも知れないから、美樹の言った、先は結ばれないのが正解だったんだと思う。

 親父を亡くした後の悲しみを少しでも和らげてくれた俺にとっては女神さんだな。

 ほんわかの美樹のどん底の事は聞かなかったから気になるけど•••


 その後、彼女が出した詩集が届いて読んだけど、俺の知らない美樹の一面が見れて、正直にドキッとした。知ってる、ほんわか美樹が書いた内容とは思えなかった。


 彼女も内心は苦しんでいたんだな。


 ご縁は疎遠だったけど、またこうやって美樹と、ご縁が出来た。神様に感謝だな。俺も大人になったし、昔の様に引きずる事も無い。



 神様。美樹とのご縁が一生続きます様に。


 そして彼女を、どん底から救って下さい。

 



 


 

 


私自身の執筆意欲になりますし、今後の改善点にも繋がりますので、宜しかったら評価の方と、面白いと思って頂けたらブックマーク宜しくお願いします。

感想や誤字、脱字あればご指摘宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
切ない話しですね。 お父さんパーキンソン病も辛いだろうけど 癌じゃなくて良かった。 美樹とは電話でも良いのでは?と思いました。 結ばれる運命ではなかったんでしょうね。 美樹は直感が優れているの…
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