第九十八話 積年の想い
——バチンッ!!
サヨが、ガンテツの頬を勢いよく打った。
「……何のつもりじゃこらぁ!!何年振りか知らんが……あんまりじゃないか!!」
ガンテツが怒鳴り散らす。
サヨは震えながら、涙を流す。
「……三年よ……どこ行ってたのよ……何で何も言わずに消えたのよ……!!」
「……サヨ……?す、すまん……。しかし、どうしたのじゃ……?」
ガンテツが戸惑いの表情を浮かべる。
一行は呆然と二人を見つめていた。
「……あんたにとって、私って……そんなもんだった?……ただの、店の女だった……?」
サヨの声は震え、悲しみに滲む。
「……い、いや………違う。サヨの店じゃから、サヨに会いたいから、通っておったのじゃ。本当じゃ……今日だって、それで来たのじゃ……じゃが、こんな不男にそんなこと言われても、困るじゃろうて……」
長年に染みついた諦めの表情で、ガンテツは呟いた。
「……またそれ……あんたは自分の欠点ばっかり見てさ……あたしの気持ちなんて考えたこともないんでしょ!?」
サヨの声が怒りと涙に震える。
「……サヨ……?」
ガンテツが思わず言葉を詰まらせる。
モモカとアリスも、思わず目に涙を浮かべた。
「……もういい……また勝手に消える前に教えておくわ。……私は……あんたのことが好きなの」
——。
静寂の中に、モモカとアリスの鼻を啜る音が響いた。
一行はあまりに唐突な展開に、ただただ呆然としていた。
「……わしのことが……好き?何を言っとる……そんなことが……」
信じられないという顔で呟くガンテツ。
「おい!おっさん。女の告白を信じねぇなんて、んなカッコ悪りぃこと言わねぇだろうな?」
ムサシが鋭い目つきでガンテツを睨んだ。
(ダーリン……かっこよぎ……早く帰って抱かれたい……)
バーバラが心の中で呟いた。
「……ふん、この青二歳が。わしはな……五十八年生きて、生まれて初めて告白されたのじゃぞ?それに、そもそもここは……男を喜ばせるための店じゃぞ!?そんな簡単に信じられるかぁ!!」
ガンテツは、清々しいほど正直に叫んだ。
その瞬間、サヨがガンテツを抱きしめる。
ガンテツよりも少し背が高いサヨが、しっかりとその体を包み込む。
「……これで信じてくれる?信じてよ!愛してるのよ!ガンテツ!!」
店中に響き渡るほどの大声で、サヨを叫んだ。
店には、他にも客がいる。
店主たるサヨのこの大胆な行為は、利害を離れた、本心からのものものであると、認めざるを得なかった。
ガンテツの目から、涙が落ちる。
「……サヨ……なんでじゃ……?こんな……わしなんかで……良いのか……?」
「……あんたが……あんたが良いんだよぉ!!……もう、どこにも行かないでちょうだい、お願いだから……」
サヨの声は震え、しかし強い想いが溢れていた。
「……あぁ……もうどこにも行かんさ……わしも、お前が好きじゃから」
「……本当に……?」
「……あぁ……ずっとじゃ。しかし……自分で勝手に諦めておった」
「刀はどんなに難しくても諦めたことないくせに……バカね……」
サヨは、そっとガンテツにキスをした。
「………こ、これが……接吻というものなのか………堪らん!堪らんぞ!サヨ!!」
ガンテツも、堪らずサヨにキスを返した。
その場の全員が立ち上がり、拍手と涙の嵐となった。
アリシアとクリスは涙を流しながら手を叩き、
ムサシは誇らしげにガンテツを見つめ、
バーバラはムサシの腕を掴み涙を流す。
モモカとアリスは号泣し、他の席の客や店員までもが集まり始める。
「ガンさんおかえり〜!おめでと〜!!」
「サヨさん良かったね〜!!でも、俺たちの相手もしてね〜!!」
店内はお祝いムード一色に染まり、熱気が満ち溢れた。
「よーうし!!今日は全員、わしのおごりじゃ〜!!朝まで飲むぞ〜!!」
ガンテツはすっかり気を取り直し、店全体を巻き込んだ大宴会が始まった。
──しばらくした後。
一行は、里の友人たちやサヨたちと共に、すっかりベロンベロンになったガンテツを眺めていた。
「さて、私たちはそろそろ失礼しましょうかね。」
「ええ。もう、大丈夫でしょう」
「食いたりねぇな。またお好み焼き屋でも行くか」
「また私が焼いてあ・げ・る〜。」
「いや、流石にもう閉まってるでしょ……」
四人が笑いながら店を出ようとすると、
「帰るのね。もううちには来なくて良いからね。べ〜だ」
モモカが拗ねたように言う。
「モモカさん、一応お客さんですよ。皆さん、どうかお幸せに〜!」
アリスが柔らかい笑みで見送った。
こうして一行は、夜空に浮かぶ星々を思い思いに見上げながら、昨夜と同じ宿へと帰っていったのだった。




