第3話 英雄と闇鳴狼
俺は《真眼・劣》(しんがんれつ)を発動した。スキルとは魔法と違い、その者の性格や特技、極めたものの総称だ。名前を付けるとスキル化し、スキル名を言ってスキルを発動すると効果が2倍くらい上がる(スキル化してないのはアンスキルという)。教えてもらったりすることで他人のスキルを取得できる場合もある。《真眼・劣》は想いを力にする。自分じゃ分からないが、《真眼・劣》を発動すると右目から赤黒い炎が出ている。昔、親友に言われたから鏡見てその時に分かった。ちなみに、スキル≪総黒渦≫(そうこっか)は無制限に何でも出し入れすることができる黒い渦を何処からでも出せるスキルだ。
俺は《真眼・劣》発動後、一瞬で間合いを詰め、ジャンプして剣が届く少し手前で上から剣を振りかぶった。
(少し遠い?…斬ると見せかけて斬撃飛ばす気か。ここは早めに相殺だな)
ガリヤードは大剣で俺の攻撃を相殺する為に大剣を振りかぶった。
「お腹空いてるか!?」
俺は双剣と大剣が当たる直前に鉄ノ太刀を分解し、着地と同時に再度双剣に戻した。
「ッ!」
ガリヤードは大剣を振っただけになってしまい、思いっきり隙を晒した。
「鉄分でも入れとけ!!」
「生憎、飯はさっき食べた!!!」
ガリヤードは大剣を振りかぶった勢いを利用し、低い姿勢になっていた俺の顔を思いっきり蹴った。
「ぐッ!」
俺は顎に蹴りを食らい、剣を手離して宙を舞った。だが、俺は蹴られた勢いでバク転し、双剣を短剣に切り替えつつ空中を蹴って宙に舞っていた剣を取りつつガリヤードに急接近し、攻撃を仕掛けた。ただ、顎にくらった一撃が効いていてグラついたせいで、剣の刃先が頬を掠っただけになった。だが、俺は着地後、即座に先生の前に置いておいた余りの鉄を俺の所に戻しつつ、振り向いて背中を攻撃しようとした。
(なるほど、前の鉄を対処したらレオが後ろから来るし、レオを対処したら後ろから鉄が来てバランスを崩し、レオに斬られると…)
「そこまでは衰えていない!!」
「ッ!おらあ!!」
ガリヤードは急激に素早さが速くなり、大剣で鉄を薙ぎ払いつつ俺を斬ろうとしたが、しっかり攻撃は当たったのに首は斬れず、大剣の方が壊れた。
「ぐッ!」
しかし、ガリヤードもダメージを受けていた。
「がッ!」
俺はガリヤードがギアを上げるのを予測し、ガリヤードめがけて剣を投げていた。剣は俺の首が大剣に当たると同時に先生の肩に刺さった。おかげで威力が下がった。ガリヤードが怯んでいるこのチャンスの逃さず、攻撃しようとした。だが…俺は手を止めた。
「…もう十分だろ?」
「すまん…動けなかった…」
「そりゃそうだ。俺が少し威圧して動きを止めたからな」
「…どうやってやったんだ。俺でもレオ程の威圧はできないぞ」
「…どうせリラードの手紙から俺の家庭事情は知ってるだろ?」
「…なるほどな」
「肩治すぞ」
「いや、回復薬でいい」
ガリヤードは回復薬を飲んで、怪我を治した。その間に俺はガリヤードの大剣を直した。
「…よし……レオ。レオが俺の蹴り食らった時あっただろ?しかも顎だ。首が斬れなかったのは真眼だろうが…何であんなにすぐ動けたんだ?真眼使ったようには見えなかったが」
「ああ、あのとき俺は鉄ノ太刀を分解して、できるだけ鉄を顎に持ってきて蹴りを受け止め、威力を抑えた」
「その判断の速さには脱帽だが、何で真眼を使わなかった?なんなら無意識に発動しそうだが」
「単純にあれ馬鹿みたいに消耗キツイから使わなかった。あれ消耗激しいし、無意識に発動して辺り一帯更地にするわけにもいかないから、制御できるようにした」
(…一体どれだけ…)
「…お前まで規格外になったな…じゃあ次。もう一人だな」
「そうだな。じゃあジンと入れ替わるから離れてくれ」
そう言って俺はジンに変わろうとした時
「待て…ジンと言ったか?」
「?…ああ、言ってなかったか。俺の中にいるこいつはジン・ラードって名前だ」
「…お前、ジンってどんな人か知らないのか?」
「詳しく知らんけど闇鳴狼とは聞いた。英雄のはずなんだが…何か知ってるか?」
「知ってはいるのか。俺も詳しくは知らんが…噂によると、仲間合わせて4人だけでイェグディエルを倒したらしい」
「イェグディエルって…神器守ってるあの?」
「そうだ」
「やば」
神器とは、刀、ハンマー、槍、盾、剣、大剣、弓矢、双剣、ナックル(拳にはめる装備)、銃、短剣の武器種がある1つ能力を持った特別な武器だ。手に入れるには様々な試練を受けないといけない。
「目の前にたった1人でほぼ全ての神器を暇だからで手に入れた奴の方がやばいがな」
「まあまあ…で、別人なのは分かった。闇鳴狼について何か知ってるか?」
「たしか…闇鳴狼、名前はジャック・ハーメルだ。…リラード含む俺らが厄災の前兆についていろいろ調査した時あっただろ?その帰る途中、隣のシャード共和国に闇鳴狼が近ずいているという報告を受けて全員で闇鳴狼討伐に向かったんだが、闇鳴狼の姿を見た途端、溢れ出る殺気と威圧感にリラードを除く討伐隊全員が動けなくなったくらいのやつだ。俺も一瞬だが固まった。まあ結果的には撃退したんだがな」
「撃退?機械大国のシャード共和国で?あそこはいくらでも道具はあるだろ。捕獲とかじゃないのか?」
「ああ、逃げ足が特に速くてな」
【急に侮辱してくるなこいつ】
「…なるほど」
(…ジャック、そろそろ何があったか教えてくれないか?)
【あれがああなってこうなった】
(いや分かんねえよ)
「まあいい、闇鳴狼の実力を測る意味も含めて戦うか。ところでどうやったらレオからジャックに変わるんだ?」
「俺が許可を出したらジャックに変わる。変わる時は合図を頼む」
「分かった、じゃあ闇鳴狼に変わってくれ」
「…?そういえば、前に1回戦ったならもう分かってるんじゃないのか?」
「前すぎて忘れた」
「元とはいえ、英雄の右腕が1年くらいで忘れるとは思えないんだけど」
「歳だ。悪いか」
「…悪い」
「謝るな、余計惨めになる」
「…じゃあ、変わるぞ」
「…おう」
「…」
(武器は?)
【俺の神器】
(駄目に決まってるやろがい)
【チッ…短剣】
(あいよ)
俺は先生が離れた後、鉄ノ太刀を仕舞って短剣を取り出し、入れ替わる許可をした。すると、左目の傷が消えた。
「久しぶりだな!!今度は倒せるかあ!?」
レオはジンに変わるとレオではなく生前のジンの体に変わる。ジンの体に変わるとジンには無かった左目の傷が無くなり、ステータスもジンの物に変わる。まぁ…今はジャックなんだろうけど。
(闇鳴狼…おそらく衰えた俺ではステータスでかなり負けている…最初から全力で行くか)
こう考え、ガリヤードは
「≪限界突破ぁ゙≫!」
「せいぜい俺を楽しませろよお!?ガリヤード!!」
そして互いに相手に向かって飛び、剣を思いっきりぶつけた。
(限界突破を使った俺が押し負けている⁉)
ガリヤードは大剣を傾け、ジャックの剣を滑らせて受け流した。すると、ジャックはすぐ体を回転させ、その回転の勢いで斬撃を放った。
「おらよ!」
「くっ!」
ガリヤードは受け流されて体制を崩したジャックを攻撃するつもりで後ろを向いていたが、ガリヤードが思った以上にジャックの反応速度が速く、ガリヤードは避けれずに防御した。ジャックは着地後、短剣の片方を投げすぐにガリヤードの後に周り背後から攻撃を仕掛けた。
(速い!)
ガリヤードは斬撃を斬ってその勢いのまま後ろにいるジャックを斬ろうと後ろを向いた時、ジャックは体制を低くしていた。
(下!?だったらッ!)
ガリヤードは大剣を持ってる方の腕をもう一方の手で殴って大剣をジャックに向けて斬ろうとしたが、ジャックは同時に飛び上がった。
「馬鹿だなあ!」
「しまったッ‼」
【ッ!間に合え!!】
ジャックがガリヤードの首を斬ろうとしたその時
〚させるかッ!!〛
「は?うぐッ!」
急に左目に傷が現れた。そして、俺はガリヤードにぶつかりながら倒れた。
【チッ…また出て来やがった、肝心なところで…クッソ、頭痛え】
一息ついた後、ガリヤードが話しかけてきた。
「大丈夫か⁉怪我してないか⁉」
「こっちのセリフだ!!怪我は!?」
「はっはっは、この肩の傷以外は大丈夫だな」
「嘘つけもう治ってるだろ。…何で戻ったんだ…」
「ん?自分で戻ったんじゃないのか?」
「いや、別のやつがやった。おそらく本物のジンだろうな」
「なるほど…ていうか何でお前の中にジンがいるんだ?」
「ええっと…俺の家、近くに霧森あるだろ?」
「ああ」
「去年俺がのときに夜にそこで鍛えてたんだが、気配を感じてそこに行ってみたら…そこにはジンがいた。そしていろいろあって、とある約束を守りたいという理由で俺はジンの提案に乗ってこの首飾りを付けた後、俺の中に入った」
「分かった。だが、疑問が残る。ジンは何故あそこにいたのかと、何故お前の中にはジンではなく闇鳴狼がいるかだ」
「前者は予測で分かってるが、後者は俺も分からん」
「そうか…とりあえず今日は助かった。もう帰っていいぞ」
「分かった。じゃあまた明日」
「明日の戦闘力テスト頑張れよ。それじゃ」
ガリヤードはそう言って去って行った。
「…え、テスト?いや聞いてない…ああもう連絡し忘れたな…まあいっか」
そう言って俺は家に帰った。