第七十八話 勝鬨(かちどき)
──上空では、クリスとエルギーノの戦いが続いていた。
互いの肉体を削り合う死闘。
腕が飛び、脚が飛び、腹に風穴が空き──
即座に再生する。
正真正銘、化け物同士の戦いだった。
「君さぁ、完全に魔物だよね? なんで勇者の味方してんの?」
黒い稲妻が放たれ、クリスの左腕が肘から先まで吹き飛ぶ。
右腕で閃光を放ち、エルギーノの顔の左半分が消し飛ぶ。
そしてどちらも、再生する。
「君、面白いからさぁ、一緒に四魔王やらない? 二人死んで席空いてるから、ジャダムさんも歓迎すると思うよー」
クリスは無視し、淡々と閃光を撃ち続ける。
「ねぇ、少しくらい喋ってよ。僕、友達いないからさー。なんか今、すごく楽しいんだよねー」
エルギーノは両腕を広げ、左右の掌に黒いエネルギーの球体を浮かべた。
「とっておきだよ!」
──その瞬間。
ズバン!!
下から飛来した斬撃が、エルギーノの両腕を斬り飛ばす。
「……あ?」
「ヒエ・テローガ!!」
二つの猛吹雪が合わさり、エルギーノの身体を襲う。
──カチン!!
エルギーノは、氷塊となって空中に凍りつく。
そして──
「ケシ・トーベ」
黒い閃光が、凍ったエルギーノの胸から下を消し飛ばした。
無論──急所の股間も、消し飛んだ。
「……あーあ。まあ、最後に楽しめたからいっか。
じゃあね、黒い僧侶くん」
そう言い残し、エルギーノの身体は光となって霧散した。
──勝利である。
その瞬間、クリスの髪が白く戻り、重力に引かれて落下する。
「……え? うわああああぁ〜〜!!」
「ウカ・ビーナ!!」
バーバラの魔法が、地面ギリギリでクリスをふわりと浮かせる。
そのまま、両足で無事着地。
駆けつける仲間たちの表情を見て、クリスは理解した。
「……バーバラさん。ありがとうございます。──勝ったのですね」
バーバラは満面の笑みで答えた。
「うん。勝ったよ!!」
ムサシは笑みを浮かべ、肩を叩く。
「次こそは負けねぇぞ。お前に」
アリシアは駆け寄り、彼を抱きしめる。
「お疲れ様……クリス」
「ありがとうございます……アリシア様」
「うおおおお〜〜〜!!」
サイラスが感情の限界を超えて男泣きする。
テリオスは涙を流しながら、地面に頭を下げた。
「……勝った……良かった……本当に……皆さん、ありがとうございます!!」
「……あんまり泣くな、みっともない」
モルガンが、静かに笑って言う。
「……すみません、お母様……!……すみません!!」
バーバラは駆け寄り、モルガンに抱きつく。
「……ママ……!」
モルガンも、そっとその背を抱きしめる。
そして──
「……バーバラ……」
赤子の時以来となる、優しい手が、娘の頭を撫でた。
アリシアはその光景を見つめ、優しく微笑んだ。
「クリス! 兵士さんたち、みんな気絶してるの! 回復お願い!」
「はい!」
クリスは兵士たちの元へ走り、次々と回復魔法を施していく。
兵士達は、勇者達が四魔王を討ち取ったことを理解すると、歓喜と感謝の雄叫びを上げた。
モルガンは、その様子を静かに見つめながら、心の中で呟いた。
(……クリス……間違いない。あの時の……モーゼフと……"あの娘"の子)
そして──女王として声を上げる。
「皆の者!! 良くぞ生き延びた!!
すぐに街へ戻り、修復に取りかかれ!!」
「はっ!!!」
兵士たちが一斉に応え、街へと戻っていく。
「僕も、一緒に行かせてくれ!!」
テリオスもその列に加わった。
そして──残った者たちの前で、モルガンは膝をつき、地に頭を下げた。
「アリシア、クリス、ムサシ、そして……バーバラ。
もてなしは後ほど城でたっぷりさせてもらうとして──
この度は、本当に……ありがとう!!!」
「モ、モルガン様!? 頭を上げてください!!」
「頭をお上げください。我々は当然のことをしたまでです」
「おいおい、女王様に土下座されるなんて、なんか偉いことしたみてぇじゃねぇか?」
バーバラは、にっこりと笑って言った。
「ママ!! 私の仲間……最高でしょ!!?」
モルガンは顔を上げ、笑顔を返した。
「──ええ。最高よ!!!」
それは、女王でも教育者でもなく──
一人の母としての、心からの笑顔だった。
こうして──
四魔王エルギーノとの死闘は、
死者一人も出さず、
勇者たちの完全勝利で幕を閉じたのであった。




