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悲しみの雨で天を隠して

作者: とのさまとばった

陽炎がゆらゆらとなった暑い夏のあの日私は貴方に恋をした


「はぁはぁ………」彼は息を切らす。ハードな練習が続く冬の午後、試合に向けて素振りを続ける


「お~い実鷹 瞬(みだか しゅん)また一人で素振りかよ」彼の友人である樹雷 未来(じゅらい みらい)が彼に話かける。二人の練習着は既に砂が沢山ついている


「もうすぐ試合だからな……」瞬は未来が隣で素振りを始めたタイミングで口を開く。喋りながら二人は冬のグランドでバットを振り合う


「………これじゃ駄目だ」彼女は窓から差し込む夕日の光に一人照らされ一人絵を描き続ける。窓から見える野球部、サッカー部、陸上部が練習するグランドを描く


ガラッ美術室の扉が開く。「あれ?もう来たんだ世良(せら)」長い髪を結びながらもう一人の美術部員が入って来る


「うん、丁度さっき来たところ。美月(みづき)も早いね」


世良と美月は二人だけの美術室で絵を描く。それぞれが筆を持ち色鮮かに色を塗り続ける。空を赤く塗り二人はキャンパスから目を離し外を見る


「暗くなるの速くなったね」太陽が完全に落ち暗闇が外を包む


「やば!そろそろ帰らないと」時計の針が七時を示そうとしていた。私達は慌ててキャンパスと筆を片付けカバンを持ち美術室を出る。階段を勢い良く降り下駄箱から靴を取り出す。


「ギリギリセーフ」美月はかかとをしっかりと整えつま先をトントンと地面叩く。校門へと向かう


グランドの前を通るとまだ野球部が練習していた。様々な音が聴こえて来る、バットで玉を打つ音、グローブに挟まる玉の音。冷たい風貫く音。人の声がグランドからは聞こえて来る


「頑張ってるね、野球部。」野球部の練習姿を見ながら美月は言う。「私達も頑張らないとね」


「そうだね。私達も……良い作品を描かなきゃ」二人は拳を当てる


春になり三年生の卒業が間近になる時美術室には二人だけが残る。三年生が卒業し私達だけになる一年生が入部せず三年生の三人と二年生の二人だけだった美術部員が世良と美月だけになった


「ギリギリまで三年生が顔を出してくれてたけどもう無いんだな〜」私は美月に向けて言う。そんな私の言葉に美月は口を紬ぐ


「………世良……私辞める事にしたんだ」美月のそんな言葉に私はその後の美月の言葉を聞く事が出来ず思わず美術室を飛び出してしまった。なんで?どうして?そんな言葉が頭の中でグルグルと周り続ける。廊下を思わず走り出してしまった、先生に注意されても走り気づくと校庭に出ていた。誰も来ない校舎裏に行く


「一緒に頑張ろって言ったのにどうして?」目に大粒の涙を浮かべポロポロとそれが溢れ出す。一粒一粒が地面に落ちていく。それがまるで美月との思い出が落ちていく様に感じた。それがなくならないように拭いこれ以上溢れないように天を仰ぎ目を隠す


そして、しばらく経ち一人になった美術室で一人黙々とただひたすら絵を塗り続ける。今まで楽しく隣に居てくれた美月を思い出すと涙が出てしまう。外では元野球部だった未来と言う同級生と手を繋ぎ楽しく笑顔で笑い合う美月がいた


「…………………」私は何も言葉が出なかった。せっかく書いた絵を黒で塗り潰しそうになってしまいそうになりはっとなり、また悲しみにくれる。いつしか自分の描く絵が酷く醜く見える、そのせいか最近はすっかり美術室に行かなくなった


夏休みの部活が終わり校庭の前を通る。そこには昔美月と一緒に見た光景が写っていた。でも私の目に写ったのは目に涙を浮かべ悔しさで下唇を噛みながらバットを振るう彼が写っていた。


その姿が何処か昔の私と重なった様に感じた。そして昔彼の隣にいた人がいないのに気付いた。あぁこの人も……私はそんな事を思いながら彼に見惚れていた


三月に入り大会が近くなっているのか練習が段々と厳しくなっているなと感じられた。次の日には更にきつくなり走り込み、ノック練習内容がハードになっていった。するととある日一年生が三名急に辞めた、ただの偶然かと思った。するとそこから何故か一年生が辞め続けていった。ある日未来が先生方に呼び出されている姿を見た


「お前一年を部活でイジメてるんだろ」一人の先生が未来に向けて言った言葉に俺は未来に近付こうとした足を止めた。なんで?冗談だろ?その場でずっと先生と未来の会話を聴いた


「お前がそんな事をしたとは思いたく無い、そして野球部にもこの事は内密にしたいお前の友人にも迷惑がかかる。認め無くていい………」先生は横にいた野球部の顧問に名を向けた


「野球部を辞めて貰う」突然の言葉に未来は目を大きく開けて何かを言いかけた言葉を包みただ「………はい」その言葉を聴いた俺は校舎裏へ向かっていた


そこに着くと先着がいた。その人も大きく泣いていた。その姿を見ているとこちらも目に涙が溜まってしまった。その涙が頬を伝い地面に落ちそうになった時、その人が急に前を向いた。その時見えた決意の目が俺の心に止まった。打ち砕かれた思いが彼女を見ているともう一度頑張って見ようと思えた


大きな試合を目前に未来は辞めてしまった。最近あまり部活に来ず、来てもすぐに帰ってしまっていた。その時知ったのだが未来は付き合っていて未来が部活を辞めるタイミングでその彼女も部活を辞めたそうだ


夏の大会が終わり。悔しさで胸がいっぱいになった試合でサヨナラ負け。未来がいなくなってから俺は試合に出ても全然打てなかった。野球部引退の日俺は一人素振りをした。隣にいるはずだった人がいないそれだけで悔しさと悲しさで泣きそうになる。それでも辞めずに入れたのは彼女の決意の目のおかげだと思う。いつかお礼がしたいとおもった


案外その機会は早かった、未来から久しぶりに連絡が来た。一緒に遊びに行かないか?その言葉だけで少し嬉しかった。そこには続けて、俺の彼女とその友人を連れてくから。


久しぶりに美月から連絡が来た。私は辞める理由も聞かずに辞める日まで一切口を聞かなかった事に後悔していた。その機会が来たんだと思うと同時に会いたくないと言う気持ちが襲いかかって来た。不安でその日は寝れずにいた。予定の日は二日後渋谷駅集合!と書かれていた。少しこちらの了承なしで勝手に決める所が美月らしいなと感じた


二日後渋谷駅前にて。そこには三人が既にいた俺はその三人のいる場所に向かった。「……久しぶりだな瞬……」未来が少し申し訳無さそうに言う「突然辞めてしまってごめん!!」未来は周りを気にせず頭を下げる。俺はそんな未来の姿を見て「大丈夫だよ別段攻めたりしない。また一緒に野球しよう」俺の言葉を聴いて未来は顔を上げずにいた。しかしズビ、ズビと鼻を啜る音が聴こえる。そんな未来を見て少し笑ってしまいそうになる


「ごめん!せっかく一緒に頑張ろうって言ったのに辞めて。あの時は私の彼氏を一人にしたくないと思ってその理由も言えずに……」グスグスと鼻がなり口がモゴモゴと動く目は涙目になりこちらの目が見れないように下を向く


「焦らなくていいよ、美月もう怒ってないからさ。私もごめん!あの時理由も聞かずに」私も同じ様に下を向く。しばらく時間が達。プッと美月がその光景に吹き出す思わず私も笑ってしまった。昔私達が帰り道で笑い合った様に笑い合った


「これから水族館に行こうと思っているんだけど皆行く?」未来という美月の彼氏が提案する。そのまま、四人全員が電車に乗り込み席に座る。順番は私と瞬さんが隣に座りその前に未来さんと美月という形で座った。電車の中は外より断然涼しく思わず「フー涼しい」と口に出してしまった「涼しいですね」横に座った瞬さんが同意してくれた。瞬さんは顔が整っていて芸能人ですと言われてもそうなんだと感じさせる程整った体と顔をしていた


「世良さんは美術部でしたよね」瞬さんは私の部活について聞いて来た「はい、そうですよ瞬さんは野球部ですよね。頑張っている姿をよく見ましたよ。私も頑張ろうって思えたんですよ」瞬さんはそれを聞いて「……俺も君を見て頑張ろうって思えましたけどね……」と瞬さんはぼそっと呟いた。その後は窓の外をじっと見つめる私もつられ窓を見る外の景色が光の線の様に変わっていく。


隣にいる彼は何処か不思議と惹かれる。前の二人は楽しそうに笑っている。私はそれが何処か羨ましく感じた、それと同時に美月はもう私とは遠い存在になったのだと感じてしまった気がした。


何駅かが過ぎ、水族館へとついた。駅の改札を抜け大きな建物が見えてくる。建物には大きなクジラが描かれておりそれが昔美月と書いた絵の様に見えた


水族館の中に入ると未来が「此処からは別行動俺と美月で回って来るから二人で回って来て!あっ昼頃にイルカショーするからそこで集合な!」と勝手にペアリングし美月の肩をガッと掴みそそくさと魚を見にいった。唖然とする私を見て瞬は口を開く「ま、まぁ行きましょうか」私の手を引き水槽へと向かう。握られた手が少し熱く感じる


「うわ~凄い沢山の魚いますね!」何処か子供ぽっく瞬はキラキラと目を光らせながらいう。それに私は「そうですね」と同意する「あれって何て言うんですかね?あの魚にくっついてる魚」少し大きめな魚を指さす。「あれは多分ですけどコバンザメですね。あぁやって他の魚にくっつきながら生活してるんですよ」私の答えに彼は「へ〜」ともう一度水槽の中を広々と見渡す


「もしかして、水族館初めて?」瞬さんは私の質問に恥ずかしそうに答える「はい、今まで野球一筋でこういう所来たこと無くて。ついはしゃいじゃってましたね」また瞬さんは子供ぽく笑う


「あと、魚をみてると何だかお寿司が食べたくなっちゃいますね」お腹をさすりながらいう


「それは人によるけど、私も一緒見てるとお腹が空いちゃうの」私もつられお腹をさすってしまっう。その時グーと瞬さんのお腹がなる。彼は少し照れくさそうに笑う。それに私も思いっきり笑う


「何だか久しぶりにこんなに笑いました」瞬はいう


「私も、思いっきり笑えた」


気付けば俺は彼女に惹かれていた彼女の目はいつも俺に勇気をくれた


彼の子供の様な笑い方に惹かれていた。その姿に私はまた絵を描こうと頑張ろうと思えた。


いつしか二人は不思議と手を繋いでいた。暗い水族館、水槽から光る光に惹かれながら二人は繋いだ手をまた深く握る


すっかり日がくれ。渋谷駅前既に美月と未来は帰った後二人はまだ居た。世良が「私そろそろ帰るね」世良が立ち上がり、帰路に着こうとする


「………あの!」瞬は世良を呼び止める「また!一緒に何処か、行きましょう」瞬のその言葉に世良は


「うん!また遊びに行こう」


二人は見つめ合う

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