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第九話 農村コジーロ

朝日がリンドバーグの街を金色に染める中、アリシアとクリスは宿を後にした。

今日もアリシアは、選び抜いた下着を身につけて、クリスと共に歩みだす。


「待ってなさいムサシ! 絶対に仲間にしてやるんだから!」

アリシアは拳を握り、意気込んだ。


「……あまり気負いすぎないように、アリシア様。押しが強すぎると逃げられるかもしれませんよ。」

クリスはやれやれと微笑む。


空はどこまでも晴れ渡り、二人の行く手を祝福しているかのようだった。

目的地である農村コジーロと、目当ての剣士ムサシの居場所が一致するという奇跡に、二人は感謝しつつ進んでいく。


「しかし冷静に考えてみると、当初予定していた盾役も兼ねた戦士というのとは、ムサシさんは少し違うような気もしてきましたが」

とクリス。


「攻撃は最大の防御って言うじゃない。あれほどの火力なら、私が盾役を兼ねて彼が攻撃に専念すれば良いのよ!」

アリシアは胸を張った。


「……アリシア様が盾役、ですか……それなら、僕はアリシア様を癒すことに専念致します。」

とクリスは大真面目に言った。


「それは極端!」

アリシアは笑った。

「みんなで生き残ること、貴方はそれを最優先にし続けて。」


「……精進いたします。」


旅路の途中、魔物たちを軽やかに蹴散らしつつ、二人は昼頃には農村コジーロに到着した。



村は貧しいながらも活気に満ち、

大人たちは懸命に働き、子どもたちは元気いっぱいに遊んでいる。


「着きましたね、アリシア様。」


「うん! ムサシを仲間にして、モーゼフ様の知り合いの村長さんも訪ねましょ!」


アリシアは拳を握り、元気よく宣言した。

クリスも穏やかな微笑みを浮かべる。


目的地の農村コジーロに到着した二人は、村の入り口に立っていた村民に声をかけた。


「こんにちは、旅のお方。こんな村ですが、ゆっくりしていってくださいな」


「こんにちは! あの、ムサシさんという剣士を探しているんですが──」


「ああ、ムサシなら村の奥、村長んとこにいると思うよ」


「えっ!? ムサシさんが村長さんのお家に!? わかりました!ありがとうございます!」


アリシアはぱっと顔を輝かせると、すぐ隣のクリスに向き直り、興奮気味に叫んだ。


「凄いよクリス! ムサシさんが村長さんの家にいるみたい! こんなことってあるんだね!」


クリスも静かに頷き、柔らかく答える。


「ええ。これは紛れもなく──神のお導きに違いありません」


偶然の幸運に感謝しつつ、二人は村の奥へと足を進めた。



やがて、立派とは言えないが、どこか威厳を感じさせる一軒の家の前にたどり着く。


アリシアが元気よく声を張った。


「ごめんくださーい!」


戸を開けて現れたのは──渋みを帯びた老剣士の男だった。


「ほう、どちらさまかな?」


「勇者アリシアと申します! ムサシさんを仲間にしたくて……!」


「おお、勇者様とは……それは光栄だ。ムサシなら裏庭にいる。行っておいで」


「ありがとうございます!」


アリシアが深々と頭を下げる傍らで、クリスも静かに一礼した。


(このお方が……村長……?)


裏庭へと回ると、

木刀の打ち合う激しい音が耳に飛び込んできた。


「うわぁっ!……くそっ!」


そこには、目当ての剣士ムサシと、果敢に木刀を振るう少年の姿があった。

少年は短めの黒髪を逆立て、引き締まった体躯に袴と羽織をまとっていた。木刀を両手で握りしめ、真剣な眼差しをムサシに向けている。

彼の名はーーリョーマ。ムサシの弟である。


「甘い。もっと脇を締めろ!」


「も、もう一回だ!」


そのやり取りの中、ムサシがこちらに気づく。


きらきらした目のアリシアと、にこやかな僧侶クリスを見て、

ムサシは小さく苦笑した。


「……マジで来やがったか。」


と、ぼそりと呟いた。



やがて、村の中央広場へ。


アリシアは子供たちと元気に遊び、

クリスとムサシは少し離れたところからそれを眺めていた。


「ムサシさんが村長様のご子息でしたとは……驚きました」

「……ああ。そもそも親父に用があって来たんだろ?」


「はい。アリエヘンを旅立つ時、父が『まずはコジーロ村の村長を訪ねなさい』と助言してくれたのです」


「へぇ……あの親父に、そんな遠くの街に知り合いがいるとはな。知らなかったぜ」

ムサシは意外そうに言った。


そのとき、アリシアと遊んでいた子供たちのもとに、大人の村人が通りかかる。


「お、今日はお姉さんと遊んでもらってるのか! よかったなぁ! お姉さん、ゆっくりしてってくださいね!」


「はい! ありがとうございます!」

アリシアはにっこりと笑い、手を振った。


それを見ていたクリスは、静かに口を開く。


「それにしても……本当に良い村ですね」

「そう思うか?」


「ええ。村人皆さんが、お互いを思いやり、手を取り合いながら懸命に生きている……。物質的な豊かさとは違う、心の豊かさのようなものを感じます」


「……そうか。まあ、そうだな」

ムサシは口元にわずかな笑みを浮かべた。


「いい村だ。俺はこいつら全員に幸せになってほしい。そのために、守らなきゃならねぇ」


クリスはその横顔を見つめながら、そっと頷いた。


「大魔王が復活したんだろ? 最近明らかに魔物が活発になってきやがる。もし強い魔物が襲いにでも来た時、守れるのは俺しかいない。だから、そういうことだ。悪いな。」


「……まあ、それは……僕でもそうするかもしれませんね。」


その時だった。


子どもの一人が、元気よくアリシアのスカートをぺらりと捲った!


「きゃあっ!」


陽光の下で明かされる、今日のアリシアの選択は──紫色だった。


「すげえ!!」

子供たちが歓声を上げた。


「こらーっ!!」

真っ赤になってアリシアが怒鳴る。


「……ほぅ、勇者様は見た目によらず、なかなかエロいパンティだな、おい。」

ムサシがニヤニヤしながら言う。


──そして、その瞬間。


クリスの様子が一変した。


髪の根元が黒く染まり、

周囲にぴりぴりとした空気が漂い始める。


「おい……大丈夫か?」


「……あっ……あぁっ……」


「おい! どうした!?」


ムサシが焦りながら肩を揺さぶっていると、

クリスはふいに、何事もなかったかのように正気に戻った。


「どうかしましたか?」


「どうかしましたかって……大丈夫なのか?」


「何がです?」


「……いや、なんでもねぇよ。たぶんな。」

(いや、絶対なんかあったろ……)


ムサシはクリスを一瞥し、眉をひそめたが、すぐに気を取り直した。


「……アリシア様にも、諦めてもらうしかなさそうですね。」

クリスは静かに呟き、歩き出そうとする。


──だがその時。


空が、暗転した。


「アリシア様!」


「みんな、隠れて!」


子供たちは一斉に逃げ、ムサシは刀を抜き、クリスはアリシアの元へと駆け寄る。


上空から、禍々しい魔物が降臨する。

四魔王の一角──ドスコムーア


「なんだ、ありゃあ……!」

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