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十 黒の僧侶 ▽  作者: 吉田何某


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第九十二話 橋の上で、橋を渡る

(……やべぇ……結婚してぇ………!)


バーバラの恋が、ついに実ろうとしていた。


ムサシはお好み焼きを食べながら、今日のバーバラの振る舞いを思い返していた。


自分に強い刀を持ってほしい一心で、恥も厭わずガンテツの下心を満たそうとした、洞窟での姿。


あの時、自分の心に湧き上がった感情──


「バーバラのパンツは誰にも見せたくねぇ!」


今思えば、それは、彼女が他の誰とも違う存在だと、自分の心が証明していたのかもしれない。


その後も、ガンテツに謝ろうとしたあの必死さ。

ガンテツが頭を下げに来た時、涙を流して感謝を述べたあの姿。

鈍感なムサシでも、響かないはずがなかった。


今日だけじゃない。

思えば、シルドーニャで出会った時からずっとだった。

筋トレの効果を高めるためと言って、自分をマホテインの店に連れて行き、翌日から毎朝自分のために作ってくれる献身。

戦闘中も、恐るべき攻撃魔法を放つ前に、必ず自分のための支援魔法を先に使ってくれた。

いつも隣にいて、笑顔で、自分を褒め、応援し、尽くしてくれた。


そして今、手際よくお好み焼きを焼いて取り分ける、王女とは思えない家庭的な姿。

「うめぇ……」と自分が言った時の、心の底から嬉しそうな、眩しい笑顔。


ムサシは、生まれて初めて、一人の女性を心から愛おしいと思った。


「バーバラ。本当に……いつも、ありがとな」

その目には、確かな愛が宿っていた。


「い、いえ!そんな……」

(ヤバい、泣きそう…!)」


バーバラは声を震わせながら、


「はい、アリシアちゃんとクリスくんもどーぞ!」

とお好み焼きを取り分けた。


「ありがとう!いただきます!」

アリシアが笑顔で言った。

「ありがとうございます」

クリスも穏やかに応じた。


「……うん……本当に美味しい……」


だが、アリシアの胸には、先のクリスとの衝突が重くのしかかっていた。

価値観の違い自体は、仕方がない。

だが、あの時の——射抜くようなクリスの目が、忘れられなかった。

クリスへの恋心は、疑いようがなかった。

クリスからの好意も、感じていた。

しかし、あの時の彼の目は、間違いなく聖職者としての厳しい目だった。

そんなクリスが、ガンテツと対話し、心を和らげ、全てを解決させた。

自分なんかじゃ、彼に釣り合わないんじゃないか──

そう思えて、たまらなかった。


そして今、目の前で、ムサシとバーバラの間に見えた、確かな想い合い。

アリシアはお好み焼きを味わいながら、涙を堪えられなくなった。


「え、アリシアちゃん?どうしたの……?」

バーバラが心配そうに声をかける。


「……ごめん、ちょっと、体調悪いみたい。先に宿に戻るね!」

アリシアは席を立ち、店を飛び出した。


「……っ!アリシア様!」

クリスが即座に立ち上がり、後を追った。


「お、おい!」

「ど、どうしましょう……」

「仕方ねぇ……二人で全部食うぞ!」

「え!?は、はい!」

(まあ、クリスくんがついて行ったから大丈夫だよね!てか、ムサシさんと二人でお好み焼きなんて……夫婦みたい……って、喜んじゃダメダメ!アリシアちゃん、お大事に!)



夜風の吹く里、小川にかかる橋の上。


クリスはアリシアに追いつき、そっと腕を掴んだ。


「アリシア様!お待ちください!」


「……一人で大丈夫だから、戻って食べててよ」


「体調の悪い人がこんなに早く走れるとは思えません。ちゃんと話してくれませんか?」


「……クリスには関係ない」


「……関係あります」


「関係ないって言──」 


「僕はアリシア様が好きだ!!」


———風が吹き抜け、アリシアの赤い頬を涙が伝った。


「………え?」


クリスは顔を赤くしながら、それでもまっすぐ言葉を紡いだ。


「……僕は、アリシア様のことが……好きです。人としてでも、仲間としてでもなく……一人の女性として、好きなのです……」


アリシアは呆然としながらも、目を潤ませた。


「だから……さっきの自分の態度を……悔いているんだ!!せっかくバーバラさんが焼いてくれたお好み焼きの味もしないくらいに!アリシア様、本当に──」


アリシアの唇が、クリスの唇にそっと触れた。


そして——


「……私だって……私だって……クリスのこと………大好きなんだから!!」


———理性も信仰も、この瞬間だけは、どこかへ行った。


「……アリシア様……!」


クリスは、生まれて初めて、本能のままに、一人の女性を強く抱きしめた。


アリシアも抱き返し、クリスの胸に顔を埋めて泣きながら言った。


「……怖かった……グスっ……嫌われたんじゃないかって……私はクリスと釣り合わないんだって……」


「……そんなわけ……そんなわけないじゃないですか。むしろ、僕の方がずっと……今だって、釣り合わないと思ってますよ」


アリシアは涙を拭い、優しい乙女の目でクリスを見つめた。


「そんなわけないでしょ……ねえ、クリス。もう、あんな目で見ないでよね……覚醒中のあなたより、よっぽど怖かったんだから……」


クリスも、愛のこもった優しい目で見つめ返した。


「はい……もう二度と」


そう言うと、クリスはアリシアに口づけをした。


今度は、

二人の唇はなかなか離れず、

抱擁はますます強く、

口づけはますます深くなっていった——。

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