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十 黒の僧侶 ▽  作者: 吉田何某


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第九十話 僧侶の傾聴

ムサシはガンテツを追い、風吹く道を進むと、やがて天井が外へと開けた空間へと入った。


その空間の奥の壁面には、澄み渡る空のように青く輝く鉱石──"オリハルコン"が、まばらに埋まっていた。


そして、その前には——


ガン!!ガン!!


と、つるはしでオリハルコンを採掘する禿頭の後ろ姿があった。


「………おい、おっさん、俺がやるから代われよ」

ムサシの声も虚しく、ガンテツはムスっとした顔で無言のまま、

ガン!!ガン!!

と採掘を続ける。


「おい!代わるって言ってんだろうが!!」


「うるさい!黙れ!もう口も聞きたくないわ!……刀は打ってやる。男に二言はねぇ。だが、お主とはそれだけじゃ!!」

ガンテツは、先ほどの一件で完全にヘソを曲げていた。


「………わかったよ」

ムサシはため息をつき、無言で見守る。


やがて、採掘が終わり、二人は風吹く道を無言のまま戻っていった。


「おかえりなさい!」

とアリシアが明るい声をかけるが、ガンテツは無言のままズカズカと出口へ向かって歩いていく。


「……やっぱり、怒ってる?」

バーバラが心配そうに言う。


「気にするな。打ってはくれるみてぇだから、ついていこうぜ」

ムサシが淡々と言い、四人は気まずさを抱えつつ洞窟を出た。



山沿いを東へ進む一行。

ガンテツは相変わらず無言で前方をズカズカ進む。


「やっぱり……謝ってくる!流石に"変態オヤジ"は言いすぎたと思うし……」

バーバラが決意を見せた。


「お待ちください」

クリスがそっと制した。


「バーバラさん、あなたは決して悪いことはしていませんし、ここで無闇に謝ることは、かえってガンテツさんの自尊心を刺激するだけです」


「スカートの中覗きたいオヤジの自尊心なんて……」

アリシアがぽつりと呟く。


「アリシア様」

クリスは静かに、しかし真剣に言葉を続けた。


「ガンテツさんの行いは、確かに卑しかった。女性の尊厳を軽んじていた。ですが……先ほどの様子からして、その背後には、孤独や、外見に対するコンプレックス、恋愛経験の少なさなど、抱えきれない痛みがあったのではないでしょうか」


アリシアは、思わず目を見開いた。


「……そんなの、みんな何かしら抱えてるわ!それでもみんな、自分を律してるの!」


「"みんな"とは、誰のことですか?」

クリスの視線が、アリシアを射抜いた。


「みんなは……みんなよ……」

(何よ……そんな目で……そんな目で見ないでよ、クリス……!)

アリシアの心が揺れた。


「……」

ムサシとバーバラは、沈黙を続けた。


「アリシア様」

クリスは静かに言った。


「きっと、僕たちが大魔王を倒して世界を救っても……ガンテツさんのような苦しみを持つ人たちは、結局誰一人救えないでしょう」


「クリス……!」

(なんで……なんでそんなこと言うのよ……)

アリシアの目に涙が滲む。


「……俺にはよくわからん。」

ムサシが小声で言った。


(……クリスくん、どうするつもりなの……)

バーバラは胸を押さえた。


クリスは歩を進め、ガンテツに声をかけた。

「ガンテツさん。少し、お話しできませんか?」


その優しい声に、ガンテツは立ち止まった。

「……なんじゃよ」


「先ほどは、僕たちの態度でお気を悪くさせてしまったかもしれませんね……それでも、ムサシさんの刀を打ってくださるのですか?」


「……ああ。悔しいが、コジーロの息子は本物じゃ。わしの本気の刀を持つに相応しい男じゃ。男に二言はない」


「……そうですか。ありがとうございます。……ガンテツさんは、なぜ刀鍛冶に?」


「……モテたかったからじゃ」


「……やっぱり、モテたいですよね」


「当たり前じゃ!見た目じゃ無理じゃから、得意なことで勝負したんじゃ!」


「素晴らしいですね……心から尊敬します」


「……じゃが、どれだけ良い刀を打っても、どれだけ職人として名声を得ても、結局誰もわしを男として愛してはくれんかった……こんなチビでハゲで不細工に惚れる女なんぞ、おらんのじゃ」


「……ガンテツさん、それは……」


「それで、情けない話じゃが……年々苦しくなっていったのじゃ、家で一人で眠りにつくのも、一人で起きるのもな。

"刀を打って喜んでもらえるだけで幸せ"というわけにもいかなくなってのぉ」


クリスは、胸が締めつけられる思いだった。


「……じゃが、やり残したことはある。じゃから、"その日"が来るまで、あそこで封印してもらうことにしたのじゃよ。そして今日が、"その日"だったというわけじゃ」


「……そういうこと、だったのですね……」


ガンテツは頷き、

「ちゃんと打つから、安心せいよ」

と、優しく言った。


クリスは心を打たれ、叫んだ。


「女性にモテるかどうかなど……つまらぬ話だ!あなたは、偉大な刀鍛冶であり、尊い人間だ!あなたに惚れない女性がいるなら、それはあなたの高さに女性たちが釣り合わないだけだ!!」


ガンテツは驚き、そして破顔した。

「そ、そうかの!?そうかもしれんな!!わっはっは!!」


クリスは毅然と頷く。


「……お主、名前は?」

「クリスと申します。」

「クリス君……ありがとな。君は、優しいのぉ」

「本心を伝えただけです」


ガンテツは立ち止まり、


「先ほどは、すまなかった……君の大切な仲間である女性を、軽く見てしまった。わしの方から謝らせておくれ」


そう言うと、後ろの三人の方へ向かい、深々と頭を下げた。


「……すまなかった!……卑しく、軽率じゃった!じゃが、刀への想いは本当じゃ!どうか、こんな変態オヤジのわしじゃが、打たせてもらえんかのぉ!」


一行は驚き、そして──


「そんな、頭を上げてください!私が言い過ぎました……本当にごめんなさい!ムサシさんの刀、お願いします!」

バーバラは涙ぐみ、声を震わせた。


「……俺は謝らねぇ」

ムサシが口を開く。

「だが、ありがとな、おっさん。よろしく頼む」


アリシアは、喜びたかったが——

胸が苦しかった。


(……クリスは、本当にすごい人だなぁ……私なんかじゃ、釣り合わないのかも……)

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