第八十六話 二つの劇場
アヴァロット王国を後にし、晴天下の平原を進む勇者一行。
「よーっし!新たなる冒険の始まりよ!!……で、どこ行くんだっけ?」
アリシアの問いに、一同はずっこけそうになる。
「モルガン様からの助言によれば、我々の次の目的地は、ここから遥か北の山脈の上にあるという、“天空都市アル・クラーナ”です。そこに封印されている方舟が、浮遊する魔王城へ向かう唯一の手段とのことでした」
「そうだったわね!天空都市……わくわくしちゃうわ!」
「だけど、あんまり急ぎすぎるなとも言っていたわ。もうここまできたら、あとは戦闘を重ねてレベルを上げ、確実に大魔王を倒すことを最優先に考えなさいって」
「そうだったわね!」
「はい。ですので、洞窟やダンジョンなどを見つけたら、積極的に入りましょう」
「おう。斬れりゃ何でもいいぜ」
ムサシは抜刀し、前方に見えた魔物の群れに向かって剣を振る。
ズババババーーーン!!
「ギャ〜〜〜!!」
ムサシの斬撃は、バフなしでも飛ぶようになった。
「キャ〜!!ムサシさん、もう素の斬撃で飛ぶんですね!!素敵すぎる……」
バン!!
バーバラが右手の人差し指から、ノールックで爆破魔法を放つ。
ドッカーーーン!!
「ギョエ〜〜〜!!」
「バーバラ……お前も…ますますいい女になりやがって!!」
「あ、ありがとうこざいます……!嬉しいぃ……」
バーバラは真っ赤な頬を、両手で押さえながら言った。
(そうよ……戦って、倒しまくって、もっともっと…ムサシさんにとっていい女になるの!!それが世界を救う近道でもあるんだから!)
「ムサシさん、あっちからも来ました!行きましょう!」
「おうよ!」
こうして再び、野に放たれた脳筋鬼と狂愛鬼による、魔物駆逐劇が幕を開けたのであった。
それに伴い——
「始まったわね〜、劇場」
アリシアが呟く。
「はい。無料で鑑賞できるのは、僕らの特権ですね」
クリスが珍しく冗談を飛ばした。
「うっふふ!ホントね」
アリシアが笑い、ふと思い出したように口を開く。
「そうだ、クリス。あなたね、エルギーノとの戦いの時、覚醒した後も……私の声、聞いてくれたんだよ」
乙女のような表情で告げる。
「そうでしたか……それは、本当に良かった」
クリスは神に感謝しながら微笑んだ。
「うん……」
アリシアは少し照れながら続けるかと思いきや、急に遊び始める。
「覚醒中の時は、私の"あれ"見たこと覚えてるのかしらね?」
クリスは真っ赤になり、
「し、知りませんよ、そんなこと!」
と叫ぶ。
「また顔真っ赤にしてぇ。モーゼフ様はスケベじゃなかったみたいだけど、ご子息は違うみたいね」
アリシアがからかう。
「ア、アリシア様!流石に、怒りますよ!?」
クリスが焦ると、
「あっはは!ごめんごめん!冗談よ!でも……」
アリシアは少し真面目な調子になり、
「どうせなら、普通のクリスにも、覚えてて欲しいなーって、最近思っちゃうんだ……って、何言ってるんだ私は!!今のなし!!」
と赤面して言った。
(……え?……これは、いったい…どうすれば?)
「アリシア様。覚えていることはできませんが……聞くことはできます。昨日は、何色の下着を履かれていたのですか?ちなみに今日は?」
と、クリスは赤い顔で真顔で尋ねる。
アリシアはその真面目な調子に照れて、さらに赤くなり、
「今のなしって言ったでしょ!クリスのエッチ!変態!」
と叫んだ。
「え!?すみませんアリシア様!僕は、そんなつもりでは!!」
クリスがあたふたし、
(主よ!いったいどうすれば!我を正解に導きたまえ!)
と、心の中で祈りを捧げた。
そんなクリスを見て、“可愛いクリスに悪戯したくなる病”が再び発症したアリシアは、
「仕方ないな〜……」
と、クリスの耳元に顔を近づけ、そっと囁いた。
「昨日は………ショッキング・ピンク」
「今日は………」
ブシュ〜〜〜〜〜〜!!!!!!
クリスの鼻から天に向かって血が噴火した。
「……ショ………ショッキン………」
クリスは虚ろな目で言葉を繰り返し、その場にぐらりと揺らいだ。
「クリス!大変!バーバラ〜!!回復お願い〜!!」
——と、こちらはこちらで、勇者のパンツを巡るラブコメ劇場を繰り広げるのであった。




