第八十一話 剣士とは
モルガンの案内で、勇者一行はアヴァロット城の地下へと誘われた。
階段を下りきった先に広がっていたのは、巨大な石造りの円形闘技場——まるで古代遺跡のような風格と迫力を備えた空間だった。
「すごい……地下に、こんな場所があったなんて」
「はい……これは稽古場というより、戦場ですね」
「年に数回、ここで兵士たちの大会が開かれるのよ。決勝は毎回、テリオスとサイラスなんだけどね」
「へぇ……強いのね、テリオスって」
「そりゃあ、ママの息子だもん。強いわよ」
モルガンはゆったりと振り返りながら言った。
「では、テリオスとムサシ以外は観客席へ。さあ、始めましょうか」
まもなく自分の息子が、頭のネジが外れた剣士に殺されるかもしれないとは思えないほど、落ち着き払った声だった。
「すげぇなここ……燃えるぜ」
(クソっ…なんなんだ、この男は!?)
ムサシとテリオスは階段を下り、闘技場の中央で向かい合った。
「遺言、言っとくか?」
「……黙れ」
「準備は整ったようだな……始めッ!!」
モルガンの号令と共に、試合が始まった。
「モエ・テーロ!!」
テリオスの放った火炎魔法を、ムサシは一振りの剣で軽く弾いた。
「けっ。落ちこぼれの魔法が俺に効くかよ」
「シビ・レーロ!!」
電撃魔法も受け止め、逆に刀に電気を宿して撃ち返す。
「効かねぇっつってんだろが!!」
テリオスはギリギリでかわす。
「そんな魔法、撃たねぇ方がマシだな。……撃てねぇように詰めてやるよ!」
ムサシが二刀を抜いて詰め寄る。
ガキィン!
ゴキィン!
バキィン!
二人の剣が交錯する。
だが、ムサシの猛攻に、テリオスは防戦一方だった。
「おらおら、どうした!」
「……くっ!」(クソッ、強い……!)
「ったく、お前の母ちゃんはろくな育て方しなかったみてぇだな!」
「──ッ!!」
ガキィイイン!!
「……お?調子出てきたか?」
「お母様を侮辱することだけは……許さん!!」
怒りの中、テリオスの剣に電撃が宿る。
「ライ・ソード!!」
「……ほう」
「うおおぉぉおお!!」
「来やがれ!!」
バギィン!
ガキィン!
ゴキィン!
先ほどとは打って変わって、互角の剣戟が闘技場に響き渡る。
「……すごい……本当に強いわ、テリオス」
アリシアが目を見開く。
「ええ……ムサシさんと互角に打ち合う剣士など、この世に何人いるか……」
クリスも驚嘆の声を漏らす。
(ムサシさん……テリオス……!)
バーバラは胸の奥を熱くしながら、その戦いを見守っていた。
テリオスの剣の実力は、本物だった。
彼は、母モルガンから魔法の才はあまり引き継がなかったが、
父である剣士コジーロの剣の才を、色濃く受け継いでいた。
そして今まさに、真の実力者と剣を交えることで、その眠れる才能が呼び覚まされつつあった。
──やがて。
テリオスは剣を鞘に納め、静かに、居合の構えを取った。
「魔力増幅……!」
──ビリッ!——ビリリッ!———ビリリリッ!
鞘の中で、電撃の魔力が音を立てて増幅する。
そして——
「ライ・ブレイク!!」
雷を纏った居合斬りが空気を裂く。
ズドォン!!
その斬撃が壁を抉った瞬間——
テリオスの喉元に、ムサシの刀が突きつけられていた。
「……どうした? 殺せよ」
ムサシは刀を引き、思い切りテリオスを蹴り飛ばした。
「ぐっ……!」
ゆったりと歩み寄りながら、ムサシは怒鳴った。
「おめぇよぉ………強えじゃねぇかよ!!」
「……何……?」
「……お前が強ぇ剣士だなんてな……その鞘見りゃわかんだよ!」
テリオスの鞘──
己の凡庸な魔力を補うため、自ら職人と協議を重ねて完成させた、"相棒"。
幾度も修理された痕跡のある、優美さとは程遠いそれは、王族の高貴な装いの腰に刺すものとしては、明らかにズレていた。
しかし、そのズレた一点にこそ、テリオスという男の本性が潜んでいるということを、ムサシは出会った時から直感していたのであった。
「……剣、好きなんだろ?」
テリオスは、涙を零しながら小さく頷いた。
「だったらよぉ……姉ちゃんに嫉妬してる暇があんなら……テメェの剣と、もっと死ぬ気で向き合えや!!」
(……敵わぬ……)
涙が止まらないテリオス。
その姿に、モルガンの目からも静かに涙がこぼれた。
(ムサシめ……よくぞ言ってくれた……!)
「まったく……私たちにはネタバラシしときなさいよね」
アリシアは目を潤ませながら、笑った。
「ふふっ。本当ですね、アリシア様」
クリスは優しく微笑んだ。
バーバラは誰よりも号泣していた。
(……ムサシさん……もう反則です……大好きって言いたいよぉ……テリオス、良かったね……)
闘技場は、誰もが静かに感動していた。
「そこまで!!ムサシの勝利とする!」
モルガンが宣言する。
「テリオス!!何か言うことはあるか?」
テリオスはその場に膝をつき、頭を下げた。
「……皆様!このテリオス、性根を改め、一から剣を磨き直し、生涯かけてこの城を、この国を守っていくことを誓います!!どうか、今一度──仲間として受け入れて頂きたい!!!」
場内が静まり返る中──
「テリオス殿~~!!今後も力を合わせ、この国の柱として共に戦おうぞ~~!!うおおおおおおぉぉぉ!!」
サイラスの絶叫が響き渡った。
「サイラス……!!」
テリオスの目に、希望の光が宿る。
「さあ!これにて議会は終了だ!皆の者、宴の準備に取り掛かれ!!勇者たちを、名誉にかけて盛大にもてなすのだ!!」
「はっ!!!」
城の人々は勢いよく動き出す。
「よし、いい感じに腹が減ってきたぜ。たらふく頂くとするか!」
ムサシがにやりと笑った、その時──
「ムサシさん!宴まで、少し時間があります……それまで、お手合わせ願えませんか!?」
「……いいぜ。望むところだ」
アリシア、クリス、バーバラ、そしてモルガンは、剣を撃ち合う二人の姿を、静かに見守っていた。
(コジーロ……あなたが育てた子は、私とあなたの子を……救ってくれたよ)




