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黒の僧侶  作者: ヨシダール


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第八十二話 宴(前菜から魚まで)

———アヴァロット城、宴会場。


煌びやかなシャンデリアが天井から柔らかな光を放ち、壁には繊細な刺繍のタペストリーが彩りを添えている。

長テーブルには、城のシェフたちが厳選した素材を用い、腕によりをかけて作り上げた創作料理の前菜が美しく並んでいた。

静かな音楽が流れ、会場全体には高貴でありながらどこか温かな空気が漂っている。


一行は給仕長に導かれ、会場中央の円卓に案内されて着席した。


「わぁ、綺麗な盛り付け……」


「食べる前から目でも楽しめる、まさに創作料理ですね」


感嘆の声をあげるアリシアとクリスの隣で、ムサシが眉をひそめた。


「……少なくねぇか? ……皿に余白が多いんだが……」


「そういうものなのよ……料理は順番に出てくるから。恥ずかしいからやめて……」


アリシアが慌ててたしなめると、ムサシはむっとした顔をする。


バーバラは給仕長に微笑みながら声をかけた。


「ねぇ、こちらの剣士の方はお腹が空いてるの。初めにパンをたくさん持ってきて。それから、この僧侶の方はアルコールが飲めないので、乾杯はノンアルコールのシャンパンでお願い」


「かしこまりました! バーバラ様!」


(さ、さすがは王女様……)

アリシアは感心する。


「すみません、バーバラさん。お気遣い頂いて」


「……悪いな、バーバラ」


「いえいえ!なんでも言ってくださいね!」

(今の高得点じゃない!?やったわ!!給仕長、むしろサービスしなくていいわよ!私がムサシさんに全集中してあげるから!!)


四人のグラスにシャンパンが注がれ、会場全体も乾杯の準備が整った。


上座に座るモルガンが立ち上がる。


「準備は整ったようだな。では……改めて、勇者たちよ! 此度の恩、生涯忘れぬ!せめて今宵は存分に楽しんでいってくれ!!」


「はーい!!」

と、アリシアが笑顔で応じ、

クリスは丁寧に会釈をした。


ムサシは、一口サイズの料理がちょこんと盛られた皿を、まるで世界の七不思議でも眺めるかのようにじっと見つめていた。


(ムサシさん、絶対こういう料理好きじゃないよねぇ……やっぱりパン沢山食べてもらうしかないわ!)


「皆の者!今日はとことん楽しむが良い!それがこの愉快な勇者達への最大のもてなしになるだろう!私にも気を使うな!!無礼講だ!!良いな!!」


「はっ!!」(いや、それは無理っす……)と城の一同。


モルガンが高らかに声を響かせる。

「それでは……乾杯!!」


「乾杯!!!」


カチーン!!


四人はシャンパンを口にし、すぐに前菜に手を伸ばした。


「ん〜〜!! 美味しい……幸せ……」

「このゼリーに黒胡椒とは……僕にはとても思いつきません」

アリシアとクリスが感動する横で、

ムサシは一口食べ、

「……もう皿空じゃねぇか……」

と困惑した顔を見せる。


と、そこへ給仕がパンのワゴンを運んできた。

「剣士様、お好きなパンをお選び下さい。お取り致します」

「あ、そのワゴン、そのままそこに置いておいてもらえる?」

「えっ? か、かしこまりました、バーバラ様」

給仕は戸惑いながらも、会場を回る予定だったパンのワゴンをムサシの席横に留め置いた。


「ムサシさん、そのパン、好きなだけ食べて下さい!」


バーバラがニコニコと声をかけると、ムサシは目を輝かせた。


「これ全部食えるのかよ!? 最高じゃねぇか!!」


歓喜の声を上げ、パンを手づかみでバクバクと食べ始めるムサシ。


アリシアは、至高のコース料理に集中するために、この原始人へのツッコミを捨て、もはや存在しないものと見做すことに決めた。


一方、真のセレブであるバーバラは、身体に染みついた完璧なテーブルマナーで淡々と食事を進めつつ、近くの給仕にムサシのグラスにシャンパンを注ぐよう指示しようとした──

その時。


「ムサシさん、お注ぎ致します」

シャンパンボトルを手にしたテリオスが、ムサシに注ぎにきた。


「なんだ、わりぃな、テリオス」


(テリオス!邪魔しないでよね!……って、え?ムサシさん、テリオスって名前で呼んだ!?)

バーバラが内心ざわめく。


真剣勝負と稽古を経た二人の間には、誰も知らぬ間に男の絆が芽生えていた。


「ふふっ。物凄く食べますね、ムサシさん。パンならいくらでもありますから、ドンドン召し上がってください」


テリオスが爽やかスマイルを浮かべると、ムサシは気さくに応じた。


「おう。ありがとよ。お前、グラス持ってきてここ座れよ」


まるで町内会の飲み会のノリで、クリスとの間を指して言う。


「え!?良いのですか?しかし……皆さんは?」


「もちろん! 座って座ってー!」

とアリシアが笑顔で言い、クリスも「是非」と微笑む。


バーバラは姉弟の蟠りが解けたものの、今度はムサシへの奉仕者としてのライバル心を燃やし始め、作り笑いで

「良かったわね〜、テリオス。あはは」

と言った。


「皆さん、ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」

テリオスは近くの女給仕に向き直る。


「すまない、君。僕の椅子をここに置いてくれたまえ。それからグラスと、次の魚料理に合う白ワインを皆さんに。僕の料理も次からはこちらに頼む」


「かしこまりました、テリオス様」

女給仕は顔を赤らめながら応じた。


椅子が運ばれ、テリオスが着席した頃、円卓には魚料理が運ばれてきた。


アリシアは感動しながらワインとのマリアージュを楽しみ、

クリスは調理方法に驚き、

ムサシはカメレオンのごとく平らげ、再びパンに戻った。


バーバラは

(ムサシさん……ホント型破りでかっこいいわ……剣だけじゃなくてこの辺も見習いなさいよ、テリオス)

と狂った発言を心中で繰り広げた。


ムサシのペースに合わせてガンガン白ワインを飲むテリオスは、すっかり出来上がりつつあった。


「……ムサシさん……ボクは……ボクは……あなたのような剣士になりたいデス!!」


「そいつは無理だな。俺が世界一だ」


「ですから……そういう……そういうことを平然と言えるような男に……ボクはなりたいんダ!!」


(あら〜、だいぶ酔ってるわね王子様)

アリシアは苦笑しながら、ふとその隣のしらふのクリスを見ると——

(やっぱりクリスって……本当に素敵……今夜、二人で夜景でも見れないかしら……)

と、ほろ酔い妄想を膨らませた。


「テリオス!あんたちょっと水飲みなさいよ!」

(相変わらず酒弱いわねこの弟は!誰に似たのかしら?)

と、姉が注意するも——


「バーバラ!どうした君、飲み足りないんじゃないのか!?ボクは……ムサシさんと出会えて……本当に……」


すっかり酒に飲まれ、王子キャラ崩壊のテリオスの元へ──


「テリオス、水を飲みなさい」


母が現れた。

料理も飲み物も椅子もすべて魔法で宙に浮かせながら。


(いくら何でも登場の仕方が魔法使いすぎ!!)

アリシアは心の中で吹き出した。

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