第八十四話 進化
——翌朝。
アヴァロット城、玉座の間。
モルガンが玉座に座り、その隣にテリオスが立っているところへ、扉が開き、勇者一行が入ってきた。
「おはよう」
モルガンが口を開く。
「おはよ、ママ」
「おはようございます!モルガン様!」
「昨日は、最高のおもてなしを、ありがとうございました」
「礼には及ばん。楽しんでくれたなら何よりだ」
ムサシがテリオスに目を向ける。
「ん、どうしたお前?顔色悪りぃな」
「…ムサシさん…おはよう、ございます……」
弱々しく答えるテリオス。
「ただの二日酔いだ。気にするな」
と、肩をすくめるモルガン。
「おお。そんなに飲んだのか」
(あんたに合わせてね)
アリシアが心の中で苦笑する。
「……す、すみません……剣士たる者……こんなことでは……」
「大丈夫じゃねぇか?俺の親父も昔勇者の仲間だったらしいが、飲むとだいたい二日酔いになってたぞ」
「そうだ。それでどれほど私たちが尻拭いさせられたことか……テリオス!!私は許さんぞ!!」
「はっ!!………うっぷ!!………お…おぇ……」
テリオスはトイレに駆け出した。
アリシアは心の中で小さく呟く。
(やっぱり…)
クリスも、そっと眉をひそめ、心の中で呟いた。
(血は争えないのですね…)
「ったく……」
バーバラが呆れたように肩をすくめる。
「すまんな……昨日はよほど楽しかったのだろう。許してやってくれ」
モルガンが小さく詫びた。
「い、いえ、私たちは全然…」
そこで、バーバラが切り出した。
「ママ、話って?」
「うむ。アリシア、クリスよ。モド・ラナクは習得したな?」
「はい!」
「コジーロ様から、授かりました。」
「良い。話というのは——
バーバラの力で、モド・ラナクを進化させられるかもしれない、というものだ」
「………え?」
予想外の展開に、バーバラは驚く。
「進化って、いったい!?」
アリシアが食いつく。
「おそらくだが……モド・ラナクの力を、パーティ全体に拡げることができるようになる」
「…………!」
それが、今後の強敵との戦闘において何を意味するのかを悟ると、四人は揃って息を呑んだ。
「………それを、私ができるかもしれないの?」
モルガンは頷き——
「かつての冒険の中で開いた一冊の古文書に、こう書かれていた。
『勇と聖の合わさりし力、賢により拡がらん』
と。"賢"とはおそらく、伝承において魔法界の頂に到達した者を指して使われているあの"賢者"という言葉のことだろう。そして、私は——魔道を只管極めることが、賢者への道だと思っていた。しかし………」
誇りと自責の入り混じった思いで、バーバラを見つめながら、続けた。
「"賢者"とは、魔道と信仰の"高次元の両立"を成したことにより、魔法使いと僧侶双方の力を自在に操るに至った存在のことを指していたに違いない。それならば、二十年前に私がそれを習得できなかったことも、腑に落ちる」
「……ママ……」
「……いずれにせよ、試せばわかることだ。ついて来なさい」
一行はモルガンに続いてテラスへと向かった。
*
「では、始めよう。まずはモド・ラナクを発動せよ」
「はい!」
アリシアとクリスが声を揃えた。
アリシアは剣を高らかに掲げ、クリスはその剣に信仰をぶつける。
「モド・ラナク!!」
魔剣アルファ・オメガが、太陽の如く光り輝いた。
「よし。では、バーバラ。仲間達にその光が"拡がる"よう神に祈り、"それを可能とする魔力"をアリシアの剣へぶつけなさい」
「………はい」
バーバラは、三人の仲間のことを強く想い、目を閉じた。
(主よ。我が愛する仲間達に、邪を打ち破りし勇者の力を、分け与えたまえ!!)
目を開き、剣へ魔力を放つ。
「はあぁ!!」
剣から放たれる太陽の如き光が、円形に拡がり、四人の身体が光を帯びた。
「これ……成功だよね、ママ!?」
「ええ!!……よくやった……よくやったわ、バーバラ!!」
モルガンの声が歓喜で震えた。
「バーバラ!!信じてたわよ!!」
「これは……革命です!バーバラさん、あなたは本当に、凄い人だ………!」
「……お前は、やっぱり最高の女だぜ!」
バーバラは、全てを神に感謝し、
そして——
「ホントに……ママの娘で良かったあぁっ!!」
と、叫んだ。
モルガンが号泣したのは、言うまでもない。




