第七十九話 もう一人の母
——アヴァロット城下町。
暴走していた魔法ロボットは、兵士と補修員の手で全て鎮圧・修復され、破壊された建物の修繕も完了していた。
広場に集まった兵士達の前に、モルガン、テリオス、幹部達、そしてアリシア一行が立つ。
モルガンは、高らかに宣言した。
「皆の者!街の修復は完了した!!そなたたちの迅速な処置に、心より感謝する!!これより城に戻り、住民たちを解放する!」
「はっ!!」
兵士達は一斉に敬礼する。
モルガンは、今度はアリシア達の方を向いて、声を張った。
「そして──先の戦いにおける、完全勝利の立役者!
勇者アリシア一行に、今一度、惜しみなき感謝を!!
一同、敬礼!!」
「ありがとうございました!!」
兵士たちの声が広場に響く。
一行はそれぞれの笑顔で応え──
そのまま、モルガン達と共にアヴァロット城へ帰還する。
城門が開かれると──
そのロビーのような広い空間には、避難していた住民たちが押し寄せ、怒号が飛び交っていた。
「おい、終わったのかよ!」
「いつまでこんな所に閉じ込める気だ!? この無能どもが!!」
「女王を出せ!!」
サイラスが前に出て声を張る。
「皆さん、静粛に!!魔物はすべて撃退し、街の修復も完了しております!これより皆さんを、順次解放いたします!」
だが、怒りは収まらない。
「また同じことが起きたらどうすんだよ!?」
「安心して暮らせねぇぞ!?」
「今までだって“万全のセキュリティ”って言ってたくせに、なんなんだよ!」
「そうだ、そうだ!!」
サイラスは、くっと唇を噛んだ。
「サイラス、下がれ」
モルガンが前に出て、住民たちに頭を下げた。
「此度の騒動、すべて我が責任だ。本当に、申し訳ない」
「………」
「二度とこのような事態が起こらぬよう、セキュリティ体制の根本的な見直しと強化を行う。
安心して“自己実現”を追求できる国を、私は必ず築き直す。どうか、信じてほしい」
「……ママ……」
バーバラが、小さく呟いた。
だが──
「どうするんだよ具体的に!」
「信用なんてもうできねえよ!」
文句は、止まらない。
アリシアが、こめかみに青筋を浮かべたその時──
「いい加減にしろおおおおおおお!!!!!」
場内に怒号が響き渡る。
ざわめく住民たちの中から、ひとりの女性が姿を現した。
「……ママさん!?」
バーバラが目を見開く。
そう、あの喫茶店の店主──ママさんだった。
ママさんは住民たちに向かって叫ぶ。
「アンタたち!!
この国に……女王様の政策に……どれだけ世話になってきたのか、ちゃんと思い出しな!!
こんなに恵まれた国、他にどこにあるのさ!?
生きるのに困らない暮らしをさせてもらって、一度トラブルがあっただけで罵詈雑言!?
ふざけんのも大概にしな!!」
静まり返る広間。
バーバラの目に、涙が浮かぶ。
自分の店を取り上げられ、誰よりも傷ついたはずのママさんが──
誰よりも女王を敬い、怒り、叫んでいた。
すると──
「……私も……この国が好き!この国じゃなきゃ、私は幸せでいられる自信がない!」
「俺もだ!この国じゃなきゃ、俺のやりたいことはできない!」
「この国じゃないと……この子達を一人で育てることなんて、無理よ……」
「この国のためなら、なんだってするさ!」
「私も!!」
「俺も!!」
ママさんの声がきっかけとなり、確かな熱量を持って、住民たちが次々に声を上げ始める。
非難していた者たちは徐々に沈黙し、その場は収まっていった。
住民たちは、それぞれの思いを胸に、街へと戻っていった。
「……ママさんっ!!」
バーバラはたまらず駆け寄り、彼女に抱きつく。
「ありがとう……!ごめんね……!」
「バーバラちゃん!!無事でよかったぁぁぁ!!心配してたのよ〜〜!!」
アリシアは泣きながら拍手。
クリスは目を潤ませながら頷き、
ムサシはどこか誇らしげに微笑んでいた。
その時、モルガンがママさんに近づいた。
「あなたが……あの喫茶店の……?」
「はっ……!申し訳ありません女王様!出すぎた真似を……!!」
「待って」
モルガンが手を差し出す。
そのまま、しっかりと両手で握手を交わす。
目を見つめ、モルガンは震える声で言った。
「……本当に……本当にありがとうございました……」
それは、バーバラの人生を支えた人物への感謝と敬意、そして、自分が無慈悲に下した決定への後悔の涙だった。
「……ねえ、ママ……」
バーバラがそっと声をかける。
モルガンは、娘が何を言いたいのかを悟り、優しく微笑んで応えた。
「わかっているわ。お店は、すぐに戻します。この国には———このお方の心に触れられるお店が、必要よ」
バーバラは、ぱあっと笑顔を輝かせた。
「ママさん!!」
彼女はママさんの方を向き、満面の笑みで叫んだ。
ママさんは、感極まってその場に崩れ落ち、土下座する。
「ありがとうございます……モルガン様!!本当に、ありがとうございます〜っ!!」
アリシアとクリスはハイタッチで喜び、
ムサシはひとり拳を握って嬉しそうに笑った。
少し戸惑いながらも、モルガンは慌てて言う。
「そんな……頭を上げてください!」
そして、振り返り叫んだ。
「テリオス!すぐにこの方の喫茶店を元通りにして差し上げて!!」
「はっ!!」
テリオスは作業員を引き連れ、すぐさま街へと駆けていった。
ママさんも、モルガンにもう一度深々とお辞儀し、涙を拭きながらその後を追った。
残されたその場で──
「……ねえ、ママ?」
バーバラがもう一度呼びかける。
「ん?」
「大魔王倒して、帰ってきたらさ………一緒に、ママさんのナポリタン、食べに行こう!すっごく美味しいんだから!!」
モルガンは顔を赤くしながらも、こらえきれずに涙ぐみ、
優しく──心からの笑顔で頷いた。
「……ええ。楽しみにしているわ、バーバラ」




